92話 オスじゃないですよー、おれは立派なメスですー
いつの間にか時間は午後7時を過ぎており外は暗くなっていた。ラクシィは道中のサービスエリアに車を停め、物質製造機のスイッチを入れ食材を生成し食事の準備を始めた。
「しっかし、ウンブラがメスだったとは……ついつい思いこんでたよ」
僕は頭をかきながらウンブラの頭を撫でてみる。
「オスじゃないですよー、おれは立派なメスですー。では、思いこんでた理由を聞かせてもらいましょーか」
ウンブラは気持ちよさそうにしながらご機嫌な調子で笑いかけてきた。
「まず、一人称が『おれ』だったからという単純な理由かなー」
「なははは、甘いですなシオンさん。それだったらラクシィさんは美少女でありながら『ボク』で少年口調ではないですかー。話し方で性別は推し量れないですよー」
「うおう、確かにそうだなー」
ウンブラの言い分はもっともで、話し方で性別を断定するのは早計過ぎたな。
「ちなみに、変な期待はしてはいけませんぞー」
「え、何のこと?」
「美少女には変身しないので、そこは悪しからずー」
「期待しとらんし! 僕はカラスのままが良いよっ!」
僕はウンブラと他愛も無い雑談をしているとキッチンの方で賑やかな話し声が聞こえてきた。
「うわぁ〜、すご〜い、どんどん、お野菜やお肉がでてくるよ〜」
「クスッ、実際に物質製造機を使って見せるのは初めてだったね、野菜や肉、一部の素材とかはこの機械で好きなだけ製造する事が出来るんだ」
ラクシィはローザに得意げに微笑んでいる。
「お店では……見たこと無いケド……アース・セイバーズってところだけで使ってるのカナ……?」
「うん、色々理由があって、今はボクたちで使ってるんだ。コストがまだかかるし、テスト中だったし、社会的にも、まだ出すのはちょっとね……」
「やっぱり、何かマズい問題が?」
僕とウンブラはラクシィの側まで移動する。
「これだけが量産されたら、肉や野菜、その他のもので生計を立ててる人たちに大きな影響が出ちゃうんだ。その人たちに対する保証が無い状態でこんな超技術が出回ったら、マズくてさ」
「なるほど、そういう理由があったんだな」
政治的、社会的な問題は、正直僕にはよく分かっていない。ただ、とても便利なものは、ある人たちにとっては凄く困ってしまうということ事だけは分かった気がする。
とどのつまり、僕たちだけで使ってて良いし、それが一番問題が起きないのかもしれない。
「色々、大変なんダネ……ワタシは……ソウイウノは、よく分からない……」
「イルミちゃん……」
イルミはちょっとだけ悩んだような表情をしていた。僕は頭をかきながら軽い調子で口を開く。
「うーん、まあ、良いんじゃあないか。僕たちは僕たちの出来ることをすればいいんだろうし、それは……出来ていると思うから、社会とか政治とか難しいことは、上の人に任せて良いんじゃあないかなー」
他人に丸投げした、少し無責任な発言じゃあないかと僕自身思ってしまった。でも、僕たちが持ってるのは、あくまで不死身の肉体と惑星破壊レベルの理不尽な力であって、社会がどうとかの能力じゃあない。
逆に、政治的な問題には絶対に首を突っ込んではマズいと僕の直感が言っている。その直感はアテにしていいかは正直疑問だが、ハッキリ言って絶対に関わりたくない。
「ソ、ソウカナ……?」
「シーちゃんの言ってる事はおかしくないとボクも思うよイルミ。それに、そういうことで悩むのは、イルミには似合ってないとボクは思うよ」
「そ〜だよ、そ〜だよ、わたしたちは、まいにちをたのしく暮らしていれば、それでいいんだよ〜」
「ウン……ソウダネ……アリガトウ……」
僕たちは談笑しながら調理に取りかかってゆく。
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