11 運営会議
「釣り竿は悪くない」
場所は、
プレイヤーの目には決して触れない
運営専用ルーム。
無機質な会議卓。
壁一面のモニター。
「……では、次の議題です」
GM:Ordisが、ログを表示した。
《案件No.417》
“釣り竿の戦闘利用について”
「問題となったのは――」
映像が再生される。
・湖畔
・釣り人
・釣り竿
・レイド級モンスター乱入
「……」
「……」
「……初心者、ですよね?」
「はい」
沈黙。
「……初心者とは」
別の運営スタッフが、恐る恐る口を開く。
「正直に言うと、釣り竿の使用そのものは想定内です」
「問題は――あのプレイヤーです」
「Kanadeさん、ですね……」
名前が出た瞬間、全員が小さく息を吸った。
「彼女のログ、また“例外”が多すぎる」
「釣り判定」「環境干渉」「イベント中枢接触」
「……釣り竿が悪いわけじゃない」
Ordisが、はっきりと言った。
「レイド級を釣る確率は、理論上ほぼゼロです」
「はい。通常は、深度・耐久・プレイヤーレベル、すべて足りません」
「つまり――」
「再現性がない」
会議室が、少しだけ緩んだ。
「禁止する理由が、弱いですね」
「むしろ、釣りの楽しさを損なう恐れがあります」
「プレイヤーが真似しても、まず起きません」
誰かが、
ぽつりと言った。
「……“よほど”じゃない限り」
「……ええ」
「よほど、イベント発生の神に愛されているとか」
「……」
全員の視線が、Kanadeのログへ。
「……」
「……彼女の場合は、“よほど”に該当しますね」
Ordisが、
結論を読み上げた。
「釣り竿の戦闘利用は、禁止しません」
「理由」
「・再現性が極めて低い」
「・意図的再現が不可能」
「・釣りコンテンツの自由度を尊重」
「加えて――」
「Kanadeさんは、意図的に行っていない」
「……本人が一番困ってますしね」
会議室に、苦笑が広がる。
「では、彼女への対応は?」
少し、間があった。
「……特にしない」
「……え?」
「何もしないのが最適です」
「触ると、またイベントになります」
「……」
「同意します」
会議終了間際。
「……一応、注意文だけ出しますか?」
「どんな?」
「“釣り竿でレイドモンスターを戦場に呼び込む行為は、意図的に行わないでください”」
「……」
「誰に向けてですか?」
「……Kanadeさん、一名」
全員、うなずいた。
《内部決定》
釣り竿の戦闘利用:許可
※ただし
レイドモンスターを戦場に誘導する行為は、
“よほど”の偶然を除き発生しないため想定外とする
「……押し通しましたね」
「ええ」
「釣り竿は、悪くありません」
モニターの向こうで。
Kanadeは、釣り竿の折れたまま修理屋に向かっていた。
「……次は、池で釣ろう」
その背中に、
運営はそっと祈った。
「……どうか、何も起きませんように」




