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1話 勇者一行VS魔王 最後の戦い

 暗闇が渦巻く玉座の間に、魔王は静かに佇んでいた。彼の姿は、まるで夜そのものが形を成したかのようだった。漆黒のマントが肩から流れ落ち、裾は地面に触れることなく幽霊のように揺れ動く。その下に覗く鎧は、深淵から鍛え上げられた金属でできており、表面には無数の戦いで刻まれた傷が、まるで栄光の証のように輝いていた。


 彼の顔は半ば影に隠れていたが、鋭く光る二つの瞳だけが闇を切り裂くように浮かび上がっていた。その眼差しは冷たく、まるで魂を凍てつかせるような威圧感を放ち、見る者の心に恐怖と畏敬を同時に植え付けた。額には歪んだ角が二本、天を突くように伸び、かつて神々に挑んだ証であるかのように禍々しく曲がりくねっていた。


 魔王の手には、巨大な剣が握られていた。刃は血のように赤く染まり、触れるもの全てを切り裂く呪いの力が宿っているかのようだった。彼が一歩踏み出すたび、大理石の床は震え、空間そのものが彼の存在に屈するかのように歪んだ。


 暗闇が渦巻く玉座の間に、重苦しい沈黙が響き合っていた。魔王は勇者一行を見据え、冷たく低いうなり声を漏らした。その声はまるで深淵の底から湧き上がる風のように、三人の心を微かに震わせた。

「勇者一行…よくぞここまで辿り着いた。褒めてやろう」


 魔王の言葉が大気を切り裂き、玉座の間に反響した。目の前には、三つの影が毅然と立ち尽くしている。鋭い眼光を宿した三人の男女――彼らは武器を構え、微塵も怯むことなく魔王を見つめていた。


 中央に立つ青年が一歩前に進み、剣を魔王へと突きつけた。刃先が微かに震え、彼の決意を映し出すように光を放つ。「これが最後の戦いだ、魔王。お前を倒し、全ての悲劇を終わりにする。」その声は硬く、抑えきれぬ怒りと確信に満ちていた。


  魔王は動じることなく、不敵な笑みを浮かべた。漆黒のマントが揺れ、影がさらに濃さを増す。「ほう、まさかお前が神アステリアより勇者の力を授けられるとはな…たしかシオン・エバレットと言ったか。」


 彼の瞳が青年を捉え、まるでその魂を値踏みするように細められた。「正直、我は後ろに控えるその二人、アマゾネス族の女戦士トライナ・ヴァルキリア、それと大賢者トーリス・エリスティア――どちらかが勇者の名を継ぐものとばかり思っていたぞ。実力的にはお前らの方が上のはずだ」

 その言葉には、試すような挑発が滲んでいた。


 トライナが鋭く息を吐き、鞘から剣を抜き放った。彼女は流れるような動作で「霞の構え」を取り、金色の髪が戦いの風に舞う。筋肉がしなやかに動き、戦士としての誇りがその姿から滲み出ていた。「魔王、戦ってみればわかる、なぜ私たちではなくシオンが勇者に選ばれたのか」


 一方、トーリスは静かに杖を握り、目を閉じて呪文を紡ぐ準備を進めていた。長い白髪が彼の顔を縁取り、魔王の威圧にも屈しない意志を示していた。「神よりシオンが勇者に選ばれたとき、俺はなんの不思議も感じなかったよ。魔王よ、勇者シオンがお前の野望を打ち砕く」その言葉は静かだが、まるで予言のように重く響いた。


 魔王は嘲るように肩を揺らし、巨大な剣を軽く振り上げた。赤い刃が不気味な光を放ち、空気が一瞬にして冷え切る。「ならば見せてもらおうか、勇者シオン。そしてその背後に立つ者たちの力を。この玉座の間が、お前たちの墓場となるか、それとも我が終焉の舞台となるか――さあ、始めよう。」

 その声は深淵の底から響き上がり、戦いの火蓋を切った。


 「はぁぁぁっ!!」


 シオンが叫び、神アステリアから授かった聖剣を高く掲げた。剣は強い光を帯び、闇を切り裂くように輝いた。彼は力強く床を蹴り、全身の力を込めて跳躍し魔王へと真っ直ぐに切りかかった。


