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結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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55. 計画

「きゃぁ……っ!!」


 ぶたれた瞬間、痛みと衝撃とで頭が真っ白になった。そしてその勢いで床に倒れ込んだ私は、思わず叫び声を上げる。

 手にしていた書類が床に散らばり、私は倒れ込んだ姿のままで呆然とそれらを見つめた。


「ティ……ティファナ、すまない、つい……」

「失礼いたします! いかがなさ……、……っ!!」


 ラウル様が私に声をかけようとしたのと、騒ぎを聞きつけて侍女が飛び込んできたのとはほぼ同じタイミングだった。


「だ、大丈夫でございますか!?」

「……ええ。悪いんだけど、書類を集めてもらえる……?」

「し、承知いたしました……っ!」


 このヘイワード公爵家に嫁いできて以来最も私の身近にいて日々のお世話をしてくれていた彼女は、顔面蒼白になりながらも私の指示通りに慌てて書類を掻き集めてくれる。そして立ち上がる私に手を貸し、部屋から連れ出してくれた。

 まるで自分の方が暴力を振るわれたとでも言わんばかりにショックを受けた顔をして固まっているラウル様を振り返り、最後に一言だけ私は言った。


「……あなたってどうしようもない方ね」




 夜間ではあったけれど、侍女がすぐさま医者を手配しようとしてくれた。私は慌ててそれを制す。


「待って。……お願い。パークス先生ではなく、マーニー先生に診ていただきたいの」


 黙っていてはヘイワード公爵家のお抱え医師を呼ばれてしまうと思った私は、オールディス侯爵家でいつもお世話になっていた医師の名を口にした。ラウル様の都合のいいように証拠を隠滅されてしまっては困る。酷い目に遭ったけど、これもこちら側にとって有利に離婚訴訟を進める材料の一つになるのだから。

 侍女が医者を手配するために急いで部屋を出て行った後、私はソファーに腰かけたまま、しばらく呆然としていた。床を見つめていると、ふいに視界がぼやけ、歪みはじめる。

 自分がボロボロと涙を零していることにようやく気付き、手のひらでそっと頬を拭った。

 ぶたれたところがズキンと痛んだ。




「……腫れが残らなくて本当によかった。怖い思いをしたね、ティファナ」


 数日後。書類を持ってオールディス侯爵家に赴いた私の頬を、アルバート様の優しい手がそっと撫でる。父からの連絡を受け急遽駆けつけてくださったのだ。屋敷にサリアと義母がいなくてよかった。いたら王弟殿下の姿を見て大騒ぎしていたに違いないから。二人は今どこぞの伯爵家のお茶会に行っているという。


 父は淡々とした表情で渡した書類を見つめていたけれど、やがて落ち着いた声で言った。


「……ここまでされたのならもうよかろう。不貞を働き、娘に暴力をふるい、離縁状まで叩きつけてきたんだ。ヘイワード公爵の帰国を待たず、むしろ不在の間に方を付けてしまおうじゃないか。全てはラウル殿の不始末だ。泥は全て彼が被ることになる」

「ええ。俺も賛成です。あの男がこんな真似をした以上、ティファナ嬢をヘイワード公爵邸に置いておくことなど絶対にできない。今後どんな目に遭わされるか分かったものではないですからね。身の危険を感じて、急いでヘイワード公爵邸から逃げたということにしましょう。暴力の証拠はすでにあるのだから」


 あの夜、数刻後に駆けつけてくださったマーニー医師によって手当てを施された私は、その場で診断書も書いてもらった。そしてあの時部屋に入ってきてラウル様の凶行を見たヘイワード公爵家の侍女に、いざという時の証言も頼んだ。その場合もうヘイワード公爵家にはいられないだろうから、このオールディス侯爵家で雇うことも条件として話してある。

 アルバート様の言葉に父も頷いた。


「急ぎ荷物をまとめ、こちらへ引き上げてくるんだティファナ。公爵には私からも、帰国後にゆっくり説明するとしよう。都合の良いことに、こうしてラウル殿のサインまで済んだ離縁状が手に入ったんだ。これを置いておく手はない」

「ええ、オールディス侯爵。早急に役所に提出し、ティファナをオールディス侯爵令嬢に戻しましょう。そうすれば……ティファナ、建国記念の祝賀パーティーの場で、俺と君との婚約を皆に宣言することができる」


 アルバート様はそう言って私を見つめ、優しく微笑んだ。


「アルバート様……。陛下はお認めくださるでしょうか」

「もちろん。君は何も心配しなくていい。もうほとんど認めているようなものだよ。一応ヘイワード公爵と話をしてからとは仰っていたが、君がこんな目に遭った以上万に一つも離縁を回避する手立てはない。俺からも再度話しておくよ」


 頼もしいアルバート様の言葉に内心ホッとする。父も安心したようだった。


 入念に準備を整え、オールディス侯爵家の使用人や護衛たちを連れてヘイワード公爵邸から私の荷物を運び出すことになったのは、公爵夫妻の帰国予定を二日後に控えた日のことだった。









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