第15話 能力の詳細
アインと初戦闘をこなした数日後、ボクはアメリアの研究室に顔を出していた。
アインは教皇の所に用事だとかで、今回は一人だ。
アメリアはボクの腕に機材を取り付け、ソレとコードで繋がった何かの計測器を眺めている。
暇なボクは首から掛けた、聖騎士の身分を証明する為のプレートを弄っていた。
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聖都第十一討伐部隊
セイ
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プレートにはそう刻まれている。
「アメリアさん、討伐部隊って何ですか?」
「んー?まあ特別強い魔物とか、郊外で大量発生した魔物とか。そういう突発的な事態に対処する部隊だよー」
アメリアは計測器から目を離さずに答える。
「まあ、グランさんがアインと同じく、君をソコに配置したのは、討伐部隊が他と違って命令が無ければ動かす必要の無い部隊だからだねー。手元に置いておくにはピッタリって訳」
そう言いながら腕に付けられていた機材を外していくアメリア。血圧計のようなソレを計測器の上に放り出すと、今度は簡易机に置かれた木箱から注射器を取り出す。
「じゃあ次、採血するねー」
「針、通りますかね?この肌」
「セイは、注射は苦手?」
「別に平気ですけど…」
「じゃあ、多分大丈夫だよ」
そんな適当な、と思いながらも手の甲を下向きにして、真っ直ぐな血管の場所をアメリアの方に差し出した。
チクリ、と痛みが走り、注射の針が肌を貫いた。
赤い血が目盛りの中を進んでいく。
「刺さってる…」
鉄壁の守りを見せていた自分のカラダから血が抜かれていく様子に呆気に取られているボクと違い、アメリアは満足そうな表情を浮かべていた。
「これで、君の体のカラクリが分かってきたねー」
「君の体について、分かった事を大きくまとめると三つ」
アメリアは指を三本立てた。
「一つ、君の肉体の変色は魔力に依らない」
そう言いながら先刻まで使っていた計測器に手を置く。
「君の腕に対して、この魔力計測器は変色時、何の反応も示さなかった」
アメリアは話を続ける。
「二つ、この変色は基本的に害意に反応して展開されるものだ」
「害意?」
よく分かっていないボクに、アメリアは説明を始める。
「先刻、君の肌を注射器の針が貫いたでしょ」
そうだ。それは言い換えれば、このカラダに傷をつける事が出来たという事だ。ということは。
「それが、これ迄とは違って傷付ける為の行動じゃないから?」
「その通りー」
確かに魔物に襲われた時も、コントルで矢を射られた時も、明らかな害意を以て行われたモノだった。
「そして、三つ目」
アメリアの言葉に意識を向ける。
「君はこの体質をある程度コントロール出来る」
そして、その言葉に首を傾げた。
「この体質は害意に反応するモノって、先刻言ってませんでした?」
「基本的に、ねー」
そう言うと、アメリアは白衣の胸ポケットからペーパーナイフを取り出した。
「このナイフで君を刺した事、覚えてる?」
「はい…」
膝に乗られた時の感触を思い出して、僅かに赤面してしまう。
「最初、君に刺す所を見られないようにしてナイフを突き立てた時、肌とナイフが接触する寸前まで君の肌は変色しなかった」
アメリアは言葉を区切る。
「でも、次に刺す所が見えるようにした時、ナイフを振り下ろす前から君の肌は変色していたんだ」
「つまり、ボクの意志に呼応したって事ですか?」
「そー。君についての報告書を読んだ時から、その可能性については考えてた」
アメリアは机に置かれた薄い、クリップで束ねられた紙束をゆらゆらと振ってみせた。
「君が初めて魔物に襲われた時と、コントル関所で旧家の人間に攻撃された時。同じような状況なのに、君は魔物は刺し殺し、旧家の坊ちゃんには殴るだけで済ませた」
「そりゃ、人殺しなんてしたくありませんし…」
「そー、それ。完全に反射的な行動なら、対応に差異は生まれない。つまり、ある程度なら君の意志を反映できるって訳だよ」
語り終えた彼女は一息ついてから、書類の山に囲われた作業机に向かった。
「それを踏まえて、君の自衛能力を上げるための装備を考えてきたんだー」
そう言いながら机の上に置かれた、ベルトの様なモノを持って戻ってきた。
興奮気味の彼女に、ボクは遠慮がちに訊ねる。
「あの、自衛能力って今以上に必要ですか?」
正直、現状でも圧倒的な防御性能を誇る変色能力に丸盾の聖剣と、防御面では随分と充実している。
アメリアはボクを僅かな間見つめていたが、ゆっくりと口を開いた。
「…セイ、確かに君の防御は硬い。でも今の君に必要なのは相手を倒す能力なんだ」
「それはアインの担当じゃ」
「それは魔物に限った話でしょ?聖騎士相手の一対一の決闘じゃあアインは君の隣には立てない」
アメリアの話の流れが読めない。大事な行間を読み飛ばしてしまったような感覚だ。
「えっと、どういう事です?」
「今は大丈夫でも、いずれ必ず、君は面倒なゴタゴタに巻き込まれる事になる」
その言い方は、何処か確信めいていた。
「アインと同じように、君も旧家に目を付けられる事になる」




