45話 妄執のガルド
次話は19時10分投稿予定です
「よし、こんなものかな」
アパートを引き払い、荷物を新しい家に運び込むのに1時間もかからなかった。グレート・アトラクターと僕たちの怪力のおかげだな。
「ン……次は、ドウシヨッカ……?」
「そうだな、家具が足りないから布団とか食器棚とかを買いに行こうと思うんだ」
3人で暮らすには色々と足りないもんな。
「えへへ、みんなでおかいものだね、よし、いこいこ、しゅっぱ〜つ」
「お出かけですかー? なら、家の留守番はおれに任せて、安心して行ってらっしゃいですー」
「ああ、頼んだよウンブラ」
ウンブラは手を振りながら僕たちを笑顔で見送る、留守番をしてくれる人……いや幽霊がいるのは助かるな。
僕たちは近くの家具店を目指してしばらく歩き続けた……その時。
「シオンーっ! 地獄に落ちやがれーっ!」
怒声と共に僕の右肩に金属バットが振り下ろされ、強い衝撃が走る。僕は僅かによろめき、何事かと思い後ろを振り返った。
「き、君は大山勝人……」
僕は見覚えがある、だいだい色のTシャツを着た茶髪の大男に対して、うっかりフルネームでつぶやいてしまう。
「お、俺の本名まで調べやがったのか……いや、そんなこたぁ、どーでもいい! てめぇ、一体何をしやがった!?」
ガルドは曲がった金属バットを握りしめ、焦りに満ちた表情で僕に食ってかかる。
「ちょっと待った! 全く要領を得ないんだけど! 一体何事なんだ!?」
いきなり僕の肩に金属バットを振り下ろすなんて、ただ事じゃあない。頭を狙わなかったということは、地獄に落ちろと言いつつ殺す気は無かったようだが……。
「ちょっとぉ〜っ! シオンくんになんてことするの〜? もし、そんなのがシオンくんのあたまにあたったらパーになっちゃうじゃな〜い!」
「う、うるせえっ! このバケモン共めが! どうやってこっちに来やがった!? どうやってスキルを持ち込みやがった!?」
な……バ、バレた……? ガルドは僕たちが力を持ったまま地球に来てることを、どうやって知ったんだ?
「な……何のことかな……?」
ムダだと思いつつも僕はシラを切ってみる。
「その女ども、ダンジョンの人型モンスターだろうが! それ連れてこっちに来てるってこと自体が、その証拠じゃねえか! しかも見ろ! このバットを! ハッキリと分かったぜ! てめぇの耐久力は、もはや人間じゃねえ!」
「くっ、ムダに鋭いなガルド……。でも、それが分かってて、なんで僕たちに絡んで来たんだ? ヤブヘビにしかならないじゃあないか」
僕はガルドに疑問を投げかける。
「てめぇら……その力を使って、世界征服する気だろうが……俺には分かってんだ!」
ガルドは僕を指差し、焦りと恐怖に満ちた表情で怒鳴り散らす。せ、世界征服か……考えもしなかったな……。
「マッテ……ガルド……ワタシは……ワタシたちは、色んな物を見たり、遊んだり、美味しいご飯を食べたいだけナンダヨ……」
イルミは前に出て、ガルドに穏やかに語りかける。
「お、俺は騙されねえぞ……そうやって無害な振りをして油断させるつもりだろ……警察にチクってやる、てめぇらを社会的に抹殺してやるぜ!」
ガルドは踵を返し、ダッシュで走り去る。あっちは交番のある方角だ! マズい! 警察に僕たちのことを詳しく聞かれると厄介なことになる!
「シオンくん! たいへん! はやくつかまえよ〜!」
「あ、ああ!」
ローザの声を皮切りに僕たちは一瞬でガルドを取り囲み、動けないように捕まえる。
「ぎゃああああああああっ! はっ、離せーっ! おまわりさーん! 助けてくれーっ! バケモンだー! 殺されるーっ!」
ガルドは目が飛び出しそうなほどの恐怖の形相で叫び散らかす。
「げっ! マズい! 何とか黙らせないと!」
「え……えっと、くちふうじってやつだね。おおきなあなをほって、うめちゃえばいいんだっけ……?」
ローザは少しうろたえ気味に物騒なことを口走る。
「ダ、ダメだよ! そんなことしちゃあ! それこそ僕たちが危険人物と認定されてしまう! とにかく、説得を!」
「ぎゃあああ! この金髪女! 俺を埋める気だ! 本性を現しやがったな!」
ガルドはさらにパニックに陥り、喚き散らかす。
「マアマア……ガルド、少し落ち着いて……ワタシたちは、ガルドに危害を加える気はナイヨ……」
「し、信じられるか! このバケモンが!」
このままじゃ、取り付く島もない……どうしよう、マジで……。ただ……なんで急にここまで……? 誰かに何か言われたのか?
「君たち、何をしているんだ! 離れなさい!」
思考を巡らせていると、お巡りさんが3人駆けつけてしまった。ああ……どう弁解しよう。ガルドめ……助けた恩を仇で返してくれちゃって……。
今度ウンブラに頼んで、しばらくガルドに取り憑いて嫌がらせしてもらおうかと本気で考えてしまった。
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