5話 因果応報のガルドとワンパンキマイラ
「うおおおおおっ! こっちに来るんじゃねぇっ!」
「嫌っ! 嫌ぁぁぁぁぁっ! エミ! 何とかしてぇっ!」
「扉っ! 扉を開く方法はっ!」
……聞き覚えのある声……かつての僕の仲間たち……。
それに混じって低くドス黒いうなり声が聞こえる……何かと戦っているのだろうか……。
微睡む意識が覚醒し、少しずつ周りの景色がハッキリと見えるようになってきた。
「グオオオオオッ!」
気がつけば、僕の目の前には3〜4メートルほどの怪物が立ちはだかっていた。ライオンとヤギの頭部を持ち、ヘビの頭がついた尻尾を持つそれは、ガルドたちから聞いたり、テレビゲームで見たことのあるキマイラという怪物まんまだった。
「なっ! テ……テメェはシオン? なんで、ここに! それに……なんだ、その女……?」
ガルドは驚きの表情で僕に向かって叫んだ。よく見ると茶色の短髪の半分が焦げて禿げ上がっている。おそらく、キマイラのブレスに焼かれたのだろう。
だけど……おかしい……オブリオンと呼ばれるダンジョン探索者は、EからSまでのランクがあり、ガルドたちはBランクのオブリオンだ。キマイラくらいの怪物なんて楽勝と言っていたのに、どうしてこんな有様に?
……3人とも、衣服だけで武器と防具を装備していない……?
「シオン! アンタの仕業でしょう! あたしたちのスキルが消滅したのは!」
クラは金切り声を上げ僕に向かって怒鳴り散らす。
「ち、違うよ! 僕じゃないって!」
言いがかりをつけられ、僕は思わず反論する。だけど、この状況……。
……そうか、おそらく罠だったんだ、この部屋は。生贄を捧げれば宝が手に入ると思わせて実体は扉が閉まったあげく、スキルが消滅し怪物が襲ってくるというという凶悪極まりない罠部屋……。
装備というのもスキル……モナドという形で発現してるため消滅したんだ!
「駄目です! 扉を開く仕掛けなんて、どこにも見あたりませんわ!」
エミは一心不乱に扉を開く仕掛けを探している。
「クソッ……クソッ……クソがっ! 何がどうなってやがんだ!」
ガルドは頭を押さえながら悪態をつく。
「シオン……コノ人たちは……知り合い?」
「うん、さっきまでパーティを組んでいた人たちだよ」
生贄にされた時のことを思い出す。……あんなことをされたんだ……助ける義理は無いし、そうしてもバチは当たらないだろう。扉を突き破り、無視して見捨てていく選択肢だってある……。
けど……寝覚めは絶対悪いだろうし、内心複雑になってしまう……。
「それに……」
僕はキマイラを見据えながら拳を握りしめる。
「イルミの前で……そんなみっともないこと出来るもんかよ!」
僕が啖呵を切るとキマイラは凄い勢いで僕たちに襲いかかり噛みついてきた。僕は咄嗟にイルミの前に出て左腕で防御する。
「シオン!」
イルミは叫ぶ。僕の左腕はキマイラに食いつかれ、ギリギリと音を立てている。
「なっ……ど……どうなってやがる!」
ガルドは愕然とし、目を見開き青ざめた表情で僕を凝視していた。
キマイラは僕の腕を食いちぎるどころか、僕の腕の強度に耐えられず歯が欠け始めたからだ。
我ながら、信じられない頑丈さだ……これが……イルミが僕に与えてくれたジーベン・ゲバウトの力か……。
沸き上がってくる高揚感と力の実感……その勢いのままに、僕はキマイラの腹部に凄まじい握力と速度の正拳突きを叩き込む。
「ひっ……ひいいいいいいいいいっ!」
空間を振動させるほどの重低音が鳴り響き、キマイラの腹部からおびただしい血液が吹き出し、キマイラは悲鳴を上げる間もなく絶命する。エミとクラの悲鳴は部屋に響き渡ったのだが。
血塗れになった右手を見つめ、キマイラの死骸を眺めながら僕は立ち尽くしていた。
「これが……本当に……今の……僕の力……」
溢れ出る感情が抑えきれない……まるで……夢を見ているようだ。
もう、怖れるものは何もないのだと、そう実感せずにはいられない。
「ヤッタネ、シオン。初勝利ってやつだね」
「なんというか……ただ、感謝しかないよ、イルミには」
イルミはハイタッチで僕の勝利を祝ってくれた。
そう、彼女が与えてくれたんだ……全てから自由になれる力を……。
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