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結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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25. 再び庭園で

 ところがその茶会が終わると一変、カトリーナは目を吊り上げて私を詰問した。この庭園にたどり着くまではニコニコといつもの隙のない微笑みを浮かべていたのに、二人きりになるやいなやキッ! と怖い顔をして私を睨む。


「もうっ! 一体どうしちゃったのよあなたらしくもない……! まさか王妃陛下のお茶会の最中にあんな風に上の空になっちゃうなんて。こんなこと、長年一度もなかったじゃないの」

「ご、ごめんねカトリーナ。さっきは本当にありが……、」

「今日初めてあなたを見た時からおかしいと思ってたの。以前のお茶会の時よりさらに痩せてるし、お化粧で誤魔化してるつもりかもしれないけど、顔色も悪いわ。ちゃんと話して。何をそんなに悩んでいるの? お義母さまたちと何かあった? それとも……、まさか、まだヘイワード公爵令息と……?」

「……っ、」


 言いづらい。けれど、この親友には何も隠し通せない。


 私は恥を忍び、結婚式の日のラウル様の豹変や、それ以降どうにか関係の修復を試みようとしてきたこと、そして義妹が突然ヘイワード公爵邸を訪れてラウル様の心証をますます悪くしてしまったことや、その時に義妹から聞かされた彼の浮気疑惑のことなど、洗いざらい告白したのだった。




 私が話し終わるまでただ黙って聞いてくれていたカトリーナは、全てを聞いた後しばらく呆然としていた。


「……何てこと……。正直に言うと、式の日のあなたの顔色を見て、少し違和感はあったの。緊張しているだけかもしれないと思っていたけれど……」


 あの日の私たちの結婚式には、カトリーナも駆けつけてくれていた。やっぱり私の様子がおかしいことに気付いていたのか。さすがは長年の親友だわ。


「……私はダメね。父や亡き母の期待に応えられなかったばかりか、今度こそと思った結婚にも失敗してしまって」

「……ティファナ……、落ち着いて。まだ失敗と決まったわけではないわ。とにかく、話し合わなきゃ」


 つい弱音を漏らしてしまう私の肩にそっと手を置き、カトリーナが私を慰めてくれる。でも優しくされればされるほど、自分が情けなくて、どうしようもなく惨めで、堪えようと思っても涙がじわりとこみ上げてしまう。


「二人きりでゆっくりと話をしたいと言ってもダメなの?」

「……何度も言ったけれど、聞く耳を持ってくれない。夜お屋敷に戻ってくるまで待っていて、声をかけたことも何度もあるのよ。でもラウル様は、すごく冷たい目をして私を一瞥すると、そのまま何も言わずにご自分の部屋へ行ってしまう。足を止めてさえくれないの。先日はついに、しつこい、もう止めてくれと言われたわ」

「……困ったわね……。でもサリアさんの言うその、浮気のこと、それは真に受けない方がいいわ。自分で確認したこと以外は信じない。そうでしょう? 誰かを貶めるために、あるいは自分の利を得るために、ありもしない他人の醜聞を捏造して話したりする人ってこれまでも山ほどいたじゃない。……あ、別にサリアさんがそういう人だと言っているわけじゃないけれどね。でもサリアさんのそれだって、あくまで“聞いただけ”と“想像”でしょ?」

「……ええ……」


 だけど。

 サリアがあの日食堂で「浮気」という単語を口にした時の、ラウル様のあの一瞬の狼狽。あの強張った表情は、私の脳裏にしっかりと焼き付いてしまっていた。不審感が拭えない。


 その時だった。


「やっぱりここにいたか」


(……っ!)


 馴染み深い凛としたその声に咄嗟に振り返ると、そこには微笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってくるアルバート様の姿があった。


「あら、アルバート王弟殿下。ごきげんよう。またこちらでお会いできましたわね。ふふ」

「ああ。今日は王妃陛下の茶会があると聞いていたからね。君たちのことだから、茶会が終われば二人きりでまたお喋りを楽しんでいるんじゃないかと思って、顔を出してみたよ。俺の読みは当たったな」


 カトリーナと会話を交わすアルバート様はそう言って笑いながら、ふと私の方に視線を滑らせた。次の瞬間、その端正なお顔から優しい笑みが消え去った。


「……ティファナ、どうした。何があった」


(……しまった……)


 私は慌てて顔を伏せ、アルバート様に背を向ける。涙の滲んだ瞳を急いでハンカチで拭っていると、カトリーナがまたフォローを入れながら話をそらしてくれる。


「ふふ、少し根を詰めすぎてるんです、ティファナさん。……それよりも、アルバート王弟殿下、ご婚約解消の件、大変でしたわね」


 ……そうだ。アルバート様は先日隣国の王女殿下とのご婚約が白紙に戻ったのだったわ。

 私の些細な悩み事なんかで心配をかけてる場合じゃない。

 カトリーナの言葉でそう気付いた私は、急いで気持ちを落ち着けてアルバート様の方を見た。


「アルバート様、ご挨拶が遅れまして。ごきげんよう。……私も先日、父から伺いました。まさか今になってこのような……。何と申し上げてよいやら……、」

「いや、そのことはいい。我が国と隣国との関係が悪化したわけではないのだから。それよりも、ティファナ、一体何があった。何をそんなに思い詰めている」


(ア、アルバート様……)


 まるで王弟であるご自分と隣国王家との婚約解消など、私の異変に比べれば些細なことだとでも言わんばかりの勢いで、アルバート様は真剣な表情を浮かべ私に詰め寄ってきた。






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