 魔王は表情を変えず、シオンの剣を自身の魔剣で軽やかに受け止めた。片手で握るその姿は余裕そのものだったが、シオンの聖剣から伝わる力が予想以上に強く、魔王の腕に微かな軋みをもたらした。眉をわずかに動かし、彼は咄嗟にもう片方の手で柄を握り直し、力を込めて押し返そうとした。

「ほう、思ったよりもやるではないか。」


 魔王の声は低く響き、依然として余裕の色を崩さなかった。しかし、シオンの剣はびくともせず、両者の力が拮抗したまま、火花が散るような緊張が玉座の間に満ちていた。


 そしてシオンと魔王の剣が拮抗し、火花が散る中、右側から静かな人影が現れた。トーリスだった。


 トーリスは両手を胸の前で合わせ、まるで大切なものを包むように指を絡めた。すると、手のひらから小さな火花が弾け、瞬く間に赤い炎が揺らめきながら浮かび上がった。炎が熱を帯び、空気が焦げる匂いが漂う中、彼は鋭い目つきで両手を前に突き出した。すると、炎は轟音とともに勢いよく飛び出し、火の龍のように魔王へと襲いかかった。


 トーリスの放った龍炎は凄まじい速さで魔王に迫り、咄嗟に右手を顔の前にかざして防ぐのが精一杯だった。炎が直撃し、さすがの魔王も顔を歪めて呻き声を漏らす。


「ぐっ…!」


その隙を逃さず、トライナが叫び声を上げて突進した。「どりゃあっ!」彼女の剣は目にも止まらぬ速さで魔王の胴を切り裂き、鋭い一撃が命中する。


「ぬぅ…!」


 魔王はダメージに顔を歪め、衝撃で吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。崩れた壁から煙が立ち込め、玉座の間を一時的に覆った。やがて煙が晴れると、魔王はゆっくりと立ち上がり、漆黒のマントを軽く払った。


「驚いたぞ。2年前、戦った時とは比べものにならぬほど強くなっている。これだから人間の成長は侮れん。魔族が何百年かけて得る力を、たった数年で手に入れるとは…我らにとって一瞬の月日に過ぎぬというのに。」

 魔王の冷たい瞳がシオンを捉え、口元が何とも言えぬ微かな弧を描いた。不思議なことにその表情はどこかうれしそうに見えた。


 「特に勇者シオン。2年前は二人に比べて実力が劣っていたというのに、神から勇者の力を与えられたとはいえ驚くべき成長だ。」


 シオンは何も言わずにただ魔王を鋭く見据えている。


 「期待していた以上だ。どうやらかなり楽しめそうだ。では今度は我から行くとしよう。」


 魔王はそう言い放つと、疾風のような迅さでシオンに襲いかかり、一瞬にして魔剣をその喉元に振り下ろした。暗黒の力が込められた一撃が空を裂く。シオンはとっさに身を翻し、間一髪で致命傷を逃れたものの、魔剣から溢れる邪悪な瘴気に全身が凍りついた。


「シオン!!」


 トーリスはシオンの名を叫びながら、シオンへと杖を向け魔法を発動する。杖の先端から柔らかな青い光が放たれ、シオンの体を包み込んだ。瘴気による凍てつきが解け、彼の動きが再び自由になる。シオンは素早く体勢を立て直し、聖剣を握り直して魔王を見据えた。


「トーリス、助かったぜ」シオンが短く叫び、再び魔王へと向き直る。シオンが聖剣を強く握りなおすと剣は再び輝きだした。


 「シオン! 魔王の瘴気はただの毒じゃない。恐怖と混乱を心に植え付け、魂すら蝕む! 長く浴すればお前自身を見失うぞ!」 トーリスが警告する。その言葉はまるで仲間の命を繋ぎ止める呪文のように響いた。

 

 トーリスの警告にシオンの瞳が一瞬揺れたが、すぐに鋭さを取り戻した。彼は深く息を吸い、瘴気の冷たい圧迫を振り払うように声を張った。「ああ、わかった! トーリス、ありがとう!」 その声には、恐怖を跳ね除ける決意と、仲間への信頼が宿っていた。聖剣が再び光を放ち、闇を切り裂くように輝きを増す。


