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結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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40. 不愉快な女(※sideラウル)

(……何のつもりなんだ、ティファナのヤツ……。わざわざけしかけてくるとは)


 食事が終わり、互いの父親同士の話がますます盛り上がりはじめた頃、私は少し酔いでも醒まそうかというそぶりをしながらさりげなく席を立ち、屋敷の裏にある庭園に一人やって来た。


 一刻も早くティファナと離縁し、ロージエを妻として迎えたい。その気持ちは強いのだが、いざ目の前に父とオールディス侯爵の姿があると、とてもそれを言い出せる雰囲気ではなかった。あの二人は旧友同士であり、今ではどちらも国の重鎮。この結婚は互いの家の結びつきを強くし、そして互いの権力をより強固なものにしている。

 そこを全て壊してまでしがない男爵家の娘であるロージエを妻に迎えたいなどと、どの口で言えようか。やはり無理がある。

 しかしこのままグズグズしていれば、ロージエは近いうちに他の男のものになってしまう。どこぞの年老いた伯爵の後妻に……。


(冗談じゃない。それだけは絶対に駄目だ)


 私は全身全霊でロージエを愛している。彼女だけが純粋でひたむきな想いを私に向け、私だけを頼ってくれているのだ。私を尊敬し、愛し、縋りついてきてくれる、素直で可愛い女。


(……いっそのこと、ロージエを愛妾にする、というのはどうだろうか……)


 厳しい父の顔が頭の中を占め、そのうちにそんな考えがよぎる。ティファナとは愛のない上辺だけの結婚生活を続けたまま、ロージエを囲いそちらで生活を共に……、……いや、そんなこと誰も許さないだろう。


(ああ……、全く。どうすればいいんだ)


 庭園のベンチに腰を下ろし、夜の冷えた空気の中に重苦しいため息を放った、その時だった。


「ここにいらっしゃいましたのねぇ」

「っ!」


 突然すぐそばで甘ったれた猫なで声が響き、私は驚いて振り返った。


 そこにはバルコニーの柱にもたれかかるようにして手を添え、こちらを見ながら微笑んでいるサリアがいた。その姿を目にした途端、強い苛立ちがこみ上げる。


「……何の用だ。私は一人で休んでいたいのだが」


 意図した以上に冷え切った声が出た。しかしサリアは気にするそぶりもなく、うふぅんと気持ちの悪い妙な声を漏らしながらこちらに近付いてくる。


「お義父さまたちのお話がつまらなくって、あたしも抜けてきちゃったんですぅ。オジサマたちの話って、どうしてあんなに楽しくないのかしら。ね? ラウル様。……お隣、座ってもいいですかぁ?」


 その声色や喋り方、きつい香水の匂いやくねくねとした薄気味悪い仕草まで、全てが癇に障る。

 返事も聞かずに彼女が隣に腰かけようとした途端、私は立ち上がった。


「……どうぞゆっくりしていくといい。私はもう戻る」

「あんっ! 待ってラウル様。休んでいたいんでしょ? あたしもです。お願い、こんな暗い中に一人ぼっちは怖いわ。もう少しだけ、ここにいてくださいませ……。ね?」


 サリアは無遠慮に私の手首を掴んでこちらを見上げながら、小首を傾げてそう言った。肩や胸の谷間の露出の多さも相まって、この上なく下品に見える。思わず舌打ちしたくなった。


「……手を離してくれるか。不愉快だ。私はもう戻る。こんな夜更けに君と二人きりでこんな場所にいたと知れたら、あらぬ誤解を生むことになりかねないだろう」


 そんなことも分からないのか。

 その言葉だけはグッと我慢して飲み込んだ。


 ところがサリアは、信じられないようなことを口走る。


「誤解……、されても構いません、あたしは。あなた様となら」

「……は?」

「だってあたしはずっと、ラウル様のことだけをお慕いしてきたのですもの。初めてお目にかかったあの日から。……あたし、本当は気付いてました。ラウル様とお義姉さまの仲が、あまり上手くいっていないことを。お義姉さまがあんなキツい性格の方だから、きっとラウル様にもそれが露呈してしまったのだろうなって、そう思ってました。……違いますか?」

「……。だとしても、それは君には関係のないことだ」


 




 

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