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4. 義母の過去

「あたしって、そんなにラウル様とお似合いに見えるの?」


 サリアの言葉に、私は少し面食らった。一応は彼の婚約者となった私の前で、そんな言葉を口にするなんて。


「ま、何を言ってるのかしらこの子ったら。そこまでは言っていないわ。ティファナさんに失礼でしょう? もう。……ただね、ヘイワード公爵令息のあの寡黙で真面目な雰囲気を見て、何となく思っただけよ。ティファナさんとは似た者同士、サリアとは正反対で、むしろあの方にとっては気さくで女性らしい雰囲気のサリアみたいな子の方が接しやすいんじゃないかしらって。あなたには愛嬌があるしね、ふふ。ま、でも男女の仲なんて分からないものですわよね、あなた」


 義母はそう言うとご機嫌をとるかのように、父に妖艶な笑みを見せる。


(……私は堅物そうで、愛嬌も女性らしさもない、とでも言いたいのかな。出会って日が浅いあなたたちとだから、まだ打ち解けて話せずにいるだけなんですけど)


 私だって、気心の知れた人たちの前では楽しく会話をするし、笑いもする。

 何だか不愉快な気持ちになってきた私とは真逆に、サリアは、


「えぇっ!? もう、やだぁお母様! 私ってそんなに愛嬌があるかしら。自分ではごく自然に話しているだけのつもりなんだけど。……あぁ、あたしがもっと早くにラウル様に出会えていたらよかったのにな~、なんて。うふふっ、もちろん冗談よ、お義姉さま」


などと言って笑いながら、頬を紅潮させている。


 ……どうもこの二人には、気遣いが足りない気がする。




 義母イヴェルも、父とは再婚、いや、再再婚なのだという。

 以前はガラッド子爵という年配の方の妻だったそうだが、その子爵も数年前に病気で亡くなったとのこと。父の話では、驚いたことにこの義母、元は平民だったのだという。最初の結婚相手は平民の男性。その時に出来た唯一の子がサリアとのこと。平民の妻から二度目の結婚で子爵夫人となり、そして今では侯爵夫人。すごい成り上がり人生だ。

 なぜ父はその人を選んだのだろうと、まだ義母を紹介される前に父から話を聞かされた時は、内心不思議で仕方なかった。けれど、初めて会った時に妙に納得した。

 義母イヴェルは、すごい美人だったのだ。サリアと同じく、真っ白な美しい肌。凹凸のくっきりとした、色気あふれる体。漆黒の長い髪は艷やかに波打っており、計算され尽くしているのであろうその微笑みは、女性の私でも思わずドキリとするほどに妖艶だった。

 これは子爵だろうが侯爵だろうが、大抵の男は夢中にさせられるだろう。しかも義母はまだ若い。サリアが16歳だから、30台前半から半ばくらいだろうか。

 愛する母を失ってしまい、残された長い人生を孤独に耐えながら生きていくことになった父が、思わず心を動かされたのも頷ける。この人の色気にグラリといっちゃったのかと思うと、多少の不快感はあるけれど、まぁ仕方ない。誰しも孤独は辛いもの。このイヴェルさんが父の寂しさを受け止め、そして父も、夫を亡くしたイヴェルさんを支える。そうして共に残りの人生を歩んでいけるのなら、二人にとってそれはとてもいいことだろう。私はそう思って、新しい家族を受け入れた。


「……ラウル君は、あくまでティファナの婚約者、そして近いうちに夫となる人だ。お前たちもそのつもりで、丁重に接してほしい」


 父も二人の言葉に思うところがあったのか、カトラリーを動かす手を止めて顔を上げると、真面目な顔をしてそう言った。途端に二人は満面の笑みを浮かべる。


「はぁい、お義父さま。分かっているわあたし。大好きなお義姉さまの旦那さまになるお方ですもの。仲良くしていただけるといいなぁ。うふふ」

「もちろんですわ、あなた。余計なお話をしてしまってごめんなさいね。あなたにはとても感謝しているの。サリアのことを、あの名門と名高いリデール王立学院に編入させてくださって……。ね? サリア。学院での生活がとても楽しいのでしょう?」

「ええ! とっても! 周りは素敵な方ばかりで、良い刺激を受けていますわ。お勉強はとても難しいけど、頑張るわね」

「……そうか。ならばよかった。ティファナも先日卒業したばかりだが、国内で最も格式高い学院であるだけに、学べる科目も多く、淑女教育も徹底している。しっかり励むといい」

「はぁい、お義父さま」


 二人の態度に気を良くしたのか、父の表情も和らいだ。その時義母イヴェルが、少し甘えたような色っぽい声で言った。


「卒業するまでには、サリアにも素敵なご縁をぜひお願いしますわね、あなた。この子にも幸せになってもらいたいわ。ヘイワード公爵令息のようなしっかりとしたお家柄の、安心して嫁がせられるお相手を、ぜひ……」

「ああ。きちんと考えよう」

「うふん。ありがとうお義父さま! あたしお勉強頑張るわねっ」


 サリアはカトラリーを置いて胸の前で両手を組むと、首をコテンと傾けて父に向かって微笑んだ。そしてその後、私に向かって同じ仕草で笑いかけてくる。


 調子を合わせて微笑み返しながらも、私は何となく彼女のことが鬱陶しくて、陰鬱な気持ちになってしまっていた。






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