31話 砂漠の夕暮れ
次話は21時10分投稿予定です。
ゲートを抜けると、砂漠は急に薄暗くなっていた。
天井にはだいだい色に輝く太陽のような光球が浮かんでおり、ダンジョン内部だというのに、まるで夏の夕暮れのような景色を醸し出している。
「夏の夕暮れ……ワタシを優しく迎えてくれるのは……シオンとローザなんだね……」
「イ、イルミ、急にどうしたんだ!?」
「サ、サア……ナンダロウネ……ワタシもよく分かんない……」
珍しくイルミから変なこと言ったな、おそらく、特に深い意味はないのかもだけど。
「おお〜、またモンスターがたっくさんだね、よ〜し、はりきっちゃうよぉ〜」
ローザはスターゲイザーを構え、羽根をパタつかせ、やる気満々になっていた。意外と好戦的なのかな?
出現するモンスターは11層と変わらないが、少し数が増えた気がする。僕たち3人は次々とモンスターを蹴散らし、素材と宝箱を回収しながら先へと進む。
「そういえばイルミ、ちょっと聞きたいことが……」
「ン……? ナニカナ、シオン……?」
あることが気になったので聞いてみる。
「イルミに僕のモナドが上乗せされるってあったけど、武器と防具は適応されてないのか?」
「ア……実は適応されてるヨ……名前と形状が変わってワタシの体と一体化してるんだ……手は……宇宙光という武器で……体はライトボディっていう防具でね……」
イルミは僕に両手を差し出してきた。よく見ると、イルミの体がうっすら光り、両手は蒼く輝いている。
「そ、そうだったのか……でも、それ、武器や防具と言っていいんだろうか……?」
「マアマア、シオン……細かいことは、気にしなくても大丈夫ダヨ……」
「そうそう、あんまり考えすぎるとシオンくん、ハゲちゃうよ、いいの〜?」
「ハ、ハゲるのは嫌だぁぁぁっ!」
僕の疑問はイルミに軽く流された上に、ローザにおちょくられてしまった。2人にどんどん押されているなぁ……。
僕たちは夕暮れの砂漠を飛翔し超えてゆく……道中、他のオブリオンには、まだ会っていない。
あ、そうか……みんなダンジョンに潜るのを控えているって話だったな、それで見あたらないのかもしれない。
「ミエタ……大きなサンドワームだよ……!」
僕たちの前に一際大きなサンドワームが立ちふさがる。全長15メートルはあり、どうかしたらロボットアニメの人型機動兵器とタメを張れそうな感じだった。
「おっきいね〜、いつもの倍はありそうだよ〜」
「ヨシ……今度はワタシの技で……見てて……シオン、ローザ……」
大きな口を開けて僕たちを飲み込もうとするサンドワームにイルミは突撃し、右手をさらに強く輝かせる。
「イクヨ……! ワタシの……愛と望みと欲望の……極光星雷拳!」
「イルミーッ! 欲望ってセリフが微妙に物騒で怖いんだけど!」
僕のツッコミはお構いなしに、イルミは蒼く輝く拳をサンドワームに叩き込む。
その瞬間、イルミの拳から前方に大爆発が吹き出し、サンドワームを跡形もなく消滅させた。
「じゅ……15メートルはあったサンドワームを一撃……塵一つ残さずか……」
これがイルミの必殺技……極光星雷拳か……。ギャラクシオン・バスターとは、また違う破壊力だ……。
「な、なるほどぉ〜、シオンくんの剣とコートぶんのちからが上乗せされてるってことだったんだ……わたしのかつやく取られてピ〜ンチ。でも、わくわくするよ、いつか、手合わせしてみたいな〜」
ローザは長い金髪を揺らしながらイルミを見つめ、楽しそうな笑顔を浮かべる。
「イルミとローザが本気で手合わせしたら地球ぶっ壊れそうだ! 怖いからやめてくれーっ!」
「シオン……ソンナニ褒めたら、ワタシ照れちゃう……」
「褒めてない! 褒めてない!」
イルミは高速で飛翔する僕とローザに並んで飛び、僕にサムズアップをしながら顔を赤らめる。
「ねね、シオンくん、わたしとイルミちゃんの極上バトル、シオンくん争奪戦っていつにしよっか〜」
「冗談じゃない! 永遠にしなくていいよっ!」
満面の笑顔を向けてくるローザに、僕は首を左右に振りながら必死に提案をやめさせる。
正直、イルミとローザが僕に好意を向けてくれるのは、凄く嬉しいし有り難い。
だが、あまりにも強すぎるであろう彼女たちが本気で暴れたらどうなるか、それを考えると僕の額から冷や汗が流れるのだった。
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