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翠銀のきらめきは廻る恋の道しるべ  作者: 湖都月さくら


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001:第1章「エメリス公爵家の翠玉双子」①

王国暦1010年。

十年に及ぶ人間と魔族の戦い。

その結末を――――『私』はこの目で見た。


「滅せよ、魔王クレヅェクル! 王国は……人の世界は、俺が守るっ!」


「ウィル! とどめを!」


共に戦ってきた多くの兵たちが見守る中、魔法で跳躍力を増した黒髪の勇者が高き上空から伝説の剣を全力で振り下ろす。

巨大な魔竜の爪をかい潜り、光の魔力を帯びた刃は一閃の煌めきで竜の身体を切り裂いた。


「グォオオオオオオアアアアーーーーーーッ!!」


荒れ地に広がる衝撃と断末魔。

その最期の咆哮は力を失うとともに魔竜から魔族の姿へと戻っていった。


「く……っ、我がっ、人間ごときに……っ」

倒れ伏した銀髪の魔王が蒼き氷の瞳に勇者の姿を焼きつける。

己の命を奪う者を、魂の奥深くまで怨嗟で刻み込むために。

「だがっ、たとえこの身が崩れさろうとも、いつの日か……我の魂は甦る。その時こそ、必ず……必ずや、王国をこの手に……っ」

しかし、魔王の呪いのごとき執念を前に、伝説の剣を手にした勇者も己の決意を声とした。

「無駄だ、魔王クレヅェクル! いくら何度甦ろうとも、人が……俺が……何度だって阻止してやる! 絶対にだ!」

そうして、ザクリ、と最期の音が鈍く響き、魔王だった者の身体が灰となって消え去った。

魔王の力が失われたと同時に空を覆っていた禍々しい黒雲が散っていき、隙間から太陽の光が少しずつ地上を照らしていく。

長き魔族との戦いが、今、終わったのだ。




「――――ウィル!」

傷ついた脚を引きずりながらも魔法使いの少女が懸命に駆けつけると、剣を鞘に収めた勇者の両腕がしっかりと受け止めてくれた。

「シルフィ、終わったよ。これで、すべてが」

「うん……っ、うん……っ、あなたが守ったんだよ! 王国すべての人たちを!」

なによりも、激しいこの戦いを生き残ってくれた。

こうして互いを抱きしめて、ぬくもりと鼓動を分かち合うことが、こんなにも嬉しい。

だからこそ、共に生き残った奇跡に心から感謝して、互いに想いを言葉に乗せた。


「シルフィ……俺の花嫁になってくれるか? 故郷に戻ったら、すぐに」


「ウィル……!」


驚いたけれど答えはもう決まっている。

長く苦しい旅の中、何度も心折られながらも、そのたびに立ち上がってきた彼の心の強さに惹かれていたから。

未来を歩むのなら、彼の隣で歩みたい。


「これからも、ずっと一緒にいよう。どんな困難が立ちはだかろうとも、俺が君を必ず幸せにしてみせる」


「ええ、もちろんよ、ウィル。私も、あなたと共に時を重ねていきたいの」


戦いが終わり、始まるのは恋人たちの幸せな未来――――だと、私たちは心から信じていた。



◇◇◇



王国暦1215年。

勇者ウィルが魔王クレヅェクルを討ち倒してから二百年余り。

大国エルダイヤ王国は、勝ち取った平和を礎に繁栄を保ち続けていた。

魔族との戦いから学んだ兵たちは鍛錬に一層励んで防備を固め、民も勇者の不屈を胸に宿して襲いかかる天災に屈することなく、貴族たちも他国や領民たちとの交流を盛んにし、王国すべてが良き循環に満ちていた。


そんなエルダイヤ王国の王都には、とある公爵家の館があった。

中央直轄領の隣に広大な領地を持つ大貴族エメリス家だ。

領地にも館はあるが、王族にも縁が深く貴族との交流も多いため、公爵家の人々は大半の季節を王都で過ごしている。

そして、その館も王国の平和と恵みを大いに享受して、とても穏やかで……あったのだが、公爵夫妻が双子を授かってからというもの、館の中は常に愛の嵐が吹き荒れていた。


「おはよう、シルフィ! おれと結婚してくれ!」


「~~っ、するわけないでしょ! この馬鹿兄様!」


翠玉(エメラルド)色の長い髪がきらめく五歳の少女による鉄拳が、同じ髪色の少年の頬へと見事にめりこむ。

だが、赤くなった頬の痛みにめげることなく、快活な少年は少女の手を両手で掴むと、にぱっと笑顔を見せた。

「君の手すらも愛おしいよ。この指にいつか結婚指輪を……」

「はめないわよ! もう、いいかげんに離れてよね、ウィル兄様! それよりわたしは朝ごはんを食べたいのよ!」

食堂に辿りつくまでもう少し。

なのに、廊下で会ってしまったのは少女にとって災難だった。

「あらあら。今日もふたりは元気いっぱいね」

「うむ、子どもは騒がしいくらいがちょうどいい」

同じく食堂へと向かうところだった二人の両親は、毎朝お馴染みの光景を微笑みながら見守っている。貴族たるもの多少のことでは動じることなどないのだ。

「笑っていないで少しは助けてください、母様!」

解放してくれない兄に困った少女が助けを求めたものの、ぽわっとしたところがある母親は小首を傾げるばかり。

「でも、シルフィーナちゃんは本当に可愛らしいもの。ウィルフレッドちゃんが毎朝求婚したくなる気持ちもわかるわ~」

「……わからないでください」

なにごとにも理解に努める両親を尊敬はしているが、そんなところに理解はいらない。

「ははは、たまにはウィルフレッドの求婚を受け入れてあげたらどうだい? ん?」

そして、お気楽な父の方も幼い少女を助ける気など全くないようだった。

求婚というものは一度受け入れたら終わりだというのに。


「結婚なんてできるわけないでしょう! わたしたちは兄妹! しかも、双子なんだからっ!」

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