29話 11層は砂漠の海
次話は15時10分投稿予定です。
「あ〜、おいしかった、また、こよ〜ね」
「だな、ここも転移先に記憶しておこう」
「良いね……ソウスレバ、イツデモ好きなときにステーキが食べられるよ……」
僕たちは空腹を満たし、満足げに宿をあとにする。
「よし、おなかもいっぱいになったとこで、さっそくモンスターをやっつけて稼ぎにいこっか〜」
ローザは両手をグーにしてはしゃいでいる。
「確かに、お金を稼ぐのもモナドを手に入れるのもモンスターを倒さないと。このまま11層に向かうことにしようか」
僕は11層へ向かうことを提案してみる。順当に考えると、この強さと3人なら大丈夫だと判断しても良いよな。
「ウン、ローザがドノクライ強いのか見てみたいし……行こう……」
僕たちは案内板に従い、11層へ続くゲートへと歩みを進める。ダンジョンの各階層は、およそ半径数10キロほどの広さがあるらしく、ゲートまでの距離は意外にも長い。
「ここが、11層へのゲート……」
この先は一体どんな様相なんだろうか……僕たちはゲートを潜り、次の階層へと向かう。
そこは、一面の砂漠だった……。前のダンジョンのように部屋の区切りは無く、岩山がそびえ立ち、地平線と青い空のようなものが見え、遠くには巨大な芋虫のモンスターが砂の海を泳いでいる。
「ダンジョンの中に砂漠!? 空まで……」
僕は驚きのあまり唖然とする。ダンジョンというには異質すぎたからだ。
「ン……? ヨク見ると、空に見えるのは青く光るコケみたいだよ……ソシテ天井がある……かなり高いけど……」
「そっか、10層の中継地点と同じようなものなんだな」
イルミは額に手をあて、遠くを見ている。よく観察しているのか、イルミは気づきがとても良い。
「あれはねっ、空コケといって水色にひかりつづける、わたしの心みたいにとってもきれいなコケなんだよ〜」
ローザは顔の横で指を立てながら得意げに解説している。ついでにローザの内面を自慢する一文を加えながら。
「そ、空コケって言うのかー、まさに空と見間違えるほどだ……」
僕は引きつった笑顔を浮かべながら感想を言い、大剣を構え戦闘態勢をとる。この階層のモンスターは、どのくらい強いのだろうか?
そうだ、フィールドが広いため、まだ使用していない飛行能力を試みてみよう。
「うわっ! た、確かに思い通りの方向へ飛べる! 変な感じだけど!」
感覚的に慣れないが、なんとかなりそうだ。しばらくすると空から巨大なハチの群が僕たちに向かって襲いかかってきたため、そのまま突撃する。
「ヨ〜シ……ワタシも頑張るよ……見ててねシオン……」
「イルミはもう自在に飛び回ってるなんて! 頼もしいけど、またも僕は情けない! くっ、負けるもんか!」
僕は大人げなくイルミと張り合ってみる。19にもなってこの挙動はどうかと思ったが、まあ、気にしないようにしよう。
「とぉ〜っ! たぁ〜っ! いくよっ、スターライト・レイ!」
ローザは羽根を羽ばたかせ、縦横無尽に空を駆け回り、スターゲイザーという槍を振り回し巨大バチの群を次々となぎ倒し、蹴り飛ばし、バラバラにしてゆく。さらに無数の光球をばらまき、光線を発射させ文字通りハチの巣にしていく。
「ちょっ……! 動きがヤバすぎる! なにこの強さ! 裏ボスというだけあってもデタラメだろ!」
ローザは100匹ものハチの群を30秒ほどで壊滅させてしまった。もはや僕は唖然とするしかない。
「んふ〜、スターライト・レイとは、高次元エネルギーを凝縮して光球を創生し、無数の熱光線を放ってあらゆる存在を分解消滅させる超常の力だよ。ねね、わたしってば、めっちゃ、つおいでしょ♪」
ローザは笑顔でVサインを決め、ドヤ顔をしている。
「ワタシも、ローザには負けない……ソレッ!」
イルミは地上の……多分、サンドワームって名前の巨大芋虫の群に向かって高速で飛翔しながら突撃し、輝く拳と蹴りを繰り出していた。輝く軌跡が駆けめぐるたびに次々とサンドワームの頭と胴体が破裂して消滅していき、ものの20秒で群は全滅した。
「うよよっ!? わたしのおもっていたよりも、ずっとイルミちゃん、つおい……! へたしたら、わたしよりも……」
ローザは目を丸くして驚いている。心なしか金髪と羽根もしょげてるように見え、内心、かなりうろたえているのが見てとれる。
「ドウカナ、シオン……? ワタシも……中々、ヤレルヨ……」
「ああ! 凄い動きだ! ローザにだって負けてなかったよ!」
イルミは僕に近寄り、サムズアップをしながら自信満々な笑顔を見せる。
「うぬぬぬぬぬっ! わたしのみたてではね……接近戦はイルミちゃんに軍配があがるとして、ビームとかのうちあいなら、わたしのほうがつおいもん!」
ローザは羽根をバタバタ言わせながら僕とイルミの前に立ちはだかり、両手を広げ胸を張ってムキになっていた。
イルミとローザは、これからも、こんな感じで張り合っていくんだろうなと考えると、微笑ましいと僕は思うのだった。
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