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第11話 聖都

2025/2/28

最後のグランと少年の声の会話を変更しました。

「そろそろだ」


 車輪が砂利を跳ねて車体が揺れる。その振動にも慣れ、長旅の疲労からウトウトとしていた時、アインはソレを告げてきた。

 外を見ると、遠くに長い城壁が見える。壁内の地形が丘状なのか、壁の中心に行くほど建物が高く、その様子が城壁の外であるココからでも見える。その中心には白い城のようなモノが聳え立っていた。


「アレが聖都……」


 ここディラヘン半島は東側の方が発展しているのか、コントル関所から脱出したボク等は小さな町で聖都行きの乗合馬車を捕まえる事ができた。そこから数日、町々で馬車を乗り継ぎ今現在に至る。

 ボク等を乗せた馬車はそのまま城門をくぐり抜け、すぐ近くの停留所で止まった。人の流れに沿って大通りに出る。

 通りはかなり賑わっていて、前を歩くアインを見失いそうになる。目立つ水色の髪は、コントルでの一件があった為、ボクの貰った外套で隠して貰っている。その影響で上着を失ったボクはアインのジャンパーを借りている状態だ。


 太陽が西に傾く頃、アインはボクを連れて目的地に着いたようだった。

 ソコは聖都の中心に程近く、けれども大通りから外れている為か人通りの少ない街の一角。

 パッと見は学校の校舎のような、年月を感じさせる石造りの建物の中にアインは入っていく。


「ここは?」

「俺の住む場所だ。元は騎士学校の寄宿舎だったらしいが」


 アインは建物の入口から一番近い扉を開く。


「取り敢えず今晩は此処で過ごしてくれ。他の部屋は片付いていない」


 部屋の中は質素なものだった。恐らく騎士学校時代から在るであろう二段ベッドが部屋の両端に、簡易的な机が窓際に配置されている。

 片方のベッドは、その本来の用途を無視して本が乱雑に積まれている。


「俺は教本部に帰還の報告があるから、適当に時間を潰してくれ」


 そう言うと、スタスタと玄関の方に歩いていくアイン。ボクはその背中に「りょーかい」と返した。

 パタンと音がして、旧寄宿舎は一時の静かさを得た。


「さてと」


 久々の単独行動。この旅の間ずっとアインと行動していたせいか、とても新鮮な感覚だ。


「……探検するか!」


 健全なる男子なら、普段行かない場所に来て探検しないという事はない…はず。

 ひとまず今の部屋から出て、一つ向かいの扉を開く。

 開けた瞬間に、目に見えるほど埃が舞い、思わず咳き込む。


「ホントに手付かずなんだな」


 室内の構造はさっきの部屋と変わらない。引き払った時に持ち出したのか、家具は一切残っていない。

 廊下の突き当たりには無駄に広い浴場があった。湯は張っていない。

 銭湯に似て、鏡と石鹸とシャワーヘッドが壁沿いにズラリと並んでいる。

 ふと、横にある鏡に目を移すと、まだ慣れない自分の顔が映っている。

 その頬には小さな傷痕が残っていた。弓で狙われたあの時、顔の肌が変色してボクの体を守る事は無かった。

 首にある肌の継ぎ目を指でなぞる。

 きっとこの継ぎ目が、ボクの体が水色に変化できる境界なんだ。


「首から上は生身…」


 そう思い至った時、ボクの体は硬直した。

 頭によぎるのは嫌な考えだ。そう、ボクのカラダは異質だ。けれど頭は普通の人間と何ら変わりない。


「…じゃあ、これは誰の顔だ?」


 鏡の中の自分が頬に手を当てる。伝わってくるその柔らかさも、どこか余所余所しく感じる。

 他人の顔の皮を剥ぎ取り被っているような、狂気的な恐ろしさがソコにはあった。


 最初の部屋の部屋に戻り、ベッドに体を投げ出す。

 視界の端に当たる白い髪が気になり、ボクは目を瞑った。


「髪、鬱陶しいな」




「報告ご苦労様、アイン。それじゃあ明日の昼にでもそのセイ君を連れて来てくれるか?」

「分かった」


 教皇グランの要求に、アインは短く返答する。

 ここは聖都の中心、ルブラ教本部、教皇グランの執務室。

 グランはアインから道中の一部始終を聴き終えた所だった。


「よし、今日はもう帰って休んでいいよ。お疲れ様」


 労いの言葉を無言で首肯し、アインは執務室から出ていった。


「旧家とのいざこざ、か。彼方からそんな苦情は来ていない。何か向こうに問題があるのか…?」


 独り言を呟きながら考えに沈む。

 聖域のカケラの気配が消えた場所で見つかったという少年。

 その体の特異性。

 彼が聖域のカケラと関係している事は確信できる。だが同時に、その関係性は謎だ。そもそもあの物質は……。


『無意味な思考だね』


 グランの混迷した脳内に、少年のような声が響く。執務室には、グランを除いて誰もいない。


「…珍しいですね、貴方から語り掛けてくるとは」

『ああ、お願いがあってね。先刻話に上がっていたセイという少年、彼を君の庇護下に置いてほしいんだ』


 グランは上を見上げ、深い溜息をつく。


「無意味と言っておきながら、貴方は私の疑問に対する答えを持っている様子だ。それを教えてはくれないのですか?」

『確証を持てていないんだよ』

 声の返答に、グランは眉を顰める。

「仮説でも、教えて頂きたいのですが?」

『……そうだね。予想が正しいなら彼、セイは』

 少年の声はそこで一旦間を置いた。

『世界を変える鍵になりえる存在だ』


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