出会い
それは運命かのように、フェリックス・グラントは目を奪われた。
「お初お目にかかります、ブラッドベリー公爵家の長女、エレノア・ブラッドベリーです……っ」
初々しい表情に、鈴の音のような声。
そんなエレノアに、フェリックスは恋をした。
そしてーー
「俺と婚約してくれ! エレノア!」
まだ11歳だった第一王子のフェリックスは初対面の公爵令嬢に一目惚れし、婚約を申し出た。そんなフェリックスの突然の求婚に瞬時に対応できるはずもなく、
「……えっと、いま、なんと?」
「俺と婚約してほしい! エレノア!」
「…………はい?」
かくして、二人の関係は至極稀な形で開始したのだった。
「で、何がどうしてそうなったのですか? 兄上」
「だから言っただろう? デイビッド。俺はエレノアに一目惚れして求婚したんだ」
「本当に兄上は嵐のような人ですね」
「嬉しいことを言ってくれるな、弟よ」
「今のどこに嬉しさを感じたのですか?」
デイビッドはフェリックスを尊敬している。だが、時々起こるフェリックスの突発的で予想外な行動には少々……いや、かなり呆れている。不思議な兄なのだ。
「ブラッドベリー家とのその後は?」
「とりあえず婚約はできたんだが……」
「え!? よくできましたね」
「ん? 何か言ったか?」
「……いえ、なにも」
言い直すのが面倒だったデイビッドは、フェリックスに話を続けるよう促した。
「エレノアとはあれから一度も会えていないんだ。早く会いたい……っ。この気持ちわかってくれるか? デイビッド」
「三日後に会いに行くのでしょう? それぐらい我慢したらどうですか。……あと、いくつか確認をさせてくれませんか? 兄上は初対面のエレノア様のどこを好きになったのですか?」
「ぜんぶだ」
「ぜんぶって……」
デイビッドは深いため息をつく。
(最近の兄上は変だ)
優秀、優秀と褒められまくったからなのか、フェリックスが気を抜いているようにデイビッドは見えた。天才には余裕があるのだと、デイビッドは思った。自分とは、違う。
「エレノア様のことはどこまでご存知で?」
「俺を試しているのだな、デイビッド。いいだろう。今日はたっぷりと時間がある。たくさん語ろう!」
「いえ、僕は語りませんよ?」
「冗談だ」
(兄上が言うと冗談に聞こえないんだが……)
フェリックスは熱弁し始めた。
「ブラッドベリー領は隣国側に山地を持つ大領地で、扇状地付近では果樹や茶葉の栽培が盛んに行われていてな、王国の食糧を支えている重要な地で……」
「ストップ。ストップです兄上」
「? どうかしたか?」
「なんでエレノア様の説明を要求したのにブラッドベリーの領地の解説を始めるんですか」
フェリックスはきょとんとしたあと、得意げに言った。
「いいかデイビッド。エレノアという女性を語るには、まず土台となる環境の説明から始める必要があるんだ。当たり前すぎる最低限の前提としてな」
「……よくわからないんですが。それと、最低限の前提にしては情報量が多くないですか?」
「普通だろ」
「兄上の普通は異常であることを覚えておくことを推奨します」
そのあと延々とエレノアについて教えられたデイビッドは、無駄にエレノアの情報を知ることになった。
そして三日後、フェリックスがるんるんの様子でブラッドベリー邸に行き、エレノアと会ったフェリックスは――
「婚約は承諾しましたが――私はフェリックス様のことを好きでもなんでもありませんし、愛を求めるつもりもありません。それを忘れないでください」
「…………え?」
エレノアに冷たく言い渡されたのだった。




