出会い
「人の人生はその人のもの」
よく聞く言葉だ。当たり前のことだがそれ故にとても大事なこと。
誰にでも適応されるべきで、何人たりともそれを害していいわけがない。
しかし、残念ながらそれが適応されない者もいる。
私だ。
私、東雲 敦那は生まれた時から母親の"物"だった。
やることなすこと全てが母親の権威を守るためになるように育てられた。
勉強は一位を取ることは当たり前、二位に一回だけなったときには罵倒され頬を叩かれた。
習い事も基本的にはすべてやらされた。もちろん、やるからには上になることは当たり前。幸い、虚弱体質だったので運動系は免除された。
学校も母親が決めたところに通わされた。
そう、私は母親のステータスの一部でしかないのだ。
そして自分の理想を作り出すための人形。
私の感情が介入する余地などない。
そんな私は今日も親が決めたレールの上を歩く。
今日は、中間テストの結果が分かる日だ。テストの結果が出るとその日は必ず私の話になる。
私の嫌いな日。何も知らない人達が私のことを羨み、称賛し、嫉妬するから。
廊下の掲示板に張り出された中間テストの結果を見て皆が囁く。
『ねえ見て、また一位だよあの人』
『すごいよね。1年の頃からずっと一位なんでしょ』
『そのうえ美人だなんて最強じゃん。』
『でも身体が弱いらしいね。よく保健室にいるところ見るって。』
そう女子が話す横では男子が、
『まじで才色兼備って感じだよな、あの人』
『毎週レベルで告白されるらしいぜ。全部断ってるらしいけど。』
『家もすごいんだろ?由緒正しい家柄でお屋敷みたいな家に住んでるとか』
『らしいな。俺らごときが告白できる相手じゃねえよ。』
ほらね、何も知らないくせに。
でも、今日はここまでだった。
朝のHRが終わると、みんな別の話題で持ちきりになった。
私のクラスに転校生が来た。
彼女の名前は橋本 茉莉。
容姿端麗な金髪の笑顔がよく似合う女の子。
私とは正反対な女の子。
そんな彼女は私の隣の席になった。
さっきから隣が騒がしいのもそれが原因だ。
『茉莉ちゃんの金髪って地毛?』
『ねえ、LONE交換しよ~』
『Imstaやってる?』
『俺とも交換して~』
『今日の放課後カラオケ行こうよ~』
「ちょ、ちょっと待って。みんな、そんな一気にきかれても答えれないって~。」
そう困ったように苦笑いする彼女を無視して次々に話しかける。
『ていうかめっちゃ可愛くない?』
『わかる~。肌めっちゃきれいだし』
『茉莉さんって彼氏いるの?』
『うわ、それ気になる。どうなの?』
流石に可哀そうだ。しかもうるさい
「ん゛ん゛っ」
咳ばらいをするとみんなの視線が私に集まる。
「彼女困ってるじゃない。それにもう少しで1時間目始まるわよ。」
『わ~茉莉ちゃんごめんね~。』
『やべ、1時間目小テストあるんだった。忘れてた!!』
『そうだった!!』
『茉莉ちゃん、また昼休み喋ろ~』
そう言いながら人の群れは解散していった。
すると彼女はこちらに手を合わせながら
「マジ助かった!ありがとう~。えーっと......」
「東雲 敦那よ。別に、私がうるさいと思っただけだから。」
「それでも助かったよ~。ありがとね、しののん』
「しののん?もしかして私の事?」
「そう!東雲だからしののん!かわいいでしょ」
そう笑顔でピースしてきた。
「好きに呼べばいいわ。こっちから関わることはないでしょうけど、よろしくね茉莉さん。」
「え~仲良くしようよ~。そうだ!昼休みになったら学校案内してよ、しののん」
「嫌よ、第一なんで私なのよ。」
「だって、先生がしののんに案内してもらえって言ってたの思い出したから。それに生徒会役員なんでしょ?私、高速とかあんまりわかってないから教えてほしいなって」
面倒くさいタスクを押し付けられたな。
今日はいつもより体調が良くないから断りたかったんだけど、先生に頼まれたのなら仕方ない。
「仕方ないわね、簡単な案内でもいいならやってあげるわ。」
「ありがと~!しののんって優しいね」
「......そうでもないわよ」
