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第13話 研究院の女

 聖都の中心に聳える城、アルヒロンド城は古代遺跡を改装、増築したものだ。

 所謂古代遺跡とは不壊性を持ち合わせており、それ故に何百年という年月を超えて現在も残っている訳である。このような建造物は各地に転々と存在しており、一説には神ルブラが人々を魔物から守る為に創造されたとして神聖視されたりもしている。


 ボク達はそんなアルヒロンド城に隣接する研究院という場所に来ていた。

 壁や柱は古代遺跡特有の真っ白な素材で出来ていて、廊下を等間隔にドアが並んでいる。雰囲気としては、学校の教室棟のようだ。

 アインはそんなドアの一つを叩く。ドアの横にはプレートが貼り付いていて、


──アメリア──


 と名前が刻まれていた。

 プレートを見ていると、ドアがギギッと音を立てて開く。


「やあアイン。グランさんから話は聞いているよ」


 中から出てきたのは白衣を着た、不健康そうな女性だった。長い黒髪に、褐色の肌。特徴的なアメジストのような紫の瞳の下には小さな隈が出来ている。長い前髪はピンによって分けられていた。


「それで君が、セイ。まあ、取り敢えず入って入って」


 そう言いながらアメリアは脇に退いた。

 部屋の中は酷く散らかっていた。入って右側に置かれている机の周りは書類や書籍が乱雑に積まれている。

 その奥の壁に取り付けられた黒板は、図やら文字やらで埋め尽くされ、とても読み解けるものではなかった。

 部屋の隅に置かれたガラス戸の棚には実験器具のような物が並べられ、その横に木製の椅子が乱雑に積まれている。

 しかし、この部屋で最も目を引くのは部屋の左側を占める物達だろう。

 剣、ナイフ、弓、盾、ハンマー、槍。多種多様な武器が整然と壁に掛けられていた。


 アメリアは積まれていた椅子をヨイショと持ち上げると、それを三つ、向き合うように部屋の真ん中に置いた。


「座っていいよ」


 促されるままに座る。アメリアも椅子を引き、ボク等は向かい合って座った。


「じゃあ自己紹介。私はアメリア。研究員の所属で、あー、主な仕事は聖剣の開発」


 ボクは壁際の武器達を見る。

 確かアインが言ってたっけ。聖騎士は聖剣の保持を認められた人間だとか。

 けれど壁に掛けられた武器には剣以外にも色々とある。そう言えばコントルで出会ったあの金髪野郎も弓を使っていた。

 ボクの視線から察したのか、アメリアはボクの疑問に応える。



「そういえば君は記憶喪失なんだっけ?聖剣なんて呼ばれてるのは、昔は剣しか作られてなかったから。今は色々有るよー」


 アメリアはパチンと手を叩く。


「まあそれは置いておいて。私が君の事、グランさんから頼まれてるのは」


 そう言いながら指を三本立てる。


「君の体を調べる事と、最低限の知識を与える事。それから、君に聖剣を見繕う事」

「聖剣、貰えるんですか?」

「まあ君はアインと同じで裏口叙任でしょー。それじゃ正規の手段で聖剣を与えられないからね。私の試作品で間に合わせるって訳」


 そんな裏口入学みたいな、と心の中で突っ込む。見ると、アメリアは床に散らばった諸々を掻き分けながら何か探していた。


「──んじゃ、まずは一つ目から」


 目当ての物が見たかったのか、そう言いながらアメリアが持ち上げたのは透明な板だった。


「セイ、この板に手を付けてくれる?」

「…?はい」


言われた通りペタッと手の平を板に付ける。アメリアは透明な板を通して、興味深そうにボクの手の平を見つめていた。


「よし、じゃあ次はその手を出したままでいて」


 指示通り腕を出していると、アメリアはボクに背を向けボクの腕を抱え込んだ状態で膝の上に乗ってきた。


「ひぇっ!何!?」

「重いかもだけど我慢して」


 そんな事を言うアメリアだけど、ボクにとっての一番の問題は膝に伝わる柔らかさの方だ。赤面するボクを放置してアメリアは何やら動いていた。そして。


カンッ。


 恥ずかしさから逃れる為、突然鳴った音にボクは意識を向けた。


「あの、アメリアさん?さっきの音は?」

「丁度持ってたペーパーナイフを、君の腕に突き刺してみた」

「え?」


 言われてみれば、今は見えない腕から変色時特有の冷たい感触が伝わってくる。満足したのか、アメリアさんはボクの膝から降りた。

 ホッと息を吐くと、彼女はボクの正面に座り直していた。左手はボクの手の下に添えられ、右手には件のナイフを握っている。そして握ったナイフをボクの腕の上に持って来た。


「今からもう一度、君をこのペーパーナイフで刺す」


 突然の宣言にゴクリと唾を飲む。冷たい感覚が走り、構えられたペーパーナイフの下に位置する皮膚が水色に変色した。

 アメリアがそのままナイフを振り下ろすと、先刻と同様、カンッという音がしてナイフが弾かれた。


「なるほど」


 弾かれたナイフを見て、アメリアは一人納得している。


「体を調べるのは一旦終わりにしようか。君の事は今朝聞かされたばかりだったから、あまり準備出来て無かったんだよね」


 そう言いながら、アメリアはナイフにカバーを付け、自身の着ている白衣の胸ポケットに仕舞った。


「じゃあ次は、聖騎士として最低限必要な知識、魔力について教えるよ」

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