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高嶺の薔薇令嬢、百合メイドの愛を知る。  作者: 詩月結蒼
番外編 エレノアとフェリックス
26/29

約束




「えーっと……もう一回言ってくれる? エレノア」

「ああ、回りくどいことを言ってしまい、申し訳ございませんでした。直訳すると、形だけの婚約を要求していると言っているのです。フェリックス様」


 エレノアはストレートに言い切った。ものすごくストレートに言い切った。だから鈍感なフェリックスでもわかった。


(あれ? もしかして俺、嫌われてる?)


 もしかしなくとも嫌われているのだが、ポジディブ思考により確信はしていない。嫌われている疑惑を持ったことを褒めるべきである。


(でも……)

「婚約、してくれるんだ」

「我が家は公爵家で、フェリックス様は王族です。身分的につり合う立場ですし、悪い話ではありませんから」


 それは本当のことだ。


「エレノアは俺のことを好きじゃない?」

「はい」

「でも、婚約はしてくれるんだよね?」

「はい」


 政略結婚というやつである。


「そっか。……そっかぁ」


 フェリックスの顔が綻ぶ。

 エレノアはフェリックスのことを好きじゃない。だがそれでも、家のためだったとしても、自分との婚約を承認してくれた。それが、いや、それだけで、フェリックスは喜びを感じた。


「……なんで笑ってるんですか?」

「え? あ、ほんとだ。笑ってるね」

「……変わった人ですね、フェリックス様は」

「そうか?」

「はい。変わっています」


 これが恋というものなのか、フェリックスはエレノアからもらえるすべてを嬉しく思ってしまう。


――俺を見てくれてる。


 安心感すら覚えてしまうのはなぜだろう。どんなに冷たい言葉も、態度も、それが自分に向いていると思うと嬉しくなるのだ。

 フェリックスにも、それが異常なことぐらいわかっている。わかっているが、止められないのだ。


(おかしい、おかしいわ。なんで怒るどころか喜ばれてるのかしら……?)


 一方エレノアはそんなフェリックスに普通に引いていた。当たり前の反応である。こんなにも嫌いだとアピールしているのに、逆に好かれるのだ。不思議でならない。


(どうせこの人も、私の肩書きしか見ていないのに)


 ブラッドベリー公爵令嬢。

 それがエレノアの存在意義であり、肩書きだ。みんな、そこしか見ていないのだ。あとは見た目や、所作ぐらい。

 蝶よ花よと愛でられ育ったエレノアは、警戒心を強く持って成長した。


『あなたほど美しい女性を見たことがありません!』


 新しい女性に会うたびに言えるセリフだ。


『海のような素敵な髪色ですね』


 似た色の髪を持つ人に共通で言える。


『きっとここで会えたのも何かの縁。いや、運命に違いない!』


 証拠もないのによく断言できるものだ。


(嘘で包んだ言葉なんていらない)


 そんな言葉をもらうくらいなら、いっそ罵倒された方がマシだ。エレノアは嘘偽りのない真実を求めていた。


(けれど、どうしてかしら)


 エレノアの脳内で、フェリックスの言葉が復唱される。


『俺と婚約してほしい! エレノア!』


 きらきらと輝いたあの瞳を、言葉にこもった熱意を、エレノアは忘れることができない。


(上手な演技のはず……よね?)


 エレノアとフェリックスが会ったのはあれが初めてで、それ以前に会った覚えはない。だから政略結婚以外の理由でエレノアに求婚するはずがない。


――だが、なんの打算も無く素直な想いを口にしていたのだとしたら?


 馬鹿らしい考えなことは知っている。

 もしもの話なんて何の意味もない。


(……それに、仮にそうだったとしても、フェリックス様は私の見た目で選んだということだもの。結局外側しか見てくれてない)


 期待する分だけ自分が悲しむだけだ。

 なのに――


「なあエレノア。俺はエレノアが好きだ。どうしたらエレノアは俺を好きになってくれる?」

(……それ、本人に聞くこと?)


 フェリックスはエレノアの領域に踏み入ろうとする。拒否しても、正面から向かってくる。


(馬鹿な人。単純すぎる)


 だがそういう人ほど諦めさせるのは簡単だ。エレノアはそのことを一番よく理解している。


「私の好きなことすら知らないあなたを、好きになるとでも?」


 フェリックスはエレノアのことをよく知らない。故に、エレノアの好きなことすら知らないフェリックスを、エレノアが好きになることはない。

 だがフェリックスはこの程度でへこたれるような男ではなかった。


「わかった」

「……え?」

「エレノアの好きなことを当てればいいんだな? わかった。当ててみせるよ」

「……当てずっぽうは当たってても認めませんからね」

「何言ってるんだ? そんなことするわけないだろ」

(本当になんなの、この人)


 どこまでもまっすぐで、見ていて眩しい。


「……では、約束をしませんか?」

「約束?」


 エレノアは賭けを申し込んだ。


「フェリックス様が当てた場合、私はなんでもひとつフェリックス様のお願いを受け入れましょう」

「!」


 ですが、とエレノアは続けた。


「もし外れた場合、私との接触を必要最低限のみにしてくださいませんか?」

「……わかった。約束だぞ」

「はい。約束します」


 こうしてエレノアの賭けは始まった。

 そして――3ヶ月経っても、フェリックスはエレノアの前に姿を表さなかった。



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