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011:第6章「聖卵石の儀式」②

「シルフィーナさん、現在隣国へ王が特使を派遣しています。その理由はご存じですか?」

「はい、エリーナ様。技術交換の交渉ですよね。隣国は回復魔法よりも薬学が発達していますから、互いの得意分野を共有することで全体的な医療分野の底上げをする目的です」

茶会の席で問われた質問に答えると、王妃エリーナはにっこりと微笑んだ。

淡い金髪を結い上げた、気品に満ちた淑やかな笑み。

王妃はシルフィーナが目指す大人の女性としての理想そのものだ。

「さすが、よく勉強していらっしゃいますね。なにかとお忙しい時期だとは思いますが、引き続き周囲の国々との状況については最新の情報を得るようにしていてくださいね」

「はい。心がけさせていただきます」


週に一度の王妃様とのお茶会……という名の妃教育成果を見るための面談。

ここ二ヶ月はとくに王国と諸国関係について最後の詰め込みが行われていた。

昔はさすがのシルフィーナも王妃とのお茶会で極度に緊張していたが、既に妃教育を受け始めて数年。今ではエリーナ王妃が自分にとっての良き理解者であり導いてくれる心強い味方だと信じられる。


「リリムも、シルフィーナさんを見習わないといけませんよ? あなたにも少しずつ王家の者として任せることが多くなっていきますからね」

「はい、もちろんです、お母様」

そして、今日は珍しくクレムウェルの妹であるリリムウェル王女が茶会に同席していた。

金髪ふわふわの可愛らしい王女が自分の義妹(いもうと)になるのだと思うと、ことさら愛おしく思えてならない。

「リリムウェル王女、改めまして今後ともよろしくお願いしますね。ともに学んでいけたら嬉しいです」

「リリムとお呼びください。わたくしたち、義理の姉妹になるのですから」

「では、私のこともシルフィと」

「はい、ありがとうございます。シルフィ義姉様(ねえさま)

義理の姉妹。なんて素敵な響きなのだろう。

今まで(異常な)兄しかいなかったからこそシルフィーナの心は喜び弾んでいた。

きょうだいらしい距離感のなんと心地いいことか。


「リリムウェル様、新しいお茶菓子を用意しました」

会話を遮らない程度の微笑みを添えて、王女の使用人がワゴンに乗せて三人分のケーキを持ってきてくれた。

白い皿に乗せられたケーキは果物で彩り豊かに飾られて甘い匂いだけでもお腹が膨れそうだ。

見た目にも嗅覚としても十分に食欲をそそられる見事な一品である。

「専属の料理人に作らせた新作なのです。お母様とシルフィ義姉様にも食べてもらいたくて」

リリムウェル王女の心遣いに感謝しつつ、お茶とケーキで至福のひとときを過ごす。

勉強の成果を披露するのは緊張するけれど、こうして身近な女性陣だけでのお茶会はとてつもなく幸福だ。

ついつい勉強そっちのけでお喋りにも花が咲く。


「そういえば、エリーナ様の時は聖卵石の儀式は滞りなく行われたのですか? 聖獣はあの美しい銀狼ですよね?」

公式の祭典などで国王と王妃の側に控えている銀色の毛並みの大きな狼。

王家を守護する獣だと教えられていたけれど、まさか自分の首にかかっている小さな石から生まれたものだとは知らなかった。

「……実は、ここだけの話。少し困ったことがあったわ」

エリーナ妃の話によると、予定通りの日数では聖獣が生まれなかったらしい。

ただ、数日のみの遅れであったし、結婚式でのお披露目には間に合ったので支障はなかったそうだが。

「もしかして、個人差。魔力量の差みたいなものが関係するのでしょうか」

「おそらくは、そうね。わたくしはそれほど強い魔力は持っていないから少し時間がかかったのでしょう」

あなたは魔力が強いそうだから安心ね、と王妃は微笑んでくれたが、むしろ個人差があることがはっきりと分かってシルフィーナは少し不安が生じる。

(魔力の与えすぎで許容量を超える……なんて、ないわよね?)

シルフィーナは火・水・風・土の自然の基本四元素の魔力をもっている。

そういえば、クレルが自分の魔力を込めたとも言っていた。

彼の魔力は主に闇。

よって、既に聖卵石には五種類の魔力が込められている。

歴代の儀式記録もざっとは見てみたが、多種属性の魔力をもつ例は少なかったため、どういう結果になるかは分からない。

(でも、どんな子が生まれても絶対に可愛いと思うけどね!)

王妃様のように毛並みが美しい獣型なのか、雄大な翼をもつ鳥型になるのか。案外、手のひらサイズの小動物型の可能性だってある。


「お話ありがとうございました、エリーナ様。私も大切に聖卵石を育てたいと思います」

「ええ、これからもしっかりね」

「シルフィ義姉様、わたくしも儀式がうまくいくよう祈っておりますね」

未来の義母と義妹から微笑みを添えられて、シルフィーナは口に運んだ花の香りの紅茶を一層あたたかく感じた。



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