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第23話 終わりに向けて




「この場での突発的な婚約破棄をお許しいただくつもりはございません。けれど、デイビッド様には思い出していただきたかったのです。……遠い昔に抱いていた、デイビッド様の目標を」


 王を支える補佐の夢は、フェリックスへの思いに埋もれて見えなくなっていた。


(なんで、ずっと忘れていたんだろう)


 大事な夢だったはずなのに。

 忘れたくないものだったはずなのに。


「わたくしはちゃんも覚えています。デイビッド様はいつも、フェリックス様を支えたいとおっしゃっていた。尊敬していると、自慢の兄上なのだと、嬉しそうに言っていた」

「……僕は、兄上が誇らしかった」

「はい」

「……僕は、兄上が好きだった」

「はい」


 デイビッドの手を引いて先へ進むフェリックスが、デイビッドは未来の王だと思った。だけど、影で聞いた自分への悪口が、デイビッドの心を破壊し、フェリックスに嫉妬するようになった。


「……わたくしは、デイビッド様が好きです。でも、今はリリーの方が大事なんです。申し訳ございません」


 ユースティシアは、いつどんな時でもまっすぐに生きている。素直で、純粋で、見ていて自然と笑みが溢れるような、そんな女性だ。


「わたくしなりに、覚悟はできています。……リリー」

「はい。ユースティシア様」


 リリーがドレスの中からナイフを取り出す。ユースティシアはそれを受け取り、そして――


「! なにを……!」


 自身の長い髪を切り落とした。

 次にドレスに刃を向け、ざくり、ざくりと生地に刃を入れる。リリーと同じミニ丈ほどの長さになると、ナイフを捨てた。

 これはユースティシアの覚悟だ。


(嗚呼、ユース、君は……)


 どんな姿になっても、美しい。


「それではわたくしはもうただのユースディシアですので、ここにはふさわしくありません。失礼いたします」

「っ、ユース、待ってくれ!」


 ただのユースティシアはデイビッドの方を振り返って、妖艶に微笑んで見せた。


「いつかまた会えたなら、お話ししましょう。デイビッド王子」


 リリーを連れてユースティシアは会場から去る。最後に「デイビッド王子」と言ったのは、デイビッドと別れる印だ。

 リリーがユースティシアに伝える。


「アメリア家の馬車が外に用意されています。それで退出しましょう」

「ありがとうリリー」


 クレハもエレノアとフェリックスにお辞儀をしてこっそり会場から出る。残されたデイビッドは、呆然としていた。そんなデイビッドに、フェリックスが近寄った。


「デイビッド。よく聞け」


 フェリックスはゆっくりと口を開けた。


「俺は次代の王を目指す」

「っ……、そう、ですか」


 フェリックスこそがふさわしいと、デイビッドも思っている。


「そこで、俺はおまえの力を借りたい。俺一人の力じゃ、王にはなれない」

「!」

「フェリックス・グラントの名の下に、今この場でデイビッド・グラントを補佐に王を目指すことを宣言する!」

「っ、兄上、僕は……」

「拒否権はない。おまえには俺を支えてもらえなければ困る」

「兄上……」


 それはデイビッドが願ってもいないことだ。罰のように見えて、罰ではない。


「ありがとうございます、兄上。本当に、ありがとうございます……っ」


 デイビッドは自分を認められたような気がして、嬉しくて、救われた気がした。






「ティシア!」

「お兄様……!」


 馬車に乗ろうとしたユースティシアに、ルーファスが駆け寄った。


「満足いく結果になったか?」

「! はい。ありがとうございました」

「ならよかった。今のうちに急ぎなさい」


 リリーとユースティシアを乗せた馬車の扉が閉まる。


「アメリア家と好意にしてもらっている輪郭に案内してもらいます。またすぐに会えると思いますが、お気をつけて」

「ありがとうございます。クレハさん」

「協力に感謝申し上げます。クレハ様」


 二人を乗せた馬車が、ゆっくりと動き出した。



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