【4分ドラマ】はじまりの朝、あるいは最後の朝
朝、目を覚ますと、いつもと何かが違っていた。
何が違うのかはハッキリとは言えないが、とにかく身体に違和感があった。
身体の調子が悪いのかといえば、そういったわけでもない。
いたって普通なのだが、やはり何かが違う。
毎朝のルーティーン通り、PCに電源を入れ、眠っている間のニュースをチェック。モニターを眺めながら歯ブラシをくわえる。
私は朝食を摂る前に歯を磨く人間である。
先に歯を磨くことにより、歯に汚れが付きにくくなる。
そのうえ「食後30分は歯を磨くべきではない」という近所の歯科医からの指導も守ることが出来るという、朝には合理的な習慣だ(食後はうがい程度で済ませている)。
ネットニュースの見出しを眺めていると、私と同じ「左利き」に関する記事タイトルを見つけたのでマウスをクリック。
ん、クリック……?
私は普段、左利き用のマウスを使用している。
が、いま私の手元にあるのは、どういうわけか右利き用のマウス。
その割には操作がスムース……これはいったいどういうことだ??
そういえば、歯ブラシも右手で……
階下に響かないように片足ケンケンを左右両方の足で試してみた。
これに関しては、そもそも普段だったらどういった結果になるのかも不明なので、無意味であることに気づき、途中でやめた。
鏡の前でネクタイを締める。
やはり逆手だ。
◇
家を出て、メシを食い忘れたことに気づき、近所の喫茶店へと入る。
「あれ、平日なのに珍しいですね」
顔なじみのウエイトレスがやって来た。
「ああ……家を出てから朝食を食べ忘れたことに気づいてね」
「アハハ、なんですか、それ」
「とりあえず、モーニングセットBで」
「Bですか、珍しい」
あれ、普段の私はAセットの方を頼んでいたんだったか?
5分でセットを食べ終え、ホットコーヒーを飲み干す。
いつも始業30分前には出社しているので、まだ時間には少々余裕があるのだが、早く会社の様子も見てみたいので早々とレジへ。
「それにしても×××さん、なんかいつもと雰囲気が違いますね」
「えっ、どう違う?」
「んー、なんていうか……普通?」
「普通ってなんだよ、普段はまるで普通じゃないみたいじゃないか」
「いやー、なんか普通ですよ、良い意味で?」
◇
ウエイトレスが持った違和感の正体は、やはり左利きが右利きになっていることに関係するのだろうか?
そんなことを考えながら、駅の方へと向かっていると――
「「ドッペルゲンガー!?」」
―― 地下鉄への階段入り口前。私とは反対方向から現れた私そっくりな男。
そっくりを通り越し、鏡映しとも言えるその姿。
お互い、最初のひと言以降、絶句したまま立ち尽くす。
駅に来たほかの通勤客たちも、驚いたり、ニヤニヤしながらコチラをチラ見。
「あ、あんた、いま……何利きだ?」
声を振り絞って、もうひとりの私に問いかける。
「へっ?いや、その……左利きだけど?」
「違和感はないのか?」
「違和感?」
「普段のあんたは右利きではないのか?」
「いや、もともと左利き……だけど?」
―― ど、どういうことだ?
私はこの男と「入れ替わった」のでないのか?
私だけが「裏返った」とでもいうのか?
ドッペルゲンガーを見た瞬間、私はほぼ入れ替わりを確信していた。
普段とは左右が反転したような朝とドッペルゲンガーの登場。
安直に結びつけるなら、入れ替わりの可能性が一番高いと考えたからだが、どうやら違ったらしい。
「それにしてもアンタ、俺によく似てるね」
もうひとりの私が、余裕ありげに逆に訊き返してきた。
「似てるも何も……」
「今からどちらへ出勤なの?」
「どちらへって……」
「まあ、どのみちどこへも行けないんだけどね」
「……えっ、どういう意味だ?」
ニヤリと笑い、私からはもう興味をなくしたかのように背中を向け、地下鉄への階段を下り始める男。それまで私そっくりだったドッペルゲンガーが、私自身とは到底思えないような表情で笑った後、この場を立ち去ろうとしている。
私は慌てて、男を追いかけ――
「……いつつ」
階段の中腹にある踊り場にまで一気に転がり落ちた。
が、思っていたよりも痛くはない。後から激痛が来るのだろうか?。
一気に落ちたことにより、一度追い越したドッペルゲンガーが、また上から下りてきて
「もう、存在が消えかけているよ、アンタ」
「存在がって……」
ふと、着地するときにひねった左手に目をやると、手の後ろにある景色が透けて見えた。しかも手だけではなく、目に映る身体全体が透け始めている。
「んー、ちゃんと撮れるかな? まあ記念だし、ダメ元で1枚撮っておくか」
ジャケットの右ポケットからスマホを取り出し、レンズを私の方へと向ける男。
よく見ると、男はスマホを右手に持って構えている。
もちろん、普段の私は左手でカメラを撮影する。
短編小説を書く練習中です。
古典的な題材「ドッペルゲンガー」を使って、素人料理。
オチとしては、何らかの手段でドッペルゲンガーに本体を奪われてしまった主人公が、オリジナルとしての立場を失い、消失するというところまでのお話?
或いはパラレル・ワールド?
或いは――
感想、アドバイス等を頂けましたら、うれしいです。