2 デュラハン人生初ゲームの世界へ
――ログイン直後。
私の視界は、地面よりだいぶ高い位置にあった。
なぜなら、私は黒馬に乗っていたからだ。
いや、正確に言うと――
「……なんで勝手に召喚されてるの、この子」
ゲームを始めたばかりの新人プレイヤーが、黒光りする漆黒の馬にまたがっている時点でおかしい。
しかもこの馬、ただの馬じゃない。目が赤く光ってる。
「え、これチュートリアル馬? いや絶対違うよね?」
首を抱えたまま(※抱えている首がしゃべるというシュールな絵面)、周囲を見渡す。
ファンタジー風の街。初期装備の剣と盾を持った初心者たちが広場を走り回り、商人NPCが声を張り上げている――
その中に、私と黒馬。
……そりゃ、目立つよね。
「お、おい……見ろよ……」
「え、あれ新ボスイベント? いや待て、名前表示あるぞ」
「首、ねえんだけど!?」
広場にいたプレイヤーたちが、一斉にこっちを凝視する。
そりゃそうだろう。
首を小脇に抱えたプレイヤーが、真っ黒な魔馬にまたがって登場だ。
RPG的には完全に中ボスのカットイン演出である。
「きゃああああああああああ!!」
「街中でイベント始まったぞおおおお!!」
「討伐PT組め! 早く組め!!」
……いや待て落ち着け!?
「ちょっ、ちがっ、私はプレイヤーだってば! NPCじゃない! イベントじゃない!!」
慌てて馬を降りようとした瞬間――
ヒヒィィィィン!!
黒馬が嘶き、炎のようなエフェクトを撒き散らす。
見た目が完全に魔王軍。
「ぎゃああああああああ!! 街燃える!?」
「GMコールだGMコール!!」
「やめろおおお!!」
私は自分の首を抱えたまま馬から飛び降り、必死に両手を振った。
「私はプレイヤー!! 九首見奏!! 高校二年生!! 趣味はゲームと――」
言いかけた瞬間、後ろから声がした。
「――お姉ちゃん、かっこいい!!」
振り向くと、小さなエルフの女の子(多分NPC)が、目を輝かせて私を見上げていた。
「ねえねえ、首、ほんとに取れるの!?」
……ああ、完全に「触ってもいい?」って目だ。
「と、取れるけど……」
おそるおそる、首を持ち上げて見せる。
スポーン!
――外れる。
「うわあああああああああ!!」
「子供の前で首外したぞ!!」
「ホラー演出すぎるだろおおおお!!」
広場は更なる大混乱に包まれた。
「やばい……これ、初日BANコースなんじゃ……」
頭を抱える(物理的に)私の横で、黒馬がドヤ顔で蹄を鳴らしていた。
「――首、ほんとに取れるんだぁ!」
無邪気なエルフ少女(NPC)が拍手をしている後ろで、プレイヤーたちは大パニック。
私のログイン初日は、もはやお祭り騒ぎどころじゃなかった。
「おいGMコールしろ! これバグだろ!」
「いや、あれ隠しボスイベントだって!」
「うわ、俺の画面に《黒き首なし騎士降臨》ってシステムメッセージ来てねえけど!?」
チャット欄は完全に修羅場。
その時、私の視界に――赤い警告ウィンドウが出た。
《システム通知:あなたへの通報が多数寄せられています》
《運営が状況確認のためGMを派遣します》
「え、ちょっ……派遣って何?」
次の瞬間。
ドォォォォン!!
広場の真ん中に、青白い光の柱が降り注ぐ。
そしてその中から現れたのは――
『GM:Ordis』
白いローブを纏い、背中に羽まで生えている、
いかにも管理者権限です!って見た目の男。
「――プレイヤー《Kanade》。ただちに行動を停止してください」
「うわあああああ!?」
いきなり名前呼ばれた!?
「現在、あなたのアカウントに対して“ボスイベント偽装” “周囲プレイヤーへの恐怖演出” “ワールドバランス崩壊の可能性”という通報が殺到しています」
「いやいやいやいや!! そんなつもりじゃないです!! そもそも私、ただの――」
《システム通知:GMによる強制ログアウト処理を準備中》
「やめろおおおお!!」
私は自分の首を抱えたまま、必死に叫んだ。
「私、チュートリアルも終わってないんです!!ログイン5分目なんです!! BANされるとか早すぎません!?」
必死の訴えに、広場のプレイヤーたちがざわつく。
「5分でGM呼ばれたやつ初めて見た」
「逆にすごいよな」
「レジェンド誕生の瞬間を見てるかもしれん」
「うるさいわ!!」
ツッコミを入れつつも、GM:Ordisは冷静だ。
「証明してください。あなたが“イベント用NPC”ではなく“プレイヤー”であることを」
「そ、そんなの簡単です! プライベートなこと言いますから!!」
私は焦って、思わず叫んだ。
「高校二年生!! 趣味はゲームとホラー映画!! 将来の夢は……普通に生きること!!」
広場が一瞬静まり返った。
「……生々しいな」
「本当にプレイヤーっぽい……」
するとGM:Ordisが、淡々と呟く。
「なるほど……ログイン5分目で人生相談を始めるNPCは存在しません」
「だからNPCじゃないって言ったでしょ!!」
その瞬間、警告ウィンドウが一つ消えた。
《強制ログアウト処理はキャンセルされました》
「…………よ、よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず黒馬の首に抱きつく(私が抱えてる自分の首はわちゃわちゃする)。
でも、GM:Ordisはまだ険しい顔をしていた。
「しかし……プレイヤー《Kanade》。あなたが持ち込んだ《黒馬》および《首なし状態》は、運営データに存在しない要素です。今後、慎重に監視させてもらいます」
「いや、それ私もわからないんですよ! たぶん……VRギアをちょっとだけ改造したから……」
「――改造?」
GM:Ordisの目が細くなる。
《システム通知:運営があなたのVRデバイスをスキャンします》
「まってまってまって! それやめて! なんか燃えるやつ!!」
慌てふためく私をよそに、GMは光に包まれて消えていった。
残された広場のプレイヤーたちは――
「……あいつ、本物のプレイヤーだったんだな」
「いやでも、黒馬の目光ってるし、やっぱりボスっぽい」
「GM監視付きプレイヤーって響き強いな」
そんなひそひそ話の中、私は呟いた。
「……なんか、もうこの街歩くだけで事件起きそうな気がする」