「え、照れてるの!?かわいい~」
「うるさい、もうすぐで授業始まるわよ」
優しいなんて初めて言われた。
そんなことを思っていると予鈴が鳴った。
あぁ、また退屈な時間が始まる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
4回目の終鈴が鳴った。
先生が教室を出るとすぐに人が彼女のもとへ集まってくる。
彼女はみんながしゃべり始める前に席を立った。
「ごめん!昼休みはしののんに学校案内してもらう予定だから質問答えられなそう!」
そう答えると皆は不満げな態度を取り始めた。
「そういうことだから。そこどいてもらえる?昼食も取らないといけないし。あなたたちに構ってる暇ないの」
いい加減邪魔だったので、少し強めに言いながら私も席を立った。
「茉莉さん、行くわよ」
彼女を待たずに教室から出る。
「あ、待ってよ~」
パタパタと可愛らしい効果音が付きそうな走りでこちらに向かってくる彼女をすこし待ち、横に並んでからまた歩き始める。
「まずは知っておきたい場所とか無いの?」
「う~ん、お腹すいたし食堂行きたい!買い方とかも教えて!」
「分かった。じゃあついてきて」
私もお腹がすいていたので丁度良かった。
今日はいつもより私に向いている視線が多いな。
いや、私達か。
彼女は今日来たばかりだ。しかも美人ときた、それは注目の的だろう。
「なんかめっちゃ見られてんね、かわいいのも考え物だね~」
「でも見てくるだけで何もしてこないのは、しののんが隣にいるからかな~。
しののん近寄るなオーラ満々だもん。」
「うるさい。いちいち声かけられないだけ感謝しなさい。」
そう言うと彼女はクスクスと笑いながら「それもそっか」とつぶやいた。
好奇の目にさらされながらも食堂にたどり着く。
食券の前に連れていき買い方を教える。
彼女は少し考えた後、カツカレーを選んだ。
「やっぱ、元気をつけるならカツカレーだよね~」
少し鼻歌交じりで食券を交換しに行く彼女を横目に私も食券を購入する。
食券を交換して彼女がどこにいるかを見渡す。
姿は見えないが人が集まっている。多分あそこだろう。
面倒臭いが彼女のことだ、また困ってるだろう。
やはりいた。
案の定困った顔をしている。
「ねぇ邪魔なんだけど、どいてくれる?」
そう言うと人の群れは散っていく。
「また助けられちゃった、ありがとね。私ああいうの苦手でさ」
でしょうね。
「答えられないなら誰かに助けを求めなさい。私でもいいから」
「やっぱり優しいね、しののん」
「そんなことないわよ。早く食べなさい、そんなに時間無いんだから」
「また照れてる~」
うるさい。
仕方ないじゃない、「優しい」なんて誰にも言ってもらったことないんだから。
「他に知っておきたい場所はある?」
「そうだなぁ、図書室と音楽室、美術室の場所は知っておきたいかな。授業の時に場所わかんなかったらいやだし。」
「ていうか、ここの学食おいしいね!辛さもちょうどいいし」
「「ごちそうさまでした」」
昼食を食べた後は言われた場所を案内した。
「これで言った場所は全部案内したわよ、他はない?」
「じゃあ、最後に屋上行きたい!さっき女子が話してたんだ~。前の学校ではいけなかったから行ってみたくて」
「いいけど別に何もないわよ、期待しすぎないでね」
「やった~!」
ちょっと体調がすぐれないが、屋上に行くぐらい大丈夫だろう。
あ、薬飲むの忘れてた。
まあいいか。
全然よくなかった。
屋上に着くときには体調は最悪だった。
めまいはするしだるさと動悸もすごい。
「すご~い!屋上ってこんな感じなんだ~きもちい~!」
そう彼女は元気に動き回る。
いいなぁあんなに動き回れて、笑顔でいれて。
それに比べて私は何もできない。怖い顔をして人を怖がらせることしかできない。
私も彼女みたいになりたかった......な.........
「しののん、ありがとうね。案内してくれて......って大丈夫!?聞こえる!?おーい、しののん!しののん―――――――」
私の意識はそこで途切れた。




