2話 手にしたのは、全能に近いチート能力
イルミが差し出してくれた手に僕も手を伸ばすと、イルミは僕の右手を握り、寝ている状態から引き起こしてくれた。
温かさと柔らかさが伝わり、思わず胸が高鳴る。
「マズハ……シオンに与えた力について説明したいかな……」
「力……ああ、お願いするよ」
どんな力なんだろうか……? 僕の人生を好転させられるものなら、凄く有り難いんだけど……。
「その名は、ジーベン・ゲバウトといって、望む能力を十個まで好きに手に入れられる強大な力だよ……」
「ジーベン・ゲバウト……」
僕とイルミは座り込み、向かい合って話を続ける。
望む10の能力……僕は期待に胸を膨らませる。
「ア……言い忘れてた……10の能力と言ったけど、その内の2つはすでに、ソノ……ロックをかけて埋めさせてもらっちゃった……」
「ロック? 2つ? 何か理由があるのかい?」
イルミは人差し指を頭にあてながら話している。
「マズハ、アドヴェントという名の最上級のミニオン生成能力。その能力で創りだした体を今、ワタシが使わせてもらってるんだ……」
「ミニオン……確か、召喚系のスキルがあるって少し聞いたことがあるな」
……スキルという言い方は、僕たち地球人が勝手に呼称しているだけで実際は分からない。
イルミは、僕たちの世界や状況をまだ知らないはず。 どこかで落ち着いたら詳しく話そう。
「もう一つは、アセンションという名のシオンの力を次元を超えて行使出来る能力。この能力が無いと別次元へ行った際、全ての能力が封印され、ただの人間に戻ってしまう。ソウナルト……アドヴェントも発動しないため、ワタシの体は消えて意識は虚無の空間に戻っちゃう……ソレハ……嫌だった……」
「そうだったんだな……確かに地球に戻った際、全てのスキルは使えなかったし、そう言われていた」
イルミは虚無の空間から出たいと言っていた。 なら、その能力は絶対に必要だ。
「エット……良い……かな……?」
「え……あ、ああ……もちろんだ」
僕がそう答えると、イルミの表情はパアッ明るくなり、心底嬉しそうにしていた。思わず僕は、彼女を可愛いと改めて感じた。
……ん? 少し気になることが……。
「そう言えばイルミ。僕の心は今読めるのかい?」
「ウウン……実はほとんど読めない。この体に宿ったからか、多分フィルターっていうのかな……それがかかってる感じだよ……」
「なるほど」
やっぱりか……心の中でその能力が必要と思ったにも関わらずイルミが僕の了承を取りたそうにしていたから、まさかとは思ったが。
「ヨシ……ソレジャ、残り8個の能力なんだけど、シオン、左手を出して欲しい……」
「こうかい?」
言われたとおりに僕はイルミに左手を差し出す。
「右手で手の平をタッチしてグラマトン……イヤ……エ〜ット、ディスプレイ……? というのを出してみて」
「よし!」
僕は左手をタッチし、いつものようにディスプレイを展開した。
……僕たち、現代に現れたダンジョンを探索する者、オブリオンは、スキルという特殊な力を行使することが出来る。
現代に現れたゲートと呼ばれる門を潜ると、ダンジョンという場所にワープでき、その世界でのみ手をタッチしてディスプレイを展開しスキルの確認、および行使が可能となる。原理は全くの不明らしいが。
「知らない項目が増えている。ジーベン・ゲバウト……」
「ウン……さっそく、それをタッチしてみて」
「分かった」
1から10までの項目が現れ、1と2の項目が埋まっていた。アドヴェント……アセンション……。
能力の詳細も見れるようなので、ちょっと見てみることにした。
『アドヴェント──ミニオンを創りだし使役する超常の力。基本ステータスは全能力5000。倒されない限り永続的に存在し続ける。また、術者の習得しているモナドの特性が全て上乗せされる性質を持つ』
5000! 常人の500倍の強さ……確か、Aランクオブリオンがそれくらい強いって聞いたぞ!
イルミは、そんなに強いのか……外見からはまるで想像もつかない。
「……モナドって、なんだ……?」
スキルの正式名称だろうか。そう思いながら僕はボソッと独り言を呟く。
「シオンがスキルと呼ぶ力の本当の名前だよ……」
「本当の名、か……」
イルミは僕の独り言に答えてくれた。やっぱり、そうなんだな。
アセンションの詳細も見てみる。
『アセンション──ジーベン・ゲバウトを自らの魂に取り込み、自力で発動させる超常の力。根源から力の供給の依存が必要無くなり、別次元での活動、及び力の行使すら可能となる。強大な効果をもたらすが、力の放棄が不可能になるという結果をもたらす。また、グラマトンに記した自分以外の3人までの存在に同じ特性を付与させることが可能』
……なんか凄そうと思うのと同時にヤバそうだと感じる何かがある……。正直なところ、よくは分からないのだが……。
「サア……シオンは、どのモナドを習得したいのかな……?」
期待や楽しさを感じさせる口調でイルミは僕の顔を覗き込んできた。