好き
『……あなたが好きです、フェリックス様』
とても小さな声だったが、フェリックスにはちゃんと聞こえた。
(す、き……? エレノアが、俺を?)
告白された本人は数秒思考が停止した。
一方、告白した方は赤面した顔を手で覆って隠して「い、今のは忘れてください……!」と言って縮こまってしまった。
「あー……エレノア、あの、えっと……」
意識が現実世界に戻ってきたフェリックスはエレノアと視線を合わせるため、同じようにしゃがんで尋ねた。
エレノアの想いを、確かめたかった。
「その、もう一回言ってくれる?」
「!!? 絶対嫌です!!」
頼み方が悪すぎてエレノアはもっとうずくまる。
(猛烈に拒否されてしまった……)
だが、フェリックスが思うのはいつも変わらない。
(どうしよう……めっちゃかわいい)
怒らせてしまったことよりもエレノアの可愛さが勝っている。
(エレノアが怒るときって大抵不満があるからなんだけど……今回のは恥ずかしさだよね? 照れてるんだよね?)
そう思うとすごくぐっとくるものがある。
(なんだこの可愛い生き物は。ぎゅって抱きしめていいのか? いや、でも、もっと怒るかな? けど照れ隠しで怒るエレノアはめっちゃ可愛いんだよな……すごく迷う)
今の小さくなってるエレノアを見続けるか抱きしめて恥ずかしさで怒るエレノアを見るかで迷うフェリックス。
そして迷った結果、フェリックスは後者にすることを選んだ。
真綿で包み込むように優しく、優しく抱きしめる。小さな体だとフェリックスは思った。抱きしめられたエレノアは「えっ、えっ……?」と困惑する。
(な、なんで抱きしめられてるの……?)
突然の出来事でびっくりするも、好きな人に抱きしめられている事実にあわあわする。
(わ、私、どうすれば……)
年齢は同じだが、やはり男性の方が体は大きく、がっしりしているのだと触れた感覚でわかる。華奢なエレノアと日々鍛えているフェリックスだと、それがよくわかる。
「〜〜っ」
「!」
どうしよう、どうしようと考えた末、エレノアは自分もフェリックスの背中に手を回し抱きしめた。
(変じゃない、よね? 痴女だって思われたりしてないよね?)
(あれ、嫌がってない? エレノア、嫌がってないのか? どうしよう、怒られると思って抱きしめたから、受け入れられた場合のこと考えてなかった……)
幸せな時間だ、と互いに感じた。
「……もう一回、好きって言ってくれない?」
フェリックスは二度目のお願いをした。
今ならエレノアにもう一度「好き」と言ってもらえる気がした。顔が見えないのが残念だが、さっきよりもエレノアの声が聞こえるはずだと思ったのだ。
「……好き、です。フェリックス様が、好きです」
好きが溢れて、止まらない。
「嫌いって言ったけど、でも、今は、好きです……っ」
あなたと出会って、恋に落ちた。
「いつも素直にまっすぐに見てくれるフェリックス様が、好きです……」
未来でも、一緒にいたい。
「大好きです……っ」
そうじゃなきゃ、嫌だ。
(……本当に、エレノアは俺を好きになってくれたんだ)
フェリックスはエレノアの「好き」を噛み締めていた。
(好きな子に「好き」って言われるの、こんなに嬉しいんだ)
予想はしていても、やはり、嬉しい。
「……りんご飴、お菓子作り、刺繍」
「……?」
「友人との時間、ヘアアレンジ、ドレス、ぬいぐるみ、動物、音楽、ダンス……」
一見、なにを言っているのかわからないが、だんだんとエレノアは理解した。フェリックスはすべてを言い合えると、エレノアから手を離して目を合わせた。
「これらは全部、エレノアの好きなこと、もの、だよね? 合ってる?」
エレノアは頷いた。
「これで好きになってもらえた?」
「っ、〜〜当てられなくても好きです」
それは本心だろう。
「じゃあ、約束を守ってもらおうかな」
「約束……?」
「忘れたとは言わせないぞ、エレノア。エレノアはあの日、俺がエレノアの好きなものを当てた場合、俺の願いを叶えるって約束をしたはずだ」
そう。もとを辿ればすべてはこの約束から始まっている。
『フェリックス様が当てた場合、私はなんでもひとつフェリックス様のお願いを受け入れましょう』
あっ、とエレノアは声をあげた。
「思い出したか?」
「っ、はい。……約束通り、フェリックス様のお願いは叶えます」
どんな願いでも、と付け加えてエレノアは言った。
「どんな願いでも? 本当に?」
「っ……ええ。どんな願いでも」
あなたの願いならなんでも、という思いは口に出せなかったけど。
「俺の願いだけど――」
ドキドキしながらエレノアは聞いた。
そして――
「エレノアに『フェリックス』って呼ばれたい!」
「……え?」
「だから、『フェリックス』って呼ばれたい。様付けじゃなくて、ちゃんと」
「……」
エレノアはしばしの間、固まったが、すぐに元に戻って言った。
「そんなことでいいんですか?」
「俺にとっては大事なことだよ」
「ほんとうに?」
「本当に」
真面目に言うので、エレノアは思わず笑ってしまった。
「え、な、なに? おかしかった?」
「おかしいですよ」
「そうかなぁ?」
「はい。とてもおかしいですよ、フェリックス様」
「エ レ ノ ア?」
「っ……ふぇ、フェリックス……」
「うん。それでいい!」
様付けがなくなったことに喜ぶフェリックス。
すると、エレノアが何かを思い出したのか、「あ!」と言った。
「どうかした?」
「いや、えっと……一個、フェリックスさ…………フェリックスが私の好きを当ててないことに気づいて……」
「え!? なになに?」
尋ねるフェリックスに、エレノアは少しの妖艶さを混ぜて耳元でささやいた。
「大好きです、フェリックス」
「〜〜っ!!」
耳まで真っ赤になったフェリックスを見て、エレノアはくすくすと幸せそうに笑うのだった。




