表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/74

10. すれ違い(※sideアルバート)

 王宮に呼び戻された俺は、兄である国王陛下のその言葉に、開いた口が塞がらなかった。


「……どういうことですか? それは。何故こんな、今さらになって、婚約解消など……」


 隣国との関係が何らかの理由で悪化したのか。

 真っ先に頭をよぎったのはそれだった。


 しかし兄の口から語られた事実は、まるっきり違うものだったのだ。


 我がリデール王国と、(くだん)の隣国にほど近い場所に位置する、大陸きっての大国。

 その大国の王子が、自国の式典に国王夫妻らとともに訪れた俺の婚約者だった王女と、恋に落ちたというのだ。

 呆れたことに、互いに惹かれ合った二人は式典の翌日、秘密の逢瀬を交わしたらしい。大国の王城に宿泊していた王女の部屋に、王子が忍んでいったのだとか。受け入れた王女も王女だ。ふしだらにも程がある。

 結局その愚かな逢瀬はあっという間に露見し、騒ぎとなってしまったようだ。一夜を共にしたことが周囲に知られ、今さらなかったことにはできない。


「……二人を結婚させることになったようだ。丸く収めるためにはそれしかあるまい。両国からは我が国へは、こちらが有利になるいくつかの支援の約束や条約の締結がなされることになった」


 聞けば聞くほど我が国にとって利益しかない、慰謝料代わりの数々の、金銭的、人的支援、交易の際の条約。こちらを怒らせまいとしているのがよく分かる、充分な内容だった。


「お前も納得いかぬだろうが、ここは堪えてくれるか」


 歳の離れた兄はそう言って、俺を宥めようとする。俺が怒り狂うとでも思っていたのだろうか。まさか。数回顔を合わせたことがある程度の、異国の王女。特別な感情など一切なかったのだから、俺は別に構わない。むしろ恩を売ることができて、今後二ヶ国との間の様々なやり取りにおいて優位に立てるのではないかと思うと、得をした気分だ。

 俺が想いを寄せているのは、ティファナただ一人なのだから……。


(──────っ!! ……ちょっと、待て……)


 一筋見えたその希望の光に気付き、俺の心臓が痛いほど跳ねた。


 そうだ。ティファナ。彼女は王太子の婚約者の座を得られなかった。そして今、俺も王女との婚約が白紙に戻り、自由の身となった。


 今なら……、国王陛下に俺とティファナの縁談を願い出ることができるのではないか……?


「……っ、」


 その思いつきに、胸が大きく高鳴り、手が汗ばんでくる。息もできないほどの興奮の中、俺はどうにか唾をのみ、深く息を吸った。


「……兄上、……その、突然ですが、オールディス侯爵家は、その後どうなのでしょうか」

「……? どうとは?」


 怪訝そうな国王陛下に対して、どう伝えるべきかと頭を巡らせる。


「その、……夫人がお亡くなりになり、その後王太子の婚約者が決定し、ティファナ嬢はその婚約者候補から外れましたが……」


 あわよくば、話の流れでこのまま俺の願いを伝えたい。そう思ってのこの話題だった。

 しかし、直後に聞かされた国王陛下の言葉は、ほんの短い間の俺の期待と高揚を見事に打ち砕くものだった。


「ああ、ティファナ嬢のことか。それこそ数ヶ月も前だったか、エーメリー公爵家のカトリーナ嬢が王太子の婚約者と決まってからすぐのことだった。ヘイワード公爵家の子息との婚約が決まったよ」


 ──────何、だと……。


 重厚な天井がガラガラと崩れ落ち、俺の頭上にガツンと落ちてきたかのような衝撃だった。まさか。こんなにも早く……。ティファナの婚約が、もう決まってしまったのか……。


 足を踏ん張っていないと、このまま崩れ落ちてしまいそうなほどのショックだった。


「……左様でございますか。それは、めでたいことです」


 半ば無意識に紡いだその言葉で、俺の動揺を隠しきれていただろうか。何故こんなにもタイミングが悪いんだ。どうせならあと数ヶ月早く、この婚約の白紙が決まっていれば……。


 全身の力が抜け、頭を掻きむしり泣き叫びたくなった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