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あれ、奇遇ですね

 ボランティア活動の申請が無事に認められてから一週間後の金曜日。俺は学校を休んで国分寺駅に来ていた。


 朝の九時に集合だったけど、緊張して三十分も前に来てしまった。これから実際にプロの守衛魔法師(ガード)と行動を共にするのだ。


 俺は親父以外の守衛魔法師(ガード)をあまり知らない。


 どんな人が来るんだろうな。


 そわそわしながら待っていると、隣で誰かが立ち止まる気配がした。


 え、もう来たのか。早いな。


 ニュースを眺めていたスマホを慌ててしまい、横を振り向いた。



「真堂‥‥君‥‥?」



 金ぴかぴんに絢爛豪華(けんらんごうか)な少女が、端正な顔を驚きに染めていた。


 蜂蜜さんじゃないか。


 そいえば今回のボランティア活動の定員は二人だった。もう一人が蜂蜜さんだったのか。


「お、おはよう?」


 何と声を掛けていいか分からず、とりあえず手を上げて挨拶をした。


「‥‥おはようございます」


 気まずいな。



 そもそもの出会いからして良いとはいえない形だし、その後は俺の単位を掛けた鬼ごっこで敗北させられている。


 むこうからしても話し辛かろう。


「真堂護です。今日は避難ルート確認のボランティア活動で来ました」


 俺はそう自己紹介をして手を差し出した。蜂蜜さんにきちんと自己紹介をするのは初めてだ。


 蜂蜜さんはおずおずとした様子で口を開いた。


「あの、星宮有朱(ほしみやアリス)です。私もボランティア活動で来ました」


「よろしくお願いします」


 ゆっくりと差し出された手を握り、俺は頭を下げた。


 危ない危ない。手を無視されたら泣いて帰るか迷うところだった。


 蜂蜜さんの名前は星宮さんだったらしい。見た目だけではなく、名前までキラキラしている。


 さて俺はまず星宮さんに言わなくてはならないことがある。


 未だ視線がさまよっている星宮さんの方を見て、俺は改めて頭を下げた。


「試験の時はすみませんでした。俺の勝手で迷惑をかけました」


「え? いやいやそんなことは別に大丈夫!」


 星宮さんは慌てた様子で首を横に振った。無理矢理二人の戦いに割って入ったのに、許してくれるのか。心が広いな。


 すると星宮さんの方も頭を下げてきた。


「こちらこそごめんなさい。この間の魔法戦闘(マギアーツ)基礎‥‥単位がかかっていたのよね?」


「ああ、それこそ謝らないでくれ――ださい。負けたのは俺が悪いんだから。それに単位はもらえることになったんだ」


 俺の実力が足りなかっただけで星宮さんが悪いわけじゃない。むしろ真剣にやってもらえてよかった。


 星宮さんは少し安心したような表情になった。


「敬語はお互いにやめましょうか。同級生だし、さん付けもいらないわ」


「いいのか? ごめん、同年代の女子と話す機会が少なくて、いまいち距離感が分からないんだよな」


 姉と妹を女子というカテゴリにいれるのは抵抗があるし、ホムラは間違いなく違う。特別枠というか特異枠だ。


「単位、無事にもらえたのね、よかったわ。あれで鬼灯先生も優しいところあるのね」


「そうだな、最初は鬼かと思ったけど優しかったよ。先生の専攻練せんこうれんに入ることを条件に単位をもらえることになったんだ」


 結局鬼のように厳しいことは変わらんけど。


 ここ最近の訓練を思い出しながら頷いていると、星宮さん――星宮が大きな目を更に大きくまん丸にしていた。


「‥‥専攻練せんこうれん? 鬼灯先生の専攻練せんこうれんに入ったの?」


「そうだよ。たまたま縁があって、入れてもらえることになったんだ」


「そんな、今までまともに専攻練せんこうれんに生徒を入れたことはなかったのに」


 そこまで驚く話なのか? 確かに俺以外にはあと一人だけしかいれてないとは言ってたけど。


 怪訝(けげん)そうな俺の顔に気付いたのか、星宮が説明してくれた。


「鬼灯先生は昨年の終わりからうちの学校に赴任が決まっていたの。正式に教員になったのは今年度からだけど、中等部でも噂になってたわ。鬼才が教員になるって」


「へー、そんな風に呼ばれてたんだ」


 鬼才なんて、すごい呼ばれ方だ。それにしても、鬼灯先生が片足を失ったのが去年だと話していたから、そこから一年も経たずにリハビリをして学校に来たのか。


 とんでもないメンタルと身体能力だが、あの人ならと思ってしまう。


「元々有名な守衛魔法師(ガード)だったのよ。大学を出てから二年でA級にまで上がった人だから」


 A級がどれだけ凄いのかはピンと来ないが、内部生の星宮が驚いているってことは相当なんだろう。


「だから教員になるって聞いて、たくさんの先輩たちが専攻練せんこうれんに申し込みに行ったけど、相手にしてもらえなかったそうよ。四月はそれで結構もめていたみたい」


「ああ。正直、もめそうな気配は常に出しているよな」


 俺の魔法(マギ)なし鬼ごっこもそうだが、やることが極端なんだよ。専攻練せんこうれんに来た生徒たちもすげなく袖にしたに違いない。


 まあそんなことは俺にとってはどうでもいい話だ。先生のおかげで強くなれるのであれば、それだけが重要だ。


 星宮は安心した様子でほっと息を吐いた。


「でもよかったわ。それで単位が出たのなら」


「心配してくれてたのか、ごめん」


「し、しし心配してたわけじゃないわよ。ただ私のせいで落第とかになったら、ちょっと後味が悪いってだけで」


「そう思ってくれるのか。星宮は優しいんだな」


 星宮の視点では、試験中に戦いに乱入してきた邪魔者だ。そんな奴のことまでそこまで考えてくれるなんて、優しいとしか言いようがない。


 星宮の優しさに浸っているのもつかの間のことだった。


「お、もう揃ってんのか」


「今年の生徒たちは真面目ね、あなたと違って」


「おいおい、そんな言い方ないだろ。後輩たちの前だぜ」


 俺と星宮が同時に言葉の聞こえた方を振り返った。


 そこには二人の男女が立っていた。二人ともこの時期に着るには厚手のジャケットを身に付け、その胸には盾と剣のエンブレムが縫い付けられていた。


 このエンブレムを着けられるのは、たった一つの職業だけ。


 プロの守衛魔法師(ガード)だ。


「よお、初めまして。俺はB級の守衛魔法師(ガード)識宗次郎(しきそうじろう)だ」


「C級、佐々木咲(ささきさき)よ。今日はよろしくね」


 この二人との出会いと共に、俺と星宮の鮮烈で、苛烈な一日が始まったのだった。


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