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第2話 水色の少年は動き出す

 時は菊池星が目覚める1日前に遡る。


 男は机の上に両肘を立て、両手を口の前で固く結び、報告を待っていた。

 男は白を基調とした祭服に、水色の長い帯を首から掛けていた。袖口にあしらわれた銀色の刺繍は、その服が上等な品である事を物語っている。

 灰色の髪は後ろに軽く撫で付けられ、きっちりとあご髭が整えられている。


 男のいる部屋は彼の服と同じように白を基調とした、どこか神聖さを感じさせる雰囲気を纏っていた。

 もう太陽は傾いており、片側の窓から太陽の光が、部屋の三分の二を明るく照らしていた。


 固く結んだ両手は、これから聞くであろう報告を前に、自然と力が入ってしまう。


 しばらくすると、扉の向こう側から、こちらに走ってくる足音が聞こえてきた。

 すぐに扉がノックされる。


「入ってきなさい」


 男はノックに応えた。両手の位置を少し下げ、背筋を伸ばす。

 扉が開き、一人の青年が部屋に入ってきた。

 眉の上で綺麗に切り揃えたマッシュルームヘアに角張ったメガネを掛けたその青年は、男もよく知る人物だった。


 自然と言葉が柔らかくなる。


「どうだったかね?」

「研究所は酷い被害でした、教皇様」


 芳しくない報告に、つい眉間に皺が寄ってしまう。

 教皇と呼ばれたその男は、眉間を押さえながら、青年に質問した。


「状況を、教えてくれるかい?」

「はい、今回の研究所での襲撃は魔物による地中深くからの強襲であったため、警備に当たっていた聖騎士も対応に遅れ、研究所は大部分が損傷、現時点で、研究員は8名が死亡したとの事です」

「明確に研究所を狙った攻撃…。やはり『聖域』のカケラがある為か」


 男は死者の数を聞いても、動じはしなかった。

 酷い被害であることを予め聞いて、覚悟が出来ていた事もあるだろう。

 だが、それしきの事で動揺するようでは務まらない椅子に、男は座っていた。


「それで、コーリ博士は無事だったのか?」


 今回の件で、男が最も気にしていた事だった。

 残酷な言い方をすれば、研究員は幾らでも替えが利く。

 ただ、あのヒトだけは違う。所謂天才と呼ばれるソレは替えが利かない。


 角メガネの青年は、少し言葉に詰まったように俯いた。


「まさか…!」

「いえ、現地にいた聖騎士の話では、魔物の襲撃時はコーリ博士は無事だったとのことです。ただ、」

「ただ?」


 青年はどう言葉にすればいいか悩む様子だった。


「……ただ、今回の襲撃で、御息女がお亡くなりになったとの事です。頭部だけが奇跡的に損傷を避けていたため、確認は容易だったと…。」

「それは…何と……。」


 言葉をすぐに続ける事が出来なかった。


「……コーリ博士は大丈夫なのか?」


 娘を失ったショックは大きいものだろう。50年近くも独身を貫いている男には、想像もできない絶望だ。

 

 「実はその件で、報告しなければならないことが。」


 角メガネの青年は今度はこちらを真っ直ぐに見つめて言った。どうやらこちらが本題のようだ。

 男は頷いて、後に続く言葉を待った。


「コーリ博士がご息女の遺体と『聖域』のカケラを持ち出して、行方を眩ませたとの事です…!」


 音を立てて椅子が倒れた。

 反射的に立ち上がってしまった男の中は、先程の青年の言葉が反芻していた。

 まさか、そんな……。


「きょ、教皇様?」

「大丈夫だ…。それより博士の足取りは?」


 立ち上がったまま、男は眉間を揉みながら尋ねた。


「今の所は、何も…。」

「それはそうだ。博士ほどの要人は緊急時に備えて、脱出用の抜け道を知らされている。捜索の目を掻い潜って逃げ出す事など容易だろう」


 大変な事態になった。こうなった以上は……。


「アイン、すまないが力を貸してくれ」


 教皇は横を見て言った。

 そう、この部屋にはもう一人報告を聞いている者がいた。

 

 教皇に近づいてきたその者の姿が太陽に照らされて露わとなる。


 毒々しいほどの水色の髪と瞳は、太陽の光によって光沢を帯びている。

 それは不思議な色を持つ短髪の少年だった。


 黒のインナーの上に、灰色の袖の短いジャンパーのようなモノを羽織っている。

 下はインナーと同じく黒色のズボンに、黒のブーツを履いていた。

 それぞれの関節には、金属の肘当て、膝当てが付いている。

 胸の中心に張り付いている白いひし形の板が、インナーの色も相まって目立っていた。


 その姿はやや近未来的であり、この場の雰囲気とはミスマッチだった。


 少年は教皇を見ながら尋ねた。


「『聖域』の気配を辿って探せばいいのか?」

「ああ、お前の()だけが頼りだ」


 教皇は少年の不遜とも取れる言動を気にする様子はない。


「分かった、行ってくる」


 短くそう言って、少年は迷いなくドアへと向かい部屋を出て行った。


 部屋の中は二人だけとなった。


「宜しいのですか?このような大事な要件を()()に任せて」


 角メガネの青年は不満げに教皇に尋ねた。


「私は、彼の事を信頼しているがね。それに、今回の件は彼の能力がなければ収拾が難しい」


 教皇はソレに気にしたそぶりもなく答える。倒してしまった椅子を立てて、静かに座った。

 青年は納得できていない様だったが、すぐに「失礼します」と言って退室した。

 誰もいなくなった部屋で、男は顔を上に上げてつぶやいた。


「『聖域』のカケラなど取り出して、一体何がしたいのですか、博士……。」


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