1 亜人だってゲームしたい
亜人。
人であり、人ならざる者。
吸血鬼、雪女、妖狐……そんな名前を聞けば、だいたい想像がつくだろう。
人の姿をしているけれど、ちょっと普通じゃない特性を持った存在たち。
だが――私は違う。
私は、デュラハンだ。
首を小脇に抱え、漆黒の馬にまたがって現れる死の騎士。
ゲームやアニメなら中ボスか、四天王ポジションに必ず一人はいるような、あの種族だ。
カッコいい? 怖い? うん、だいたいそんなイメージだろう。
そんな強そうなデュラハンの末裔――それが、私。
**九首見奏**である。
……と、ここまで言うと「おお、親もきっとすごい人(?)なんだろう」と思うかもしれない。
が、残念ながら私の両親はふつうの人間だ。
どうやら隔世遺伝というやつらしい。
とはいえ、私はまだ十六歳の女子高生だ。
「死の騎士」だの「首なしライダー」だの言われても、そんなことより友達とゲームがしたいお年頃なのだ。
最近はVRMMOが流行っている。
私もやってみたい。みんなでダンジョンに潜って、ボスを倒して、ドロップアイテムに一喜一憂してみたい!
――しかし、ここで大きな問題がある。
私みたいな亜人に対応しているVR機器なんて存在しない。
まあ当然だろう。亜人なんてもの、そもそもこの世界じゃ「都市伝説」レベルなのだから。
私だって、仲のいい友達以外には自分がデュラハンだってことを隠している。
普段は首元を隠せるパーカーやマフラー必須。
そのためだけに制服が自由な中学、高校を選んだくらいだ。
――だけど、私はあきらめない。
この首、どうにかしてVR機器に対応させてみせる!
なにせ私は、生まれてこの方デュラハンなのだから。
なんて思っていた時期もありました。
「よし……作るか」
私は工具箱をドンと床にぶちまけた。
ネジ回し、ハンダごて、配線、ペンチ。ついでに昨日のお菓子の袋も。
――目の前にあるのは最新型VRヘッドセット《ネクスギア》。
このままじゃ装着できない。
なぜなら――
「私、首が外れるからだ!」
ガシッと自分の首を引き抜き、力説する私。
……ちなみに、横で動画を見ていた家の猫がドン引きした顔をして逃げた。
「逃げるな! お前だって私の努力の証人だぞ!」
叫んでも猫は戻ってこない。
仕方なく私は、独りきりの深夜改造に戻った。
「まずは……分解!」
パキッ。
VRゴーグルの外装が外れる。
「次に……センサーを延長!」
ビリッ。
なぜかコードが火花を散らす。
「……まあ大丈夫、大丈夫。まだ慌てる時間じゃない」
※既にかなり慌てている。
そして二時間後――
「ははははは!! 完璧だ!!」
机の上には、ケーブルが三倍に伸び、謎のパーツが盛り盛りに接続された《ネクスギア(改)》が鎮座していた。
ついでに、横にはハンダごての焼け焦げと私の指の絆創膏が転がっていた。
「見ろ、この勇姿……!」
私は右手に自分の首、左手にゴーグルを構え、勝利のポーズを取った。
「これぞ――デュラハン専用VRギア――」
言い終わる前に。
――ボンッ!!!
机の上で、謎の基板が白い煙を吹き上げた。
「ぎゃあああああああ!!!!!」
思わず首を落とす。
頭はゴロゴロと転がり、机の下で止まった。
「……」
「……まだ、直せる」
床に転がったまま、私はかすれ声でつぶやいた。
さらに一時間後。
「……で、できた……」
机の上には、さっきよりさらにゴツくて不安そうな物体が鎮座していた。
外装はガムテープで補強。
中身は配線がスパゲッティ状態。
もはや科学というより呪術の産物だ。
「これで……私も……ゲームの世界に……!」
震える手で、私は自分の首を抱え直し、ヘッドセットを装着。
センサーがピピッと光り――
『――ログイン準備完了』
「……っしゃあああああ!!!」
そう叫んだ瞬間、
――バチバチッ!!!
「ぎゃあああああああ!!!(二回目)」
煙がモクモクと上がった。
……でも、ゴーグルは起動した。
こうして、命を削りながら作られたデュラハン専用VRギアが誕生したのであった。
『――ログイン開始します』
視界が一瞬、白に染まった。
無重力に放り出されたような感覚。体の輪郭が、世界から溶けていく。
……そして、目を開けると――
「――ここが……ゲームの世界?」
目の前に広がっていたのは、まるで異世界ファンタジーの街。
石畳の広場、空に浮かぶ城、道を行き交うプレイヤーらしき人影たち。
鳥肌が立つくらい、リアル。
思わず、抱えていた首を見下ろす。
「あっ……首、持ち込み成功」
どうやら、現実の体型そのままでログインされる仕様らしい。
つまり――私はゲームの世界でもデュラハン。
「いやまあ……デュラハン専用VRギアだしね」
感心していると、目の前に半透明のウィンドウが現れた。
《キャラクターメイキングを開始します》
種族を選んでください
ヒューマン
エルフ
ドワーフ
ビーストマン
「……いや、デュラハンがないんだが!?」
叫んでしまった。
エルフの尖った耳も、ビーストマンのしっぽもあるのに、首なしはない。
「……まあ、そりゃそうか。普通いないもんな……」
しぶしぶヒューマンを選択。
《外見設定を行ってください》
鏡のようなホログラムに、自分の姿が映し出される。
現実と同じ、首のない私の姿――
「……あれ?」
次の瞬間、ホログラムの中の私の首が、ふわっと胴体につながった。
「ちょっ、勝手に首つけないで!?」
《デフォルト設定では全種族、安全基準により首が接続されています》
「安全基準って何!? 首が取れるとCERO:Zなの!?」
さすがにゲーム運営も、プレイヤーが首を持って走り回る事態は想定してなかったらしい。
「でも……このままじゃ、私のアイデンティティが……」
私は悩んだ末、外見設定の項目を延々とスクロール。
そして見つけた。
アクセサリ設定 → 特殊エフェクト → “コスチュームギミック”
そこにあったのは、
【ヘッドデタッチ:ON/OFF】
「……あったああああああ!!!」
私は即座にONに切り替えた。
バシュッと音がして、アバターの首が――
スポーン!
軽快に外れた。
抱きかかえる形になった瞬間、ようやく落ち着く。
「これだよ、これ……!」
こうして私は、公式設定では首の取れないヒューマンでありながら、
裏技的にデュラハン仕様に成功したのだった。
《キャラクター名を入力してください》
「名前か……」
悩む。
でも、ここはあえて――
『Kanade』
シンプルに本名をローマ字にして入力した。
《キャラクター登録完了――ゲームをお楽しみください!》
視界が一瞬暗転し――
「よし、いざ冒険のはじまり――」
そう意気込んだ瞬間、
「――あれ、地面が……高い?」
ふと気づくと、私の体は馬にまたがっていた。
黒く、屈強な、あの――
「ちょっ、最初から黒馬召喚してるんだけど!?」
……どうやら、
デュラハン仕様VRギアは、
運営の想定を軽々と超えていたらしい




