桜花魔法学園へ
◇ ◇ ◇
時は光よりも速く過ぎ去り、あらゆるものを過去にした。
雪がパラパラと舞い散る。
二月十七日、今日は高揚する心とは逆に、朝から冷え込んでいた。
俺は電車を乗り継ぎ、東京都の品川区に来ていた。
そういえばホムラは雪が降ると、もこもこの服を着て縁台に丸まっていたな。そんな寒いなら中にいろよ、と思うのだが、隣に座ると彼女はヒーターよりも暖かいのだ。不可思議極まりない生態である。
そんなことを思い出しながら薄い雪道を歩いていると、目的の場所が見えてくる。機能美に満ちた近代的な建物が多い中には似つかわしくない、要塞のような重厚な正門。
それを潜った先には、広大な敷地が広がっているはずだ。
『国立桜花魔法学園』。
日本には現在二つしかない、職業魔法師を育成するための国立校だ。学部や学科で言えば魔法師のためのものも増えてきているが、学校全体で魔法の教育を行っている学校は少ない。
桜花魔法学園は中高一貫で、設備、教員、外部機関との連携、全てにおいて一級品の学校なのである。
世界改革直後に急ピッチで作られたそうだが、その質は世界的に見てもトップレベル。
今日は桜花魔法学園高等部『守衛科』の受験日当日だ。
将来的に守衛魔法師になる人材を育成するための学科。
あのレオールの襲撃から半年、ホムラを再び実体化させる方法は見つかっていない。そもそも妖精が魔法となって姿を消す実例すらないのだ。
このまま一般の学校に進んでも先はない。妖精や魔法の専門的な研究を行うには、それに相応しい学校に入るべきだ。
何よりあのレオールという怪物。あいつはホムラについて何か知っていた。俺の知らない何かを。
たとえ長い時間を過ごしたとしても、俺はホムラのことを何一つ知らないのだ。何故怪物に狙われていたのか、契約者とは何なのか。もしかしたら、そこにホムラを元に戻すヒントが隠されているかもしれない。
もしもまた怪物が襲いに来たら、それを捕らえ、情報を引き出す。そのためには、戦闘技術も必要だ。
そういった理由から、俺はこの桜花魔法学園への受験を決めたのだ。
担任も家族も目玉飛び出すんじゃないかってくらい驚いていたけど。
結局母さんは、
『あんたは、やっぱり父さんの子だね』
と言って笑っていた。
妹や姉はどこか複雑な顔をしていたが、最後にはいいんじゃない、と言ってくれた。暗がりで俺たちを縛り付けていた鎖は、徐々に解けつつある。
母さんを安心させるためにも、俺は強くならなければいけないんだ。力がなければ、何も守れない。願いに手が届かない。
「よし」
俺は一人気合いを入れ直し、母さんからもらったお守りを握りしめて正門をくぐった。
お待たせいたしました。
ここから、学園編スタートです。