6 ギルド設立とかもうやめて…
それは、私が草原で一人スライムを眺めていた時に起きた。
「……平和だなぁ……」
守護班の気配もない。
監視アイコンも静か。
首も外れていない。
――奇跡の数分間だった。
その時。
《ワールドアナウンス》
『希少アイテム《盟約の紋章》が取得されました』
「……あ」
嫌な予感しかしない。
《取得者:Noct_Rei(パーティ名:首なし監視者様守護班)》
「やっぱり!!」
《盟約の紋章》。
それはこのVRMMOにおいて、ギルド設立に必須な超希少アイテム。
ドロップ率は限りなくゼロに近く、
最前線攻略コミュニティですら
「理論上は取れる」
「でも人の心が先に折れる」
と評されていた代物。
「なんで取れてるの!?」
答えは簡単だった。
彼らは――
首なし監視者様を守るためなら、時間も正気も捧げる覚悟があった。
数分後:草原
空間が歪み、黒ローブ集団が儀式みたいなエフェクトと共に現れた。
「首なし監視者様」
「いやその呼び方やめてって何回――」
Noct_Reiが、恭しく跪く。
両手には、淡く光る紋章。
「我ら、ついに成し遂げました」
「なにを!?」
「ギルド設立用アイテム《盟約の紋章》の獲得を」
「……え?」
「これにより、我らは一つになれます」
「いや一つにならなくていいから!!」
だが、周囲のメンバーたちはすでに感極まっていた。
「最前線でも三ヶ月出なかったのに……」
「やはり首なし監視者様の加護……」
「存在がドロップ率を歪めている……」
「私なにもしてない!! 草見てただけ!!」
Noct_Reiが立ち上がり、宣言する。
「よって――
ここに《ギルド設立》を行います」
《システムメッセージ》
《盟約の紋章》を使用しますか?
YES
「ちょっ、待っ――」
ピカァァァァァン!!
空に巨大な魔法陣。
地面に刻まれる黒銀の紋様。
どう見ても世界的イベント演出。
《ギルドが設立されました》
ギルド名:首なし監視者の眷属
「名前ええええええ!!!」
そして、追撃のように表示された文字。
《ギルドマスターを設定します》
《条件:盟約の紋章と最も“因果値”の高いプレイヤー》
「因果値ってなに!?」
《Kanade が選出されました》
「やめろおおおおおおおお!!!!」
《Kanade はギルドマスターに就任しました》
私の頭上に、
【GM】ではないが【Master】と書かれた称号が浮かぶ。
「……」
沈黙。
「……おめでとうございます、首なし監視者様」
「祝うな!!!」
私は首を両手で抱え、天を仰いだ。
「私、初心者クエスト……キノコ採取しかしてないんだけど……」
Noct_Reiは、穏やかに微笑んだ。
「ご安心ください」
「なにを!?」
「ギルド運営は、我々がすべて行います」
「それはそれで怖い!!」
《【監視ログ】:Kanadeが“大規模プレイヤー組織の象徴”になりました》
「Ordisさあああああん!!もう公式で止めてええええええ!!!」
だが、返答はない。
ただ、ワールドチャットだけが静かに流れていた。
【ワールドチャット】
「首なし監視者、ギルド長になったらしい」
「初心者でギルド設立は草」
「もう物語の主人公だろ」
私は呟いた。
「……このゲーム、普通に始めるルート消えてない?」
――ギルドホール。
重厚な石造り。
天井は高く、意味ありげなステンドグラス。
初心者ギルドとは思えない荘厳さだ。
「……なんでこんな立派なの」
答えは簡単だった。
「首なし監視者様の威光です」
「やめて!!」
私は壇上に立たされていた。
首はちゃんと抱えている。
視界の端には、例のアイコン。
《【監視中】:GM:Ordis》
そして眼下には、整列したギルドメンバーたち。
黒装束率、九割超え。
全員が無言でこちらを見上げている。
……怖い。
「では――」
Noct_Reiが一歩前に出て、朗々と告げた。
「ギルドマスター《Kanade》様より、我らが進むべき道のご宣示を頂戴したい」
「宣示ってなに!?」
ざわ……
だがすぐに静まり返る。
「え、えっと……」
私は完全に困っていた。
ギルドの方針?
知らない。
ギルド運営?
やったことない。
そもそも私は――
初心者で、首が外れるだけの一般プレイヤーだ。
(……どうしよう)
適当に言えばいい。
うん、軽い感じで。
深い意味なんてない言葉で。
私は考え、そして――
口を開いた。
「……えっと……」
「無理は、しなくていいんじゃないかな」
――沈黙。
…………。
「……あれ?」
次の瞬間。
ザァァァァァ……!!
ギルドメンバー全員が、
一斉に跪いた。
「な、なに!?」
Noct_Reiの声が、震えていた。
「……“無理は、しなくていい”……」
「深い……」
「首なし監視者様は、効率至上主義を否定された……」
「命を削る最前線攻略への、明確な拒絶……」
「いやそんな意味じゃ――」
《【監視ログ】:Kanadeの発言が“ギルド理念”として記録されました》
「記録するな!!!」
Noct_Reiが、胸に手を当てて宣言する。
「承知しました」
「なにを!?」
「我ら《首なし監視者の眷属》は――
過剰な自己犠牲を是としない」
「してない!! そんな立派なこと言ってない!!」
「休息を恐れず」
「撤退を恥とせず」
「首を失う前に、立ち止まる」
「最後の例えやめて!?」
誰かがチャットに書き込んだ。
【ギルドチャット】
《第一神託:無理は、しなくていい》
「神託!? 今“第一”って言った!?」
視界の端で、監視アイコンが一瞬だけ点滅した。
《【監視ログ】:ギルドに“宗教的傾向”が発生しました》
「Ordisさん!! 止めて!!これ以上増えたら本当に取り返しつかない!!」
しかし、誰も止まらない。
「では、ギルド方針は決定した」
「無理をしない最前線攻略」
「効率より、継続を」
Noct_Reiが、深々と頭を下げた。
「首なし監視者様。
次の神託も、いずれ……」
「いらない!! 二つ目はいらない!!」
私は壇上で叫んだ。
「お願いだから!
普通にゲームさせて!!」
《【監視ログ】:Kanadeが“強い願望”を表明しました》
「それも神託にしないでえええええええ!!!」
こうして――
初心者ギルドは、
ギルド長の一言によって
独自の哲学を獲得してしまった。
なお、私はまだ――
二回目のキノコ採取クエストを終えていない。




