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第7話 村の聖騎士

 アインはすでに、下のベッドにはいなかった。

 何処行ってるんだろう。

 椅子に掛けていた外套を着て、扉を開けて廊下に出る。


「お、なんだぁ嬢ちゃん」

「ぅえ!?」


 変な声が出た。

 びっくりして横を見ると、白い制服を着た、ガタイのいいおじさんがいた。茶髪で、立派な顎髭がモミアゲと繋がっている。

 ボクと着ているズボンが一緒だ。ということは…。


「…聖騎士?」

「おうよ。そういう嬢ちゃんは、どうしてここにいんだ?ココは教会のヤツ以外入っちゃいけねえぞ」

「えっと、そもそもボクは嬢ちゃんじゃ…」


 ガチャッと礼拝堂と続く扉が開いて、おじさんと同じ制服を着た女性が入ってきた。


「先輩どうしたんでって、何ですか、この可愛い子は!?」


 頬を両手で揉まれる。距離が近いヒトだ。

 先輩と呼ばれたその男は、軽く頭を抑えて、ため息をついた。


「俺は知らん。エマ、お前も何も知らないのか?」

「えーと」


 エマという名前らしい。

 エマさんはボクを離した後、少し考え込んだ様子だったが、すぐに何か思いついたようだった。


「そういえば、教会の前で神父さんが珍しい髪色の人と話してたんでした!キミ!もしかして水色の髪の人と一緒に来たの?」


 エマさんはボクの顔を覗き込みながら尋ねてくる。

 その勢いに押されながらも、ボクは頷いた。

 

「なるほど。じゃあ神父さんの客か何かじゃないですかね、先輩?」

「なるほどなぁ。悪いな嬢ちゃん、変に突っかかっちまってよ」


 おじさんは申し訳ないように謝ってきた。


「いえ、気にしてませんから。あ、ボクはセイって言います。…えっと、あと男です」

「へぇ!セイちゃんか〜。………え?」


 エマさんはそのまま、固まってしまった。



「アイン君って若いよね〜。今何歳?」

「……数えていない」


 エマさんに話しかけられたアインは、たまに無言になりながらも、淡々と答えている。


 今、ボクらは一つのテーブルに座って朝食を摂っている。

 テーブルの上座には神父さん、神父さんから見て左にボクとアイン、右にエマさんと「先輩」さん。

 「先輩」の名前はベンと言うらしい。聖騎士の二人が昨晩見えなかったのは、魔物の目撃情報を受けて、近隣の森を追加で哨戒していたからだそうだ。

 神父さんとベンさんは、食事中は静かになる性質(たち)なのか、エマさんがアインを質問攻めしている現状だ。なんでも、アインの水色の髪は本当に珍しいらしく、それがエマさんの好奇心を刺激しているらしい。


「数えてない?…‥うーん、もしかして訳あり?」

「エマ…!そうズカズカ人の領分に入り込むんじゃねえ」


 ベンさんが食事の手を止めて、エマさんを注意する。


「了解です…。アイン君らは、ここに補給に立ち寄っただけなんだよね?何処に行く予定なの?」

「お前なぁ…」


 ベンさんの忠告はあんまり効果がなかったらしい。ベンさんも諦めて食事を再開した。


「目的地は聖都だ」


 アインはエマさんの猛攻をどうとも思っていないようだ。


「聖都か〜。私もこんなド田舎じゃなくて、都市の配属がよかったなぁ」

「ハッ!そりゃ手前(てめえ)が落ちこぼれだからだよ」


 一足先に食べ終わったベンさんが話に入ってくる。その言葉の鋭利さに、エマさんの手はピクピクと動いていたが、何とか持ち堪え、顰めっ面をしてベンさんの方を向く。


「そういう先輩だってココの配属じゃないですか」

「俺は転属希望でここにいるんだ。若い頃は都市で仕事やってたんだよ、こっちは」


 反撃虚しく、エマさんは撃沈した。


「なんで都市部からこっちに?」


 気になって訊いてしまう。


「若い頃は元気があったから良かったが、歳食ってくると都市の防衛は何かと大変でな。ここは人も少ないから魔物の攻勢なんざ、有って無いようなモンだから楽なんだ。」

「人の数と魔物って関係があるんですか?」

「おう。奴等は奇妙な連中でな、本当にどこからとも無く現れる。人の大勢いる場所には現れないが、人の大勢いる場所に引き寄せられる。全くもって不思議な奴等だ」


 ベンさんは、何も知らないボクに色々話してくれた。

 たとえば地理。ボクらの現在地は、ディラヘン半島という大陸の東に位置する大きな半島にある小さな村らしい。半島は南北に広がっていて、大陸とはへその緒のような陸地で繋がっている。南北を貫く長い山脈があり、東部と西部に分けられる。この村は西部にあり、目的地の聖都は東部に位置している。


「ここから聖都に行くなら、コントル関所を通るのが一番だな」

「ああソレ、アインも言ってた気がします」


 そう、目覚めた小屋を出てから、アインに行き先を訊いた時に、そんな事を言っていた。


「コントル関所はね〜、圧巻だよ〜。私は東部出身だから、この村に配属された時に一度だけ通った事あるけど、ホント凄いんだから。」


 いつの間にやら復活したエマさんが言った。


「凄い?」

「うん、例えるなら穴だね。山脈に大きな穴が空いてるんだよ、半円状にね。その穴の中に壁を築いて、大陸と東部を割けているのがコントル関所っていうこと」

「穴、ですか。面白い地形ですね」


 どんな風にしたら、そんな地形が出来上がるんだろう。エマさんの話では、遥か昔、魔物が溢れ返った時代に、巨大な魔物が山に開けた穴だそうだ。なかなか疑わしい話だ。


 朝食を終えてすぐ、ボクらは村から出発する事にした。聖騎士の二人は、村の端まで見送りに来てくれた。


「わざわざありがとうございます」

「気にすんな、坊主。コイツが色々質問責めしたせいで、落ち着いて飯も食えなかっただろ。その詫びだ」


 コイツ、とベンさんはエマさんの方に頭を傾けた。


「酷くないです!?私は純粋に見送りに来ただけなのに!」


 それに、とエマさんは続けた。


「それに、こんな若い子が二人だけで旅なんて、心配じゃないですか」

「若い、ていっても片方は聖騎士なんだろう?心配する事はねえよ」


 そう言いながら、ベンさんはボクの肩を叩いた。


「旅の途中で、ヤバい事に巻き込まれたら、青髪の坊主から離れるんじゃねえぞ。コイツは聖騎士だからな、大概の面倒事は片付けられる。じゃ、またいつか会ったらそん時は宜しくな」

「セイくん、アインくん、道中気をつけてくださいね!」


 そんな二人に見送られ、ボクらは村から出発した。

 ここで出会った人達は皆優しい人だった。そう感じるのは、彼等がこの世界に来てから、初めて会った親しみやすい人達だったからかもしれない。アインは親しみを持てないという訳じゃないけど、堅い雰囲気を持ってるから、これは初めての感覚だった。

 聖都でボクがどんな扱いになるかまだ分からないけれど、もし、またここに来る事が出来たなら。また、彼等と会って話したいな。

 段々と遠くなる二つの人影を振り返りながら、ボクはそんな事を考えていた。

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