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位階

     ◇   ◇   ◇




 目を開けると、闇の中に立っていた。何も見えず、聞こえず、温度すら感じなかった。


 ここは一体、どこだ?


 目をこらしても、ほんの少しの光もないせいで、暗がりの中の輪郭すら捉えられなかった。


 ここがどこで、どれくらいの広さなのかさえ判然としない。


 ただ明確に分かるのは、ここが現実世界ではないということだった。


 何か根拠があったわけではない。ただ妙な確信があった。


 そもそも俺はさっきまで化蜘蛛(アラクネ)と戦っていたはずだ。振槍を打ち込もうとして、カウンターで糸の槍を合わせられた。


 その後は、分からない。


 最後に見えたのは、『火焔(アライブ)』を飲み込んで膨れ上がる白い光だった。


 あれから何が起こったんだ。


 そんなことを考えたところで、答えは返ってこない。


「っ、なんだ」


 そこへ、突然光が目に差し込んだ。


 それは黒い地面に突如として浮き上がった紋様から発せられていた。


 (いびつ)な半円。片翼にも割れたハートのようにも見える。描かれている模様は精緻で、複雑で、規則性がない。子供の落書きのように自由な線が、結果的にこの形を描いているようだ。


 これが何のために現れたものなのかは、まるで分からなかった。


 ただ、危険だ。


 この上にいてはいけないと、本能が叫んでいる。


 それを裏付けるように、白く光っていた半円が、赤く染まり始めた。


 何かが起きようとしている。今この場から走って逃げださなければならない。


「‥‥」


 しかし、足が動かなかった。頭と身体が繋がっていない。


 俺に出来ることは、ただ半円を赤が浸食していくのを見ているだけだった。


『――――――』


 それが三分の一を超えた時、声が聞こえた。


 声というべきか、音、というべきか。まるで意味の分からない音の羅列。


 それが徐々に徐々に、チューニングされていく。音の焦点が合う、という言葉が正しいのかは分からないが、意味不明だった音は俺の聞きとれる言葉に変わっていった。




『――言語設定を再設定。――認知、確認』




 なんだ、誰の声だ、これは。こんな状況になる可能性は一つ、『火焔(アライブ)』だけだが、ホムラの声じゃない。


 かといって現実で会ってきた誰のものでもない。


 もっと無機質で、この空間そのものに響き渡るような、機会音声のような声。ただそれよりも圧倒的な、身を正してしまうような、重さがある。


『想念の断片――結合。座位の解放――完了。角翼(かくよく)の復元――不可。不完全体での復元――完了』


 何を言っているのか、一つも分からない。


 分からないが、何か大きな変化が起きようとしている。そして恐らくそれは、俺に関係するものだ。


「‥‥」


 目を閉じて、深呼吸をして心を落ち着ける。何が起きているかは分からないが、これが『火焔(アライブ)』によって引き起こされたことなのは間違いない。


 俺はそれ以外に特別なものなんて持っていない。


 だからこれは、ホムラの作り出した空間のはずだ。だったら、恐れる必要はない。


 何かが変わるというのなら、受け入れる。


 その上で、あとは俺自身がどうするかだ。


「来いよ」


 紡も、村正も、皆も、まだ戦っているはずだ。俺だけが悠長に寝ているわけにはいかないだろ。


 もう一度あの場所へ立てるのなら、なんだっていい。


 目を開くと、赤い光が煌々と周囲を塗りつぶしていた。まるで業火に投じられたようだ。じくじくと、痛みが全身を襲う。右腕が熱く、痛みがひび割れの様に広がっていく。


 瞳が渇き、皮膚がひきつって神経が焼き切れる。



「ァァアアアアアアアアアアア!」



 痛みは、生きている証拠だ。


 (かす)む視界の中、光は高く、色濃く、俺の全てを飲み込んだ。






位階(レベル)×(ツー)へ移行』




『『象炎(しょうえん)』の権能を獲得』


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