53話 幸せのカタチ
次話は7時10分投稿予定です
「「「「いっただきま〜す」」」」
僕たちは茹で上がった蕎麦を刻み海苔とネギでいただくとした。それはいいのだが……。
「な、なんでウンブラも食卓にいるんだ?」
「いやー、レインボウ・ストーンのおかげでしょうか、自由に実体化出来るようになりましてねー、せっかくだから、食事をご一緒にと……」
「そ、そうだったのか……それは良かったと思うけど、幽霊が食事、ねえ……」
真っ白な絵の具で描かれたような目と口を笑顔にし、真っ黒な頭と胴体をくねらせながら美味しそうに蕎麦を食べる幽霊は、控えめに言ってシュールだ。イルミとローザ、ラクシィも美味しそうに蕎麦を食べている。
「ねね、イルミちゃん、おそばってミミズちゃんみたいだね〜」
「言われてみればソウダネ……ニシテモ、ミミズってオイシイノカナ……?」
「しょ、食事中にミミズの話をしないでくれ……蕎麦がミミズに見えてきて食欲が無くなる……」
「プッ、ククク……」
ラクシィは僕たちのやりとりを見て笑いをこらえているようだ。そ、そんなに笑えるのか?
まあ、ラクシィのツボにはまったのかもしれないな。それはそれで良いとしようか……。
──食事を済ませ片づけをし、みんなでソファーでのんびりする。ふと、向かい側に座っているラクシィが口を開く。
「そういえばさ、シーちゃんたちは、そんなスキルをどうやって手にいれたんだい?」
「ああ、話せば少し長くなるんだけど……」
「良いよ〜、聞かせてシーちゃん」
僕はイルミと出会ったとこからのいきさつをラクシィに説明した。
「そっかぁ、謎の光球がイルミになり、ジーベン・ゲバウトっていう未知の力をシーちゃんは手に入れたのかぁ」
「ああ、謎だらけのイルミとジーベン・ゲバウトだけど、僕に望む全てを与えてくれたのは事実だ」
僕は紅茶を飲み干し、今度はカルピスを作り手元に置く。ちなみにイルミは蕎麦を食べて眠くなったのか、僕の膝を枕にして昼寝をしている。ウンブラも祠へ昼寝をしにいった。
「そして、ボクたちの使うスキルとディスプレイの真の名前がモナドとグラマトンで、イルミはモナドに何故か詳しく、ローザはダンジョンについて何故か詳しいってわけだね〜」
ラクシィは腰に手を当てて納得したように、うんうんと頷いている。
「なんで、くわしいのかは、わたしにもわかんないんだけどね〜、ま〜、いいか〜ってかんじで」
ローザは僕の右隣で笑っている。ローザは単純だなぁ。まあ、下手に難しく考えるよりは良いかもだが。
「シーちゃんの夢に出て来た謎の声ってのも気になるね〜」
「そうなんだよ、僕たちは神様かなんかと仮定してるけど、根拠も確信もなくてモヤッとするんだな、これが」
僕はイルミの頭を撫でながら、おどけて軽口を言う。
「神様……か……。ボクは確実に存在すると思ってるよ」
ラクシィは腰に手を当てながら断言する。
「おお、ラクシィ、そう言い切れる根拠というのは……?」
僕は少し前のめりになる。
「宇宙が自然的に誕生したにしては、あまりにも意図的にデザインされた部分が多すぎるんだ。知性や意思を持った何者かが創造したと仮定しないと説明が成り立たなくってね〜」
ラクシィはセミロングの銀髪をかき上げながらワクワクした表情をしている。イルミとは好奇心の向かい方が少し違うのだろうか?
イルミは日常生活のものに関心が向いて、ラクシィは世界の謎とかの真理的なものへの関心、学者的な気質を持っているのかな? まあ、僕が勝手にそう思っただけなんだが。
「面白いな……なんだろう……僕の全身の細胞がザワザワを泡立つこの感覚は……?」
僕は妙な高揚感を感じていた。
「シーちゃんも、実は真理を探求することに興味があるとか?」
ラクシィはウインクしながら僕に笑顔を向ける。
「はは、どうかな、僕はただ、毎日をのんびり楽しく生きていたいだけで、そんな大層なものは持っちゃあいないよ」
「おじいちゃんかい、シーちゃんは」
「うっ、心は老けてるって言われたことがあった気がする!」
「シオンくん、おじいちゃんだったんだぁ〜、だったら、これからわたしがめんどうみてあげるねっ」
「だ、大丈夫だ! 僕はまだ若いはず! 19だ!」
「あっははは〜♪」
僕はローザにおちょくられ、ラクシィは屈託のない笑顔で笑い、イルミは僕の膝を枕にしスヤスヤ眠っている。
リビングの網戸からは爽やかなそよ風が入り込み、日光が部屋を暖かく照らしている。過ごしやすい春は始まったばかりだ。
僕は、言葉に出来ない思いで心が満たされているような感覚を得ていた。これが……幸せというものなのだろうか……?
まだ断言は出来ようはずもない……僕はまだ、何も分かっていない青二才なのだから……それでも……。
「この日常が……永遠に続いてくれると……嬉しいな……」
僕はイルミの寝顔を見ながら小声でつぶやく。
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