87話 大きなハシブトガラス
88話は9日の21時10分投稿予定です
僕が僅かな時間、立ち尽くしていると、イルミは察してくれたのか、僕が担いでいたスコップとクワ、じょうろを持ってくれた。
「あ、ありがとうイルミ」
僕はイルミに礼を言い、カラスの側に駆け寄りしゃがみ込む。だが、カラスは微動だにしない、僕は両手でカラスを包み込む。
「シ、シオンさん、何を……?」
「新しい技を覚えたんだ……剣が無い場合は触れた対象のみを再生させる超常の力を……頼む……ライフ・ストリーム!」
その瞬間、緑色に輝く光がカラスを包み込み、擦り傷を完治させ、折れた爪を再生させる。だが……。
「そんな……肉体の欠損は完全に治ったはず……なのに、どうして……」
僕はカラスに手を置くが、やはり、もう動かない……。ウンブラは僕を慰めるようにつぶやく。
「寿命だったんですよー、ここまで大きいカラス、そうそうは見かけません……ずいぶん頑張って生きたと思いますよ……」
「……そっ……か……寿命は……治せないんだな……」
モナドのおかげで太陽系惑星の寿命は永続となっても、そこに生きる生命体に影響はなかったんだ……。
「シオン……」
イルミは肩を落とした僕の背中をさすってくれた。暖かく柔らかい手の感覚が、僕に安堵感を与えてくれる。
「……ありがとな、イルミ……」
僕は両手でカラスを持ち上げ、イルミを見ながらいつもの調子で口を開く。
「さ、ここで会ったのも何かの縁だ。家の庭に埋葬して供養したい、も、もしかしたらカラスは嫌がるかもだけど」
「ソンナコトナイト、ワタシは思うよ……」
「はは、だと良いな」
僕とイルミは家に向かって歩き出す。そんな僕をウンブラは不思議そうに見つめていた。
「ウンブラ?」
「抱き抱えられたカラス……供養……う……おれ……は……」
ウンブラは震えながら頭を押さえ、カラスの亡骸へと引きずり込まれるように吸い込まれていく。
「ウンブラ!」
その瞬間、カラスの亡骸が光り輝き、羽根は光沢を取り戻し閉じた目が開かれる。そして体は2回りほど大きくなり、体長60センチほどの大きなハシブトガラスが僕たちを見上げていた。
「い、一体、何が……?」
僕は何が起こったのか理解出来ず、しばらくカラスと見つめ合う。そしてカラスは口を開く。
「えーと……何が起こったかは、おれもよく分からないんですがー、その……思い出しました……」
カラスは聞き覚えのある喋り方と声で流暢に喋る。
「まさか……ウンブラ、だよな……?」
「間違いないと、ワタシも思うよ……この子は……」
僕とイルミはお互いを見合ったあと、カラスに向き直る。
「はいー、シオンさんたちがよく知るウンブラですー」
カラスとなったウンブラは羽根を広げながら黒いクリッとした目で僕たちを見ている。予想すらしなかった状況に僕はただ唖然とするしかなかった。
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