第18話 根回しする回
「おはようございますユースティシア様」
「! おはよう、リリー」
いつものように、リリーはユースティシアの前に現れた。
「……夢でも、見ていたのかしら」
「夢ではございません。仮にそうだったとしても、そんなこと、許しません」
「そう、よね」
「はい」
夢じゃなくてよかった、とユースティシアは思った。
(……さて)
ここからが頑張りどころである。
ユースティシアが着替えて一番に向かったのは兄・ルーファスの部屋だった。
「失礼します、お兄様」
「! ティシアが来るとは珍しいね。どうかしたかい?」
「少し、お話ししたいのですがよろしいでしょうか」
「……わかった。こっちにおいで」
ルーファスは何かを察し、防音の個室に案内した。
「それで、話というのは?」
「お願いがあるのです」
ユースティシアの話を聞いたルーファスは深いため息をついた。
「正気かい?」
それがユースティシアに言える言葉だった。
「公爵家の令嬢が……いや、王族の婚約者がそんなこと、できると思うのか?」
「わたくしの力だけではできません。だから、お兄様の力を貸していただきたいのです」
「……それを行うことによる利はなんだ。混乱がもたらされるのは確定事項だ。―――最悪、死罪だ」
それでも、とユースティシアは続けた。
「お兄様の力を借りたいと思っています」
「……」
ユースティシアの願いを叶えるためには、ルーファスの協力が不可欠となる。
利害ではない。
叶えたいかどうか、ただ、それだけだ。
「……本気か」
「はい」
数分の間静かな時間が過ぎた。
そして、ルーファスは決断を下す。
「わかった。ティシアに協力するよ」
「! お兄様……!」
「ただし、これだけは約束してくれ。……絶対に幸せになりなさい」
「〜〜はいっ!」
次にユースティシアが向かったのは王城だった。事前に約束した場所に向かうと、その人物はすでに待っていた。
「やあ。会えて嬉しいよユース」
「お久しぶりです。フェリックス様」
約束の場所は、雨の日に会った外の庭にある天蓋付きの小さな休憩所だ。二人とも婚約者を持っているのでフェリックスの自室で話すわけにも行かないし、公爵家とは言え、王族をレイノルズ邸に招くわけにもいかない。
互いの体裁を考えた結果、「偶然会っちゃった」と思わせるため、前に本当に偶然に会ったここを選んだ。
だが部屋と違い話は筒抜けになる。そこはリリーたち従者や護衛に任せて休憩所には近づかないようにお願いしてある。
だれも密会してるだなんて思わないだろう。
「で? 何を知りたいの?」
「前にお会いした時、フェリックス様が問われたことについて」
「デイビッドのことか」
「はい」
あの日、フェリックスが尋ねたことをユースティシアはずっと考えていた。
『デイビッドのことなんだが、ユースは、どう思っている』
それに対してユースティシアは
『一度決めたことを曲げずに貫き通すお方』
と答えた。
「あの時フェリックス様はわたくしがデイビッド様を愛しているかを訊いたのではないですか?」
「……」
普通、どう思っているかと聞かれ、それが愛する婚約者に対するものならば、「愛している」と答えるのが普通だ。だが、ユースティシアはそう答えなかった。
「試していたのですよね、わたくしを。デイビッド様を愛しているのかを、確かめるために」
「……そこまで当てられているのなら仕方がない。そうだよ。俺はユースがデイビッドを愛しているか知るために訊いた」
何故、とユースティシアが尋ねると、フェリックスは「ただ知りたかったから」と言った。
「ユースは迷っていたんだろう。今のデイビッドでいいのか。この国の未来を委ねてもいいのか」
「……はい」
「わかるわかる。最近デイビッドはおかしな方向に進んでいるからね。王になることが目的のように思える。王になることは始まりで、この国を発展させるのが大事なことなのに」
俺に対する嫉妬からそうなったのかもね、とフェリックスは笑って言った。決して笑い事ではないのだが、フェリックスはこういう人だ。それをユースティシアは知っている。
現在、王位争いはデイビッドが優勢だ。フェリックスが王位に興味がないのが影響している。
「それで、本題は?」
「お願いがあります。――――……」
ユースティシアの『お願い』を聞いたフェリックスは目を開き、そして、笑い出した。
「ふふっ、はははははっ! まさか、そんなことを頼まれるなんて……人生で一番笑ったよ」
「だめ、でしょうか」
「いや、だめとかそういうことじゃなくて……やっぱりユースは面白いなぁ」
まさかフェリックスに笑われると思っていなかったユースティシアは混乱する。
「まずね、それはそんな簡単に叶えられることじゃない」
「はい」
「でも、できたらすごく面白そうだ」
「それはよくわかりませんが……」
「素直で結構。要は、協力すると言ってるんだ」
「! 本当ですか!?」
「ユースの頼みだ。あいつにお灸を据えるいい頃合いだし、何より俺は楽しいのが大好きだからな」
「ありがとうございますフェリックス様!」
これでユースティシアの計画の骨組みが完成した。あとはいくつかの根回しと、時が過ぎるのを待つだけだ。
「他に協力者はいるの?」
「まだ声はかけていないのですが、アメリア伯爵家のクレハ様に協力を頼むつもりです」
「じゃ、エレノアにも頼んどくね」
「! いいのですか?」
ブラッドベリー家はユースティシアと同じ公爵家だ。
「ユースの願いを叶えるにはエレノアの協力も必要不可欠だしね。どうせやるなら最っ高にいいのをしたくないかい?」
「フェリックス様……」
「最高な出来事は最高な場所で。……ちょうど一ヶ月後、舞踏会がある。やるならそこが一番だね」
「はい。もとより、そこで行うつもりです」
「ならよかった。楽しみにしてるよ、ユース。いい舞踏会にしようじゃないか」
「ええ。よろしくお願いします」
そう言うと二人は別れ、ユースティシアはリリーと共にレイノルズ邸へ向かった。
「クレハさんに連絡を」
「かしこまりました」
やるなら徹底的に。
忙しくなりそうだとユースティシアは思った。




