負荷雷光
振るわれる刃。
紫電を纏うそれが目の前まで迫った時、手の甲を刀身に沿わせる。
思い出した。
速い動き、強力な攻撃。怪物が自分たちよりも強いなんて当たり前だ。
だから技術を磨き、意識を変える。
たった一ミリの空隙に、生きる道がある。
逸れた剣が毛先を掠めていくのを感じながら、黒鬼の顔を見据える。
恐るな、視線を逸らすな。
「振槍」
ゴッ‼︎ これまでにない手応えで、鬼の頭が後ろに仰け反った。
それでも黒鬼の動きは止まらない。仰け反りながら、剣を切り返してくる。
それを掻い潜りながら、今度は脇腹に拳を突き立てる。
「オ、ォオオオ」
鬼から聞こえるそれは、うめきか怒りの声か。
ただ殴るだけじゃない、拳には炎を纏わせ、それで黒鉄の肌を焼き、魔力を喰らう。
使う分だけ、奪い取る。
振るわれる剣に合わせ、足を動かして有利な場所を取る。
こいつにまともな技術はない。落ち着いて立ち回れば、攻撃を受けずに殴れる。
剣崎や星宮に比べれば、見切りやすい。
何度目かの拳を入れた時、鬼の身体が揺らいだ。手だけで振るわれようとする剣を見た時、頭の中の本能にも近い場所が身体を動かしていた。
深く身体を沈み込ませ、大地を蹴ると同時に炎を噴かして加速する。
──閃斧。
火炎の一閃が、剣の横を通り過ぎ、黒鬼の胸を捉えた。
爆発音のような音を立てて衝突し、鬼が吹き飛んだ。
路面に散った火と煙が、道のように残る。
「‥‥ふぅ‥‥」
入った。
無我夢中だったけど、入れられると思った時には身体が動いていた。魔法の練度は間違いなく上がっている。
「ァァァ」
だらりと身体を投げ出していた黒鬼が立ち上がり、声を出した。
硬えな。閃斧をまともに受けても、傷らしい傷にもならないのはおかしいだろ。
まあそれでもいい。
次はどう来る。
何が来ようと、見切って、殴る。
しかし黒鬼の行動は、俺の予想を裏切った。
「ァァ──ァァァアアアアアアアアア‼︎」
断末魔よりも悍ましい叫び。ビリビリと地面が震え、周囲の建物のガラスが砕けて落ちてくる。
なんだ、一体何をしようとしてるんだ。
その時、二本の角の間に紫電が走った。何度も、何度も、激しく。そうして生まれるのは、これまでのような火花に近いものではなく、光り輝くプラズマの塊。
凄まじい魔力の圧。
あれは、やばい。
炎を前面に集中させ、壁のように燃やす。
「『負荷雷光』」
これまでに受けたダメージを鬱憤ごと叩きつけるように、紫電が荒れ狂った。
雷が間近で落ちたような轟音と共に、地面に白くのたうつ轍が引かれる。
衝撃は即座に来た。
『火焔』は決して受けに強い魔法ではない。
炎の壁が持ち超えたのはほんの数秒。
紫電の槍が火を貫き、俺の身体を幾度となく突き刺した。
「ぁがぁっ──‼︎」
痛いなんてもんじゃない。脳の神経が焼き切れたかと思った。
くそ、そんな大技があったのかよ。ふざけやがって。
とにかく『火焔』を再生に回して、身体の内部から治す。
意識が途切れたら死んでた。
魔法の発動を止めるな。死ぬほど痛くても、それを噛み締めろ。
拳を地面に叩きつけ、痙攣する身体を無理矢理起こす。
白熱した地面の上で、砕けたガラスが溶けていた。
その上で、角に紫電を走らせる黒鬼が悠然と歩いてくる。
起き上がって、構える。まだ痛みと傷でまともに動かない身体を、炎が動かす。
さあ、第二ラウンドと行こうか。
