ムカつくわぁ
◇ ◇ ◇
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥その、良かったのか?」
「何が」
そりゃ真堂と音無さんを二人きりにしたことだが、という言葉を村正はかろうじて飲み込んだ。
下手な言葉は今の紡には致命傷になりかねないという判断だ。
モテないが気遣いは出来る男、村正源太郎である。
真堂から音無律花の話は聞いていた。その話を聞いていた時から、何とも言えない嫌な予感を感じていた。
今日一緒にご飯を食べ、その予感が正しかったことを確信した。
音無律花は護に特別な想いを抱いている。
それが恋愛なのかもっと別の者なのかは分からない。分からないが、年頃の男女の間に特別な感情があるというだけで、それはもう無視できない危機なのだ。
特に幼馴染という立場の人間にとっては。
「あー、何でもない」
「気、使わなくていいから」
「‥‥そうか」
「別に、今更だから」
紡の言葉は短く、重かった。
今更。今更か。
それが何を指しているのかは具体的には分からない。
ただ真堂護が時折見せる遠い視線の先に誰かがいることは、村正もなんとなく気付いていた。
そもそも真堂護は異質なのだ。
高校から入学してくる生徒は珍しくない。
村正も高校からの外部生だ。
しかし真堂護はその中でも明らかに特異な存在だった。
使っている魔法は明らかに固有。だた本当に固有持ちなら、試験など必要とせず桜花魔法学園の方から編入の声がかかる。
それだけではない。
護の最も頭抜けている点は、意志の強さだ。
ランク2を目前にして、一切怯まない度胸。
化蜘蛛に殺されかけて尚挑む不屈の闘争心。
まだ実戦経験のない学生が持ち得るものではない。
何かが違う。
何かを背負わされている。
それくらいは、傍から見ているだけの村正にも分かるのだ。
「一体なんなんだろうな、あいつは」
「護は何も変わってない。私が知っている時から、何も」
「そうか‥‥」
「そばで見てると、ずっと危なっかしくて、でも昔は何も言えなかった」
こつん、こつんと足元の石を蹴り転がすように、言葉が途切れ途切れに続く。
「今なら言えるって、思うの」
「‥‥」
それを最後に紡はむすっと黙ったまま下を向いた。
さっきのファミレスでのやり取りに合点がいった。
二人は小学生の時からの付き合いだと聞く。その時から今と同じような性格なら、よほど見ていてハラハラしたことだろう。
だから口が強くなる。
言いたいことが山ほど出てくる。
「ま、あいつもよく分かってるだろ」
結局口から出たのは、そんな慰めになっているかも分からない言葉だった。
それが伝わったのかどうか分からない。紡は視線を合わせることなく歩を速めた。
――クール系幼馴染に、天真爛漫娘、か。
村正は藍色に染まり始めた空を見上げ、ため息と共に言った。
「あいつの応援、やめよっかな‥‥」




