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第9話 クレハの助言




「今日はどうしたのですか。ユースさん、リリーさん」

「気分転換も兼ねて、少し。特に目的はありません。おしのびです」

「そうでしたか。リリーさんは……ふふ、相変わらずですね。何よりです。それにしても素敵なお洋服! とてもよく似合ってます!」


 そう言うクレハはこの国では珍しい服装をしている。


「クレハさん、その服はどこのお国のですか?」

「さすがユースさん! これは大和やまとと言う海を越えたところにある島国の衣装でして、今流行りの“ハイカラ”と呼ばれる袴です。大和ははっきりとした色の服が多く、最近は赤色が人気なんだとか……。柄もこの国にはない珍しいものなんです!」


 クレハは服のこととなると気分が上がるおしゃれさんだった。

 クレハの家、アメリア伯爵家は交易系の商売をしており、その影響で異国の物を取り扱うことが多い。

 クレハのおしゃれ好きはその影響だ。

 学生時代もその影響で流行を作り続けていた。


「ここで話すのもなんですし、どこかでお茶でもしませんか? いいお店を知っていますよ。どうでしょうか」

「いいですね」

「そうしましょう」


 こうして急遽始まったお茶会は、城下町で近頃人気を集めるカフェで行われた。


「ここのアップルパイ、とても美味しいんです。私のおすすめはです。サクサクとしたパイ生地と甘いリンゴが最高なんです」

「ならわたくしはそれで。リリーは?」

「では、私も同じのを」


 紅茶が運ばれ、一息つく。

 とても落ち着く。

 雰囲気も明るく、素敵な場所だ。


「それで、デイビッド様とはどうなんですか? ユースさん」

「っ、どうって、なにも……」

「私の目は逃しませんよ。何かあったんでしょう?」

「……クレハさんには勝てそうにないです」

「それはどうもありがとうございます」


 何もない、わけではない。

 ただ、クレハに「デイビッドへの愛が薄れリリーへの想いが募るばかりになった」だなんて言えないのだ。

 気まずくなるユースティシアを察し、クレハは少し話題を逸らした。


「……なんだか懐かしいですね」

「?」

「ステラルーチェでの生徒会を思い出します。デイビッド様が会長、ユースさんが副会長を務めていた際、お二人はまさにステラルーチェの星と月だと言われていましたね」

「あぁ……そういえばそんなこともありましたね」


 ステラルーチェ学園の生徒会には五つの席がある。

 会長、副会長、書記、会計、庶務。

 三人が学生の時は会長がデイビッド、副会長がユースティシア、書記がリリー、会計がクレハ、庶務がハーヴィーだ。

 ハーヴィーというのははレイノルズ公爵家と昔から仲の良い家で、ユースティシアがデイビッドと婚約する前の婚約者候補だった。

 ルーファスを慕っていたハーヴィーと何度かユースティシアも会ったことがあった。

 ハーヴィーは次男だったため、今はルーファスを支えるべく右腕として働いている。


「フェリックス様とエレノア様以来の最愛ペアだと言われておりました」

「……そう、だったの」


 だが、あながち間違ってはいない。

 愛しているフリをしていたのは事実だったので、逆にバレていなくてよかったとも思う。

 でも、とクレハは続けた。


「私には全てお見通しですよ、ユースさん」

「!」

「一度、デイビッド様としっかり向き合ってみた方がよろしいかと思いますよ。それで解決できることもあります。嫌いなわけではないのでしょう?」


 やはり長年共にしたクレハは鋭い。

 的確にユースの心を突く。


「向き合う、ですか」

「はい。正面から向き合った方が案外スッキリ綺麗に終えられるものですよ」

「……そうですね。ありがとうございます、クレハさん」

「いいえ、どういたしまして。……あっ、アップルパイがきました! 美味しくいただきましょうか」


 そしてその数日後、クレハの助言もあって、ユースティシアはデイビッドと向き合うことを決め、王城に向かうのだった。



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