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デュラハンJKのVRMMO活動記  作者: とあるアルパカ


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9 ありのままで

 ギルドホール。


 例のステンドグラスの下。

 黒ローブたちが、静かに集まっていた。


「……首なし監視者様」

「次なる導きを――」


「もういい!!」


 ――机が鳴った。


「私は!神でも象徴でも監視者でもない!ただの初心者プレイヤーです!!」


 沈黙。


 Noct_Reiが、おそるおそる口を開く。


「……つまり」

「“第二神託の拒否”……?」


「拒否って言葉やめて!!」


 Kanadeは、首を抱え直した。


「いいですか!?」

「私は今日から――

 普通にゲームします!!」


《 システム》

《Kanadeが“自己定義”を試みています》


「試みないで!!

 確定して!!」


普通化計画・第一段階


 Kanadeは宣言した。


「ギルド解散します!!」


「「「……!!」」」


 ざわめき。


「だ、だが……」

「眷属の居場所が……」


「眷属って言わない!!

 普通のギルドです!!」


《システム》

《ギルド名変更が提案されました》


「え、なにこれ……」


《候補》

・首なし監視者の眷属

・首なし観測者の集い

・かなでのんびり会


「最後にしなさい!!」


普通化計画・第二段階


 Kanadeは街へ出た。

 黒馬には――乗らない。


「今日は……徒歩です」


「おお……」

「徒歩……」

「人の歩み……」


「感動するな!!」


 首も、ちゃんと装着。

 フードを被る。


「これで……普通……」


《システム》

《“異質演出”が一時的に抑制されました》


「余計なことしないで!!」


普通化計画・第三段階


 初心者向け掲示板。


【クエスト】

「はじめてのスライム退治」


「これだよ……これが普通だよ……」


 Kanadeは、

震える手で受注した。


《⚔ クエスト開始》

《推奨人数:1》


「よし……」


 森の中。

 小さなスライム。


「……こんにちは」


 ――その瞬間。


《⚠ 周囲にプレイヤー接近》


「え?」


 茂みから現れる、

十数人の黒ローブ。


「なぜ!?」


「護衛です」

「首なし監視者様の安全確保を――」


「だからやめて!!」


《システム》

《“過剰保護”が発生しています》


「システムもやめて!!」


 Kanadeは叫んだ。


「もういい!!私、逃げます!!」


 走った。

 森を抜け、川を渡り、街へ。


 背後から聞こえる声。


「首なし監視者様、撤退ですか!?」


「撤退じゃない!!ただの逃走です!!」


 街の噴水前。

 Kanadeは息を切らした。


「……もう」


「普通になるの、

 本気でやる」


 その時。


《GM:Ordis(個別通信)》


 「……Kanadeさん」


「はい……」


「……運営としても」

「あなたには、普通のプレイを推奨したいところです」


「じゃあ協力してください!!」


 少し、沈黙。


「……一つ、提案があります」


「……なに?」


「存在感を下げる特殊オプションです」


「そんなのあるんですか!?」


「本来は、テスト用ですが……」


「ください!! 今すぐ!!」


《 システム》

《特殊オプション:《低存在感モード(β)》をKanadeに付与しました》


 世界が、少しだけ静かになった。


 黒ローブたちが、首を傾げる。


「……あれ?」

「どこに……?」


 Kanadeは、

初めて誰にも注目されず

歩いていた。


「……これだよ……これが、普通だよ……」


 だが。


《注意》

《低存在感モードは、首が外れる仕様には影響しません》


「そこだけ普通にして!!」


 《低存在感モード(β)》


 それは、夢のような機能だった。


《効果》

・視線誘導値:低下

・話題生成率:低下

・イベント発火確率:低下


「……最高では?」


 Kanadeは、

人混みの中を歩いていた。


 誰も見ない。

 誰も囁かない。

 ざわつかない。


「……普通……」


 胸が、じんわり温かくなる。




 武器屋。


「いらっしゃ……」


 NPC店主は一瞬Kanadeを見て、

そのまま視線を逸らした。


「……いらっしゃい」


「っ……!」


 感動した。


「……私、ちゃんと客として認識されてる……」


 防具屋

 雑貨屋

 露店


 全部、普通。


「これだよ……私が欲しかったの……」


 Kanadeは、

パン屋の前で立ち止まった。


「初心者向け回復パン……」


 ほかほか

 安い

 普通


「ください」


 NPCが、袋に入れて差し出す。


「ありがとうございました」


 完璧な日常。




 それは、本当に偶然だった。


 Kanadeが、

パンを受け取ろうとして――

手が滑った。


「あっ」


 ――ころん。


 首が落ちた。


 石畳の上で、

小さく転がる頭部。


「……」


 Kanadeは、

ゆっくりとしゃがみ、

首を拾い上げた。


「……よいしょ」


 ――その瞬間。


《⚠ 低存在感モード:一時停止》


「え?」


 空気が、変わった。


「……え?」

「今の……?」


 誰かが、見た。


「首……外れた……?」


 誰かが、囁いた。


「……演出?」

「いや、普通に落ちた……」


 低存在感モードが、

無情にメッセージを表示する。


《システム》

《“異常挙動”を検知》

《存在感を通常値に復帰します》


「やめてええええ!!」


 視線が集まる。


「え、なにあれ」

「首……持ってる……」

「新イベント?」


「違います!!事故です!!」


 パン屋のNPCが、

静かに言った。


「……お客様」


「は、はい……?」


「その……

 首は、商品ではありません」


「わかってます!!」


 通りの向こうで、

誰かが叫んだ。


「首なしだ!!」


「やめて!!

 今は首ある!!」


 チャットが、

一斉に流れ始める。


【近距離チャット】

「さっきの見た?」

「あれが巷で噂の……」

「あんなのバグの温床じゃない?」

「うっ!頭が!」


《システム》

《“噂生成率”が急上昇しています》


「誰が生成してるの!?私だよね!?


 Kanadeは、

フードを深く被り、

足早に立ち去ろうとした。


 だが、背後から。


「……あの」


 振り返ると、

初心者プレイヤーが一人。


「……その首、外れるんですね……」


「外れます……」


「……すごいですね」


「すごくない!!」


 その目が、

少しだけ輝いたのを、

Kanadeは見てしまった。


「……」


(まただ)


「……あのね」


 Kanadeは、

静かに言った。


「これは、普通じゃないからね」


 初心者は、

こくりと頷いた。


「……でも」


「……?」


「……ちょっと、憧れます」


「憧れないで!!」


 ギルドホールに戻ると、

Noct_Reiが待っていた。


「……首なし監視者様」


「やめてって言ってる!!」


「……低存在感モード、解除されましたね」


「首が落ちたからね……」


 Kanadeは、

首をしっかり固定した。


「……普通ってさ」


「……?」


「首が落ちないことも含まれてるんだね」


 遠くで、

噂が生まれる音がした。


《噂》

《“低存在感でも首は落ちる”》


「だから広めないで!!」


 こうしてKanadeの

普通な一日は、

パン一個と引き換えに

崩壊した。


 だが――


 彼女は、まだ諦めていない。

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