 「お前の相手はシオンだけじゃないよ!」


 今度はトライナが動いた。横から素早く動き、魔王の注意を引きつけるように剣を振るった。彼女の剣が空気を切り裂き、魔王の漆黒のマントをかすめて小さな裂け目を残す。

 

 魔王は一瞬トライナに視線を移し、その隙にシオンが再び跳躍した。聖剣が光の尾を引きながら魔王の胸元を狙う。魔王は咄嗟に魔剣を構え直し、シオンの一撃を受け止めたが、その衝撃にわずかに後退する。

「ふっ…面白い!」魔王の声に僅かな興奮が混じり、戦いの熱が玉座の間をさらに支配し始めた。


 玉座の間は、剣戟の響きと魔法の残響で満たされていた。シオンの聖剣が放つ光が、魔王の赤黒い魔剣とぶつかり合うたび、火花が闇を切り裂くように飛び散った。トライナの鋭い剣撃が魔王を牽制し、トーリスの魔法がその隙を突く。三人の息は乱れながらも、互いの動きに呼応するような完璧な連携を見せていた。


 だが、魔王はなお余裕を崩さなかった。彼の漆黒のマントが翻るたび、瘴気が濃密な霧となって玉座の間に広がっていく。空気が重く、まるで肺に鉛を流し込まれたかのように息苦しい。瘴気はただの毒ではなく、まるで生き物のように心の隙間に忍び込み、恐怖と疑念を囁きかける。


 「くそっ…この瘴気、体が思うように動かない…!」 トライナが歯を食いしばりながら呟いた。彼女の剣はなおも鋭いが、刃先に微かな躊躇が生じていた。金色の髪が汗で額に張り付き、戦士の誇りを湛えた瞳が一瞬曇る。過去の戦いで失った仲間たちの顔が、瘴気の幻影となって脳裏をよぎり、彼女の心を締め付けた。


 トーリスもまた、杖を握る手に力を込めながら眉を寄せた。「この瘴気…心を乱す力が強すぎる。結界を張っても、完全には防げん…!」 彼の声には焦りが滲み、普段の冷静な大賢者の姿に陰りが見える。瘴気が織りなす幻が、彼の記憶に刻まれた失敗を呼び起こし、呪文の詠唱にわずかな乱れを生じさせていた。


 シオンも例外ではなかった。聖剣を握る手が汗で滑り、胸の奥に冷たい恐怖が広がる。瘴気の囁きが、彼の心に問う。お前は本当に勇者なのか? 仲間を、皆を守れるのか? かつての無力だった自分、救うべき人たちを救えなかった夜の記憶が蘇り、彼の足を一瞬鈍らせる。


 「ふん…見ろ、勇者ども。瘴気はお前たちの弱さを暴く。」 魔王の声が低く響き、嘲笑が玉座の間に反響する。「仲間への信頼、己への確信――それらが揺らげば、お前たちの剣は我に届かぬ。」 彼の瞳が三人を値踏みするように細められ、漆黒のマントから溢れる瘴気がさらに濃さを増す。


 その言葉に、トライナの肩がわずかに落ち、トーリスの呪文が一瞬途切れた。シオンの瞳も揺れ、聖剣の光が微かに弱まる。玉座の間を支配する闇が、三人の心を飲み込まんばかりだった。


 だが、その瞬間、シオンが大きく息を吸い込んだ。彼は聖剣を両手で握り直し、震える足を踏みしめる。瘴気の冷たい指が心を締め付ける中、彼は目を閉じ、仲間との旅路を思い出した。トライナの不屈の笑顔、トーリスの静かな支え、共に戦い抜いた無数の夜。それらが、彼の胸に熱い炎を灯す。


 「…負けるかよ。」 シオンの声は小さく、しかし確かな力を持って響いた。彼は目を開き、魔王を真っ直ぐに見据える。「お前の瘴気なんかに、俺たちの絆は壊せない!」


 その言葉に、トライナとトーリスがハッと顔を上げた。シオンの瞳には、恐怖を焼き尽くすような決意が宿っている。彼は一歩踏み出し、聖剣を高く掲げる。「トライナ、トーリス! 俺たちはここまで来たんだ! 仲間を信じて、俺を信じてくれ! 絶対にこいつを倒す!」


