7 一般高校生(?)に宣戦布告?
異変は、外部掲示板から始まった。
【攻略板・速報】
「首なし監視者教団、思想固まり始めてない?」
「GM監視付き+ギルド宗教化は普通に危険では」
「放置したらワールド崩壊系イベントになるやつ」
……私はその頃、
街外れで草を抜いていた。
「……これ、雑草駆除クエストだよね……?」
首を抱え、のんびり作業。
至って平和。
だが世界は、私を放っておかなかった。
《ワールドアナウンス》
『複数ギルドより、非公式大規模組織に対する警戒申請が提出されました』
「……え?」
《続報》
『これを受け、期間限定ワールドイベント《秩序と監視の天秤》が発生します』
「えええええええ!?」
嫌なイベント名!!
絶対私関係あるやつ!!
数分後:中央広場
街の中央に、巨大な掲示が出現していた。
《ワールドイベント概要》
対象組織:
《首なし監視者の眷属》
概要:
非公式思想集団の影響力拡大を受け、
秩序維持ギルドが対抗措置を取る
勝利条件:
対象組織の“象徴”を制圧、もしくは対話により沈静化
「象徴ってなに!!?」
……薄々、気づいてはいた。
だが、次の行で確信に変わる。
《※象徴対象:Kanade》
「私じゃん!!!!」
背後で、黒ローブたちがざわめいた。
「……ついに来たか」
「秩序側が動いた……」
「首なし監視者様を“危険思想”として認定したか……」
「してない!!雑草抜いてただけだから!!」
その時、
白と金の装備に身を包んだ集団が現れた。
統一感のあるエンブレム。
無駄のない動き。
名前表示。
《ギルド:アーク・オーダー》
「うわ……ガチ勢ギルド……」
最前線攻略で有名な、
秩序・効率・規律の塊みたいなギルドだ。
そのギルドマスターらしき人物が、一歩前に出る。
「《首なし監視者の眷属》の代表者に告ぐ」
「代表者っていうか被害者です……」
「貴殿らは、GM監視という特例を利用し、思想的結束を形成している」
「してないって言ってる!!」
「よって我々は、このイベントを“排除”ではなく――健全化として進行する」
「言い換えても怖い!!」
Noct_Reiが、私の前に立った。
「首なし監視者様。どうか下がってください」
「下がらない!!前線に立つのやめて!!」
だが、すでにシステムは動いていた。
《⚔ イベント開始》
《秩序派ギルド vs 首なし監視者の眷属》
空に、二つの陣営ゲージが表示される。
私の名前の横に、象徴マーク。
「なんで私、ボス扱い!?」
秩序側のチャットが流れる。
【秩序陣営】
「象徴を説得すれば勝ちだ」
「戦闘より会話判定が重要らしい」
「会話で!?」
一方、こちら側。
【眷属チャット】
「守れ」
「近づけるな」
「首なし監視者様を“仕様変更”から守護せよ」
「仕様変更ってなに!?私、ナーフされるの!?」
私は叫んだ。
「ちがう!!私は宗教も教団も作ってない!!ただゲームしたいだけ!!」
――その言葉に、
イベントログが反応した。
《イベント分岐判定中……》
GM:Ordisのアイコンが、
今までで一番強く光った。
《【監視ログ】:Kanadeの意志が
イベント中枢に直接影響しています》
「やめてええええええ!!」
だが、世界はすでに動き出していた。
“首なし監視者教団”を巡る対抗イベントは、
PvPでも、PvEでもない。
――PvI。
プレイヤー vs イメージ。
そして私は、その中心で思った。
「……このゲーム、初心者向けって書いてなかったっけ……?」
《秩序と監視の天秤》イベントは、
本来なら冷静な対話と数値管理で進むはずだった。
……はずだった。
「象徴《Kanade》に直接接触、
会話判定を――」
秩序派ギルド《アーク・オーダー》の前線。
整然と並ぶ白金装備の中、
一人のプレイヤーが立ち尽くしていた。
名前表示。
《Sieg_Unit03》
「……」
彼の視線の先には、
黒馬に乗り、首を抱えた少女。
その頭上には――
GM監視アイコン。
「……おかしいだろ」
Siegは小さく呟いた。
「初心者。戦闘力も低い。なのに……」
イベントUIが、彼の視界に展開される。
《象徴対象:Kanade》
《状態:非敵対/混乱》
「……非敵対、か」
彼は歩み出た。
「待て、Unit03」
後方から、ギルドマスターの声。
「距離を保て。象徴に接近しすぎると、イベント分岐が不安定になる」
「……了解」
だが、Siegの足は止まらなかった。
接触判定範囲
Kanadeは、必死に周囲へ叫んでいた。
「私は普通のプレイヤーです!!教も! 教団も!やってません!!」
「……」
Siegの胸に、
なにかが刺さった。
「……普通、か」
彼は思い出す。
最前線攻略。
最適解。
死亡回数ゼロ前提の立ち回り。
疲れていた。
効率のために、
感情を削ってきた。
「……普通でいたい、か」
その瞬間。
Kanadeが、首を落とした。
「え、ちょっ……あっ!!」
ころん、と地面に転がる首。
慌てて拾い上げる。
「今のは事故です!!演出じゃないです!!」
……演出だった。
少なくとも、Siegには。
「……」
Siegの視界に、
小さな選択肢が浮かんだ。
《行動選択》
象徴を拘束する
象徴を説得する
象徴を理解する
「……理解、だと?」
そんな選択肢、
今まで見たことがなかった。
「Unit03! 何をしている!」
背後の声を無視し、
Siegは静かに言った。
「……君」
「はい!?」
「……無理はしなくていい」
Kanadeが固まる。
「それ……私が言ったやつ……」
「いい言葉だ」
Siegは、
白金のヘルメットを外した。
「俺は、無理をしてきた」
《 イベントログ》
《Sieg_Unit03が“秩序”を再定義しました》
「……え?」
次の瞬間。
《⚠ 陣営移動発生》
Sieg_Unit03 が
《アーク・オーダー》を離脱しました
「なっ!?」
「Unit03!?」
秩序派が、ざわめく。
Siegは、ゆっくりと膝をついた。
――Kanadeの前で。
「……首なし監視者様」
「言わないで!!」
「俺は……守る側に回る」
《 システム》
《Sieg_Unit03が《首なし監視者の眷属》に参加しました》
黒ローブたちが、息を呑む。
「……秩序派から、寝返り……」
「しかもUnit03……戦力高すぎる……」
Kanadeは、頭を抱えた。
「なんでみんな……そんなに重く受け取るの……」
だが、Siegは穏やかだった。
「……安心しろ」
「なにを……?」
「君は、何もしていない」
「……」
「それが、一番刺さった」
イベントUIが、静かに更新される。
《イベント状態更新》
《秩序陣営に“動揺”が発生しました》
《中二的共鳴率:上昇》
「中二的共鳴率ってなに!?」
Kanadeの叫びを背に、
秩序派の隊列は――
わずかに、だが確実に崩れ始めていた。




