33話 採掘専門のトオル
次話は23日の7時10分投稿予定です。
「11層から14層の砂漠は、大半のモンスターがCランクのオブリオンでも倒せるんだが、厄介なことにSランク帯のモンスターが混じってやがんだ。巨大ムカデやサンドワームとかな」
そうだったのか……じゃあ、僕たちの力はSランクのモンスターが相手でも楽勝なほどなんだな、凄いぞ……。
「そいつらの嫌う薬が1層の店に売っていてな、飲めばしばらくムカデとワームが離れていき、比較的安全に稼げんだ。だが、足下を見てやがんのか結構高くてな」
男性は一瞬目線を下ろし、疲れたような表情を浮かべる。
「ええ〜、そこまでして、さばくでかせぐ意味ってあるのかな〜?」
「僕も思った。何か理由があるんですか?」
ローザの疑問はもっともで、僕は率直な疑問を男性に投げかけてみる。
「砂漠には、まれにレインボウ・ストーンと言われる石が落ちているときがあって、ブローカーが高く買い取ってくれんだ。それ目当てで砂漠に来る奴らが結構いんだよ」
「ソレッテ……ドノクライの価値がアルノカナ……?」
「大きさにもよるが……1個、1000万くらいで売れたことがあるぜ」
「い……1000万!?」
凄い値段だ……運良く見つけられれば大金持ちだな。
「イッセンマンってことは……ステーキが5000枚食べれる……」
「も〜う、イルミちゃんは、くいしんぼうさんだね〜」
手を組み、よだれを僅かに垂らすイルミを見ながらローザは微笑んでいる。
「そういや、まだ名乗ってなかったな、俺はトオルってんだ、ここで採掘をして稼いでんだ」
男性は缶コーヒーを取り出しながら自己紹介をする。トオルさんというのか。
「僕はシオンといいます。この子たちはイルミとローザ、僕の仲間です」
「よろしく〜」
「ヨロシクネ……」
僕たちは自己紹介を済ませ、トオルさんと話を続ける。
「……と、まあ、砂漠は一攫千金のチャンスがあって、さらに、それにかこつけた稼ぎ方もあるってこった」
トオルさんは僕たちに缶コーヒーを渡してくれながら苦笑いを浮かべる。
「ありがとう、いただきます。ところで、稼ぎ方って?」
「砂漠に行く奴らが増えれば、さっきの虫除けの薬だの、体を冷やす為のアイスドリンクとかの需要が増えんだ。それ自体は良い……だが、値段設定なんてのはブローカーたちが自由に決められるため、需要のある商品の値段が急に10倍になることもあんだよ」
トオルさんはコーヒーを飲み干し、ため息をつきながら岩の上に腰を下ろす。つられて僕たちも手近な岩に腰を下ろすことにした。
「10倍も上がるなんて、ぼったくりじゃあないですか……」
「だろ? 勘弁してくれってな。逆のパターンもありやがる、素材や鉱石の買い取り値段が急に値崩れした時なんかは、マジで色々キツかったぜ……」
「大丈夫……? ナンカ、ツラソウ……」
イルミは心配そうにトオルさんに声をかける。
「はは、心配してくれてありがとよ、嬢ちゃん」
「え〜っと、なにかあったの?」
ローザは少し踏み込んで聞いてみる。
「……稼ぎが良いときは問題なかったんだ、だが、値崩れが起きるとな、揉めたんだよ、取り分で」
トオルさんは次の缶コーヒーを飲みながら話を続けた。
「4人パーティが2組、その中に俺がいた。俺は直接戦闘よりかは採取や発掘のスキルを多く持ってたし、性に合ってた……」
「4人パーティが2組?」
8人パーティという表現じゃあないのが気になり、僕は口を挟む。
「おう、パーティに効果のあるスキルは、大抵自身含めて4人までしか効果がないものがほとんどでな、いつしかパーティは4人までってのが暗黙のルールになってんだ。4の倍数でチームが組まれるのは、そういう理由だ」
トオルさんの表情は少しだけ明るくなり、心なしか口調も戻った気がする。
「話を戻すぜ、順風だった稼ぎが4分の一まで落ち込み、さらに追い打ちをかけるように準備に必要な帰還石、蘇生石、転移石などの値段までもが上がってな」
「ええ〜、それじゃ、あんまりおかね、入らないんじゃない?」
ローザはコーヒー缶から口を離して驚く。
「ああ、ごっそり減っちまった。そしてお互いに不平不満を言い合うようになり、皆が少しでも多く取り分をもらおうと理屈を並べ立てるようになっちまったんだ」
トオルさんは2本めのコーヒーを飲み干し、3本目を開けた。そして、また口調は暗くなってしまった。
「ソンナ……」
イルミは複雑な表情でトオルさんを見ながらつぶやいた。そしてトオルさんは力無く口を開く。
「仕方なかったんだよ……みんな生活があるんだ、追いつめられりゃ、誰だってそうなるし、俺もそうなる。誰が悪いってもんじゃねえ……ブローカーの連中にも、国のお偉い方にも事情ってヤツがある以上、誰の事も責められねえって思っちまった……」
「トオルさん……」
うなだれるトオルさんにかける言葉が見つからない……。
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