4話 転移能力による帰還
付け換えは可能と聞いていたため、セットの感覚のコツを得るために、まずは項目を埋めてみよう。
『エクスオール──全ステータスを10万上昇させる超常の力』
『超次元生命体──自らの肉体を原子を超えた物質で構成し、あらゆる状態異常、及びダメージを95%軽減する超常の力。また、重力制御、ベクトルのコントロールも可能となるため、望んだ方向へと自在に飛翔が出来るようになる』
「す……凄い……体がメチャクチャ軽くなったぞ!」
10万といったら、常人の1万倍の強さ……簡単に言うと握力50キロが500トンとなり、もはや超人だ。
「良い感じでセットしてるみたいだね、ヨシ、次はどれにする?」
イルミも僕と一緒になってワクワクしてくれている。なんか良いな……こういうの……。
「そうだな……あ、今更なんだけど、ちょっと聞きたいことが」
「ナニカナ? 分かることは何でも答えれるから聞いてみて」
「ここは、どこなんだ?」
虚無の空間がいつの間にか宇宙空間になってたことに疑問があったが、今の今まで聞きそびれていた。
「ココハ……ワタシがアナタと接触した際に創造された世界……何もない虚無の世界よりはマシだけど、小さくてヤッパリもの悲しい世界かな……コウシテ、会話したり思考するのには便利なんだけどね……」
「世界を創る……ひょっとしてさ、イルミが神様ってオチじゃないのかな?」
僕は冗談混じりに言ってみる。
「ウ〜ン……ドウダロ……? 感覚的になんだけど、何か違うような気がするよ……」
「違うのか……イルミを創造した存在が何処にいるのか気にはなるよな」
……もしかしたら、ゲートを現代に出現させたのもダンジョンを創ったのも、イルミを創造した存在と同一なのだろうか……?
考えても詮無きこととはいえ、どうしても考えてしまう。
ふと、周りに目をやる……。星が、恒星が、銀河が輝き、無限に広がる宇宙がどこまでも続き、クリスタルの床がポツンと佇んでいる……その様相は、どこかもの悲しく、そして深淵に引き込まれそうな恐ろしさと神秘性を内包していた。
「……どうやって、帰るんだ……?」
虚無の世界にやってきた際に乗ってきた檻は消え失せており、帰るための魔方陣のようなものも存在しない。
「フェッ? エ……エット……大丈夫だよ、ソ、ソウダネ……」
イルミは腕を組みながら考えている。その表情からは僅かだが焦りが見える。お、おいおい、目が泳いでるよこの子……え……まさか帰れないなんてことはないよな……?
「モ、モナドに、時空間転移というのがあって、それを習得してみて、シオン……」
「わ、分かった」
イルミは笑顔で答えるが目は泳いだままだった。帰れる確信がないって顔だ……なんか……凄く不安だ。
『時空間転移──時空を超え、別世界へと転移する超常の力。13カ所までの次元座標を記録可能。自分周囲の空間ごと転移先と入れ替える性質を持ち、固体が挟み込まれる場所には転移出来ず、座標が僅かにずれることがある。また、自身とミニオンを含む5人までを設定し、共に転移することも可能』
「13カ所までってのが中途半端な数で気になるけど、これで帰れるのだろうか?」
僕はつぶやきながら6の項目に時空間転移をセットし、さっそく調整してみる。詳細を見る限り、対象を見つめながら設定をタッチするだけで登録できるらしい。
「お、設定欄にイルミ・アルトールって出たぞ。これで転移の際、イルミが一緒についてこれるはずだ」
「ウンウン、操作が慣れてきたみたいだね」
イルミは上機嫌に頷いた。
「次は、転移先の設定か……一応、ここを記録してみよう」
先ほどと同じ要領で次元座標ってのを記録してみる。すると、転移先の1の項目に、イルミの世界という名が表示された。なるほど、こんな感じなんだな。
……どうやってここに来る前の場所を登録するんだ……? イルミに聞いて……いや、もう少し詳細を確認してみよう。
「これか! 一度行った場所が検索出来る機能があった! ダンジョン7層目……僕がガルドたちと最後にいた場所だ!」
「オオ〜、もう少ししたら教えようと思ったけど、シオンって中々に理解が早いみたいだね」
「いやー、それほどでも……」
僕は褒められて少しだけ有頂天になる。……戻ろう、あの場所へ……。
「今から転移する。側に来て欲しい」
「ウン!」
イルミは僕の手をしっかりと握ってきた。ちょっとだけ照れくさかったけど、最初と比べれば大分落ち着いたと我ながら思う。
そして僕は今、初めての時空間転移を試みようとしていた……。