28話 3人で食べるダンジョン牛ステーキと宿の主人の佐々木さん
次話は12時10分投稿予定です。
運ばれてきた料理がテーブルに並べられていく。ダンジョン牛のステーキにライスとパン、コーンスープと付け合わせの温野菜、まさにご馳走だ。
「わああ〜、いいにおい〜。おなかが、さらにすいてきちゃったよ〜」
「コ……コレガ、ステーキ……ナンテ、美味しそうなんだろう……」
イルミは口元から少しよだれを垂らしながら目をキラキラさせ、ローザは羽根をパタつかせてウキウキしている。
「よし、注文はこれで全部だな……さ、食べようか」
「んじゃ、いっただきま〜す」
「ウン、イタダキマ〜ス……」
僕たちは大きなステーキをナイフとフォークで切り分け頬張っていく。
「う、うみゃいっ!」
「コレハ……噛むたびに口の中にジュワッと美味しさが広がっていく……上手く言えないけど……トテモ、オイシイ……!」
「ほんとだ! 柔らかくてジューシーで、脂の甘みや肉の旨味が凄い!」
僕たちはステーキに舌鼓を打ちながら、夢中で平らげていく。
「ほっほっほ、お気に召してくれたようで、何よりです」
タキシードを着た白髪の初老の男性が会釈をしながら僕たちに微笑みかける。
「失礼、私はこの宿の主人をしている佐々木と申します」
「ワタシはイルミ……ヨロシク、オジチャン……」
「わたしはローザっていうんだよ、よろしく〜」
イルミとローザは佐々木さんに軽く自己紹介をする。
「僕は松武と言います。にしても、このステーキ凄く美味しかったです」
「でしょう、牛に星ゴケをたっぷり与え、ダンジョン内部で育てた私の自慢の牛です」
佐々木さんは誇らしげに話を続ける。
「ダンジョン内部では、作物と家畜の成長速度が数10倍早いですからね、悠々自適に暮らすにも商売をするにも、かなり良い場所です」
「数10倍!? そんなに早いんですか!? それは初めて聞いた……」
正直、驚いた……そんなに早いんだったら農家も放っとかないんじゃあないかな。
「さらに、家畜の成長速度と質を高めるスキルを偶然入手しましてな、ここで宿を構え、商売することにしたのですよ」
「ソウダッタンