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第18話 決闘、開始

 剣先の冷たい感触が首筋を伝う。

 …なんで、彼女の、アンジェラの家名を知っていたか。それは──

『どうも初めまして。アンジェラ・コーリと言います』

──それは、彼女自身から告げられたからだ。あの出来事は、夢なんかじゃなかった。

友の体を使われている。その事実を知られれば、ロゼはどんな反応を示すか。

 きっと激昂するだろう。此方を睨むその瞳が雄弁に物語っている。

 ボクの首を切り落とし、他人に体を使われるという辱めからアンジェラを解放しようと考えても不思議ではない。

 ──でも、ボクだって。

ボクだって、この見知らぬ世界で「セイ」として生きていくと決めたんだ。そのエゴだけは譲れない。

「──話してもいいです。でも、条件を付けさせて下さい」

「条件、だと?」

 ロゼは歯を食いしばる。

 その様子に構わず、言葉を続ける。

「ボクと、決闘して下さい」

「何の為にそんな」

「もしあなたが勝ったなら、ボクの知りえる全てを教えますし、あなたがどんな判断をしようとも受け入れます」

 ロゼの発言に重ねるように条件を提示する。

「…私が負けたら?」

「負けても、教えます。但し、ボクの命の保証をして下さい」

 ロゼは悩んでいるようだった。十数秒にわたる沈黙ののち、彼女は剣を鞘に納めた。

「分かった。その決闘、受けよう」


 セイとロゼの決闘が取り決められてから、数時間後。

 教皇の執務室は静けさに満ちていた。

 グランは執務机の上の書類を黙々と処理している。

 定期報告に来ていたアインは、今は壁際で待機していた。

 別に無意味に突っ立っている訳ではない。

 ソレはグランが旧家対策に行っている一種の警告だった。アインに手を出す事は、教皇派と真正面から対立する行為であると意味付ける為の。

 何はともあれ、そんな静寂は扉越しからでも聞こえる足音と、扉を強く叩く音によって終わりを告げた。

「どうぞ」

 グランの出した入室の許可と同時に、扉が勢い良く開かれる。

「教皇様!その、急報でづ、ゲホゲホ!」

 唾が喉に詰まったのか、盛大な咳をかましたのは薄茶色の髪をした少女だった。その騎士服には、銀の肩章が付けられている。それは教皇直属の親衛隊である証だった。

「一体どうしたんだい」

 グランは落ち着かせるように語りかけた。

「は、はい、すみません。えっと、先日教皇様が討伐隊に引き入れた少年についてなんですが」

 その発言に、壁に寄りかかっていたアインは僅かに身じろぐ。

「どうやら決闘を申し込まれたみたいです!」

 そして続く発言に、目を大きく見開いた。

「事の詳細は分かっているのかい?」

 アインとは打って変わって、グランは報告に冷静な対応をする。

「いえ、私もお昼に競技場(コロシアム)の近くを偶々通ったから知っただけで」

 親衛隊の少女は申し訳なさそうに答えた。

 グランは眉を顰める。競技場で情報を得たという事は、もう決闘は正式に受理された後だろう。此処で無理やり介入しても、却ってセイの立場を怪しくするだけだ。

「何も打つ手はない、か」

「グラン…」

 グランの発言に、アインは憤りを感じているようだった。グランはそんなアインの様子を意外に思った。普段は他者に対してあまり興味を示さないアインが、これほど関心を示すとは。

 アインの成長に感心するグランだったが、ここでアインが暴走するのは阻止しなければならない。

「アイン。下手な干渉はセイ君自身を追い詰める事になりかねない。抑えてくれないかい…?」

「……分かった」

 暫しの逡巡ののち、アインは渋々といった様子で答えた。


 競技場(コロシアム)は聖都の北地区にある円形、砂色の建造物で、主に聖騎士同士の決闘を執り行う場である。

 競技場の中心、決闘を行う舞台の直径はおおよそ百メートルであり、その舞台を囲うように数メートルの壁がある。壁の上には更に階段状の観客席が備わっていて、聖騎士や一般の人々が入れるようになっている。

 そんな競技場の舞台の端にボクは立っていた。向かい側ではロゼが、ボクと同じように決闘に向けて待機している。観客席はがら空きで、聖騎士がまばらにいる程度だ

 向かい合う僕等の間には審判役の人間が立っていた。そして、高らかに宣言する。

「これより、決闘を執り行う! 聖都第七討伐部隊、ロゼ・イオキベ!」

 呼び声に応え、ロゼが数歩前に進む。

 あの人、ボクと同じく討伐部隊の人だったのか。

「聖都第十一討伐部隊、セイ!」

 ロゼに習い、名前を呼ばれたボクも数歩前に出る。それを確認した審判が、決闘のルールを解説し始める。

「勝敗は聖剣を使用不能にする、または戦闘不能と判断される状態にする事で決する。それでは両者、構えて」

 ボクは丸盾を正面に構え、ロゼは腰の鞘から両刃の刀剣を抜き放つ。

「はじめ!!」

 開始の合図と同時に、丸盾に魔力を送る。魔力の塊で出来た水色のバリアが丸盾を中心に広がり、最終的に大盾並の大きさになった。

 まだロゼとは距離がある。慎重に──

 ヒュルルル──

 風切り音? 一体何が。

 そう思った瞬間、盾に衝撃が走り、ボクは大きくのけ反った。

 そして目にした。風切り音の正体を。

 空中に刃がバラバラになって散らばっている。いや、違う。その全てが赤い光沢をもった鉄線によって繋がっていた。蛇腹剣。伸縮自在の剣が、ロゼの聖剣だったのだ。

 





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