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D・I・Y(どうも、いやな、予感がする)

作者: 三駒丈路

 DIYというのは「どぅーいっとゆあせるふ」という英語の略で、直訳すれば「あなた自身でやれ」ということだけど、自分の欲しいものは自分で作るという、要は日曜大工みたいなものだ。

 私がDIYに興味を持ったのは地元を舞台としたそういうアニメがあったからなのだけど、それはどうでもいい。とにかく、自分でいろいろ作ってみたくなったのだ。


 まず作ったのは、王道とも言えるだろう本棚だ。前から欲しいと思っていた作家の全集が出版されるということで、それを入れる棚を作ろうと思ったのだ。

 完成した本棚は少し不格好だったが、まぁまぁの出来だった。さて入れるべき全集を買うかと思っていたら、懸賞に当たったという連絡があった。商品はなんと、買おうと思っていた全集の電子書籍版だった。電書版とはいえタダで読めるのだから、本棚の必要はなくなってしまった。

 この話にはおまけがあって、何も入っていない本棚を動かそうとしたらバラバラに壊れてしまった。やはりうまく作れていなかったようだ。そして、壊れるとすぐに出版社から連絡があり、電書版の全集は出版中止になったので紙の書籍を送るとのことだった。本棚は壊れてしまっているので、全集は床に積まれることになった。


 いちから作るのは難しそうだったので、次はキットものを買ってみることにした。面白そうなものがないかと探してみると「折りたたみ傘キット」というのがあった。自分で傘が作れるのだ。キットだし、なんとかなるだろう。

 苦労して作ってみると、それなりのものが出来た。うれしくて毎日カバンに忍ばせて出かけていたのだけど、そういうときに限って雨は降らない。逆に降水確率0%だからと傘を置いていくと、確実にゲリラ豪雨にあってしまったりするのだ。うーむ。役に立たん。


 その後、小物として定期入れを作ったり、木切れを使って表札を作ってみたりした。

 そうすると、会社から長期出張の辞令がおりた。出張先の住居は会社に隣接した社員寮であって、定期券は必要なく、セキュリティーの関係上表札など個人情報を含むものは使ってはいけないとのことだった。


 ここに至って、ひとつの仮説が浮かんだ。もしかすると、私が作るものは無用の長物と化す運命にあるのではないか、ということだ。本棚に本は入らないし、折りたたみ傘を持ってると雨は降らないし、定期入れも表札も出番が無くなってしまう。


 それからしばらくは、何も作らなかった。作っても役に立たないんであれば、意味がないからだ。

 しかしある時、逆転の発想が浮かんだ。折りたたみ傘は、実は役に立っていたんではないのか? 結果として、持っていれば雨に降られなかったのだから。つまりは、役に立たないでいることこそが実は役に立つもの、というものもあるのではないか? ということだ。

 それにはどんなものがあるだろうかと考えたら、すぐに思いついた。棺桶だ。自分の棺桶を作ってやれば……棺桶の出番が無くなるのであれば、死ぬことが無くなるのではないか。


 私はすぐに自分の棺桶を作り始めた。棺桶なんか作っているのを見られたら変に思われるので、材料の木材を部屋に運び込んで密かに作った。大きな音を出すわけにいかないので、釘などは使わないよう接着するようにして苦労しながら作り上げた。

 自室に自分の棺桶があるというのはちょっと嫌な感じだが、これで私は不死身なのだ。


 完成後、ひとりで祝杯をあげていると酔った勢いで何かを踏んづけた。それはあの自作の表札で、真っ二つに割れてしまった。すると、その直後に会社から連絡があった。長期出張は終了で、戻れるとのこと。表札、使えるようになるのか。今壊れたところなのに。

 ここで、また仮説が浮かんだ。私が作ったものは使おうとすると無用の長物になるけれど、使えなくなると必要なものになるのかもしれない。本棚も表札もそうだった。傘もか……? だとすると、なんと皮肉な私の才能か。

 いや、待て。そうすると、この棺桶が壊れたとき、もしかすると……。


 そんなことを考えながら、酔っていた私の足はもつれ、身体は棺桶の方に倒れていった。バキバキと音をたてて壊れる棺桶。ああ。ちゃんと釘を使って丈夫なものを作っておけばよかった。

 きちんとやっておけばよかったなぁ、DIY。どうも。いやな。予感がする。だめだ……。意識が……。ヤバイ……。


新潟日報の読者文芸コント欄が一年の休止のうえ終了になってしまったけれども、その休止の直前に送っていた作品「D・I・Y」。

書いたのは2023年の4月。話自体は全然関係ないけれども、発想はアニメ「DIY!!」から。

コント欄が続いていたとして、載ったかどうかは……ちょっとムリヤリだし微妙だっただろうか。

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