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少女探し

 翌日、俺たちは怪物(モンスター)の情報を追って、様々な場所を回った。


 そこでいくつか少女の目撃情報があった。


 特にお土産屋さんに立ち寄っていたらしく、店員の人が覚えていた。


「ああ覚えてるよ。なんか独特な雰囲気があったからさあ」


「あーいたいた。なんかぶつぶつ呟いてたから気になって目で追っちゃった」


「夏でも黒いコート着てるから、暑くないのかなーって思ったよ」


 などなど。




「意外と情報出てきましたね」


 俺たちはレストランの個室で料理を待ちながら、それぞれ聞き回った情報を共有していた。


 椿先輩は考え事をしながら頷いた。


怪物(モンスター)だとしたら、誰でも無意識に警戒するだろうしねー。完全な擬態は難しいんじゃないかな」


 午前中は四人それぞれ場所を決め、聞き込みを行った。


 迷子探しと勘違いされたらしく、どこでも「お兄ちゃん? 見つかるといいね」と言われてしまった。残念だが、実の妹ならこんな熱心には探していない。


 間違いなく俺より(したた)かだからな。


「オトちゃんは何か分かった?」


 話を振られた音無さんが答える。


「私は安倍文珠院(あべもんじゅいん)を中心に回ったんですが、たしかにそこにも少女が来ていたそうです。熱心に見ているから覚えていたと」


「安倍文珠院ってどこ?」


「‥‥さあ」


「文殊菩薩が祀られた寺院だよ。安倍晴明のご先祖様が建立したことで有名なの」


 すかさず椿先輩が注釈を入れてくれる。


 このギャル先輩は博識だ。


「今のところ観光している感じしかしないねー。もしかしてご旅行中?」


「私たちはそれを追ってきたんですか」


「本当に旅行だったら話聞きたいよね。新婚旅行とかかな」


 真剣な顔で言う椿先輩に、紡が口を引きつらせる。


 この人、IQの乱高下が酷くてジェットコースタ―みたいだ。それとも俺たちが天才の領域に踏み込めていないだけなのか。


「とりあえずご飯食べて、午後は郊外の文化財を回ろう――」


 伸びをしていた椿先輩はそこで動きを止め、スマホを取り出した。


「ごめんあそばせ」


 どうやら電話がかかってきたらしく、立ち上がってスマホを耳に当てた。


 そのまま離れようとして、立ち止まる。


「――はい」


 スゥと視線が研ぎ澄まされ、さっきまでとはまるで別人の声が発せられた。


 それだけで、どんな電話だったのかおおよそ察しがつく。


 短く応対を済ませると、椿先輩はいつもの笑顔を俺たちに向けた。


「ごめんごめん。ちょっと近くで怪物(モンスター)が出現したらしくてさ、応援に来て欲しいって」


 やっぱりか。


「分かりました」


「こっちはこっちで聞き込み続けますね」


「頑張ってください」


「終わったら連絡するからねー! あ、支払いは済ませておくから、私のは皆で食べちゃって!」


 そう言い残すと、椿先輩は巨大なアタッシュケースを片手に個室を出ていった。


 突然の仕事に愚痴を言わない。切り替えが早い。後輩に気を遣わせない。椿先輩、出来る女過ぎるだろ。


 年上にキュンとくる女の子の気持ちが少し分かってしまった。あの人に甘やかされたら一瞬で骨抜きにされる気がする。


 それより、どこで怪物(モンスター)が出たんだろう。怪物警報(モンスターアラート)が鳴ってないってことは、結構な距離があるはずだ。


 スマホを取り出して調べると、どうやら兵庫県で怪物(モンスター)が出現しているらしい。


「ここから兵庫って相当な距離だぞ。間に合うのか?」


「大丈夫。兵庫までなら、二十分もかからないと思う」


「えぇ‥‥」


 車でも一時間以上はかかる距離だぞ。


 そういえば奈良で合流した時も空から現れたし、初対面は壁に立っていた。


 空を飛ぶのが得意な魔法(マギ)なのかもしれない。


 浮遊するホバーや、翼を作り出す魔法(マギ)なら聞いたことがあるが、自由自在に空を飛ぶ飛行魔法は聞いたことがない。


「放っておいても無事に帰ってくるから、こっちはこっちでやれることをやった方がいい」


「そうだな。じゃあ次に回るところを調べておくか」


「その前にすみません」


「どうした?」


 音無さんがおずおずと手を上げて言った。


「言うタイミングが見つからなかったんですが、実は少し気になる情報があって」


「気になる情報?」


「はい。少女を見たという人が言っていたんですが――」


 その日は他にも観光客がいて、少女に子供がぶつかったという。その際に持っていたアイスが少女の外套(がいとう)を汚してしまったのだ。


 すぐに子供の親が拭き取ろうとしたが、少女はそれを手で制すると、


『問題ありません。すぐに洗えますから』


 と言い、その場で手から水を出してアイスを洗い流してしまったという。


 ――中々見事なもんでね。水が生き物みたいに動くから見入ってしまったよ。


 その人は音無さんにそう話したという。


魔法(マギ)を、使ったのか?」


「分かりません。その人には魔法(マギ)に見えただけで、怪物(モンスター)としての力だったのかもしれませんし、もっと何か別の道具だった可能性もあります」


「それはそうかもしれないけど」


 少女が怪物(モンスター)だったとして、一般人の目の前でそんな不用意に力を見せるだろうか。


 日常生活で当たり前に使っていたような雰囲気を感じる。


「もしかしたら、人間の協力者という可能性も‥‥」


 音無さんの言葉に俺と紡は押し黙った。


 ないとは言い切れない。


 この世には俺たちの尺度でははかれない価値基準を持っている人間たちがいる。


 煉瓦の塔(バベル)の監督者、教授(プロフェッサー)もその一人だ。


「どちらにせよ、正体は直接会って聞くしかなさそうだな」


 そう、悩んだところでやるべきことは変わらない。会って確かめる。


 言葉を交わすのか、拳を交えるのかは、その時決めることだ。


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