 シオンの叫びは、瘴気の重苦しい霧を切り裂くように玉座の間に響き渡った。トライナの唇に戦士の笑みが戻り、彼女は剣を握り直す。「ふっ、言われなくてもそのつもりだよ、シオン! 見せてやれ勇者の力ってやつを!」


 トーリスもまた、静かに頷き、杖を構えた。「シオン、よく言った。瘴気ごときに心を乱されてたまるか。行くぞ!」 彼の声は落ち着きを取り戻し、呪文の詠唱に新たな力が宿る。


 シオンの鼓舞に呼応し、トーリスが新たな呪文を紡ぎ始めた。杖の先端から黄金の光が溢れ、玉座の間に暖かな輝きを広げる。「シオン、トライナ! 準備しろ! この魔法で瘴気を一気に払う!」 光が膨張し、瘴気が悲鳴のような音を立てて後退する。魔王の周囲に漂っていた黒い霧が薄れ、初めてその表情に苛立ちが浮かんだ。


 「今だ、行くぞ!」 シオンの号令に、トライナが風のように駆け出す。彼女の剣が魔王の鎧を狙い、鋭い軌跡を描く。魔王は魔剣で受け止めるが、トライナの連続攻撃に一瞬動きが鈍る。その隙を突き、シオンが跳躍した。聖剣が光の尾を引き、魔王の胸元を狙う。


 「愚かな人間どもよ! この瘴気は我が力そのものだ!」 魔王が咆哮し、魔剣を地面に突き立てる。地面から黒い波動が爆発的に広がり、瘴気が再び濃密に渦巻く。トーリスの結界が軋み、黄金の光が揺らぐ。魔王の鎧が不気味な光を放ち、傷だらけの表面が脈動し始めた。


 だが、シオンは怯まなかった。「まだだ! 俺たちは諦めない!」 彼の声は揺るぎなく、聖剣の光が再び強さを増す。トライナとトーリスがその背後に立ち、互いの視線で意志を確かめ合う。三人の心は一つとなり、瘴気の闇を打ち砕く光となって魔王に迫る。


 「ふん、シオン・エバレット。最初はお前を最も脆いと見做した。だが…この瘴気の闇を前に、なお揺るがぬその心。見くびっていたぞ。真の強さは、剣ではなく魂に宿るか…! 神がお前を勇者に選んだ理由はこれか。面白い! さあ、来い。我の力をこの程度と見くびるなよ。全力でお前に絶望を与えてやる!」

 

 魔王が魔剣を振り上げると、瘴気が黒い嵐となって渦巻き、玉座の間を震わせた。空気が凍りつき、恐怖の囁きが三人の心に忍び込む。だが、シオンは聖剣を握り、揺るぎない瞳で魔王を見据えた。「絶望か…そんなもん今までにいやってほど与えられてきたよ。だけど俺たちはもう絶望なんかでこの戦いを終わりになんてできねーんだよ。…魔王。終わらせようぜ 」


 トライナとトーリスはそんなシオンを見て笑みを浮かべる。

 

 シオンの言葉に魔王の瞳が一瞬鋭く光り、三人の顔を見据えた。


 「瘴気の深淵を前に、なお燃える魂か。シオン・エバレット、お前の言葉には弱者とは異なる響きがある。神が選んだ勇者の真髄とは、これか…! ならば、我が闇の全てでその光を試そう! 」


 シオンは不敵に笑い、聖剣を構えた。「トライナ、トーリス! もう疲れたぜ。魔王ぶっ倒して、酒でも飲んで寝よう! 」


 トライナが剣を振り、豪快に笑う。「はっ、シオンらしいね! 酒はお前のおごりだ!」

 トーリスが静かに微笑み、杖を握る。「ふ、報酬で豪遊だな。シオン、行くぞ!」


 シオンの掛け声が響き、三人が一斉に駆け出した。

めちゃくちゃゆっくり更新していきます。ご了承ください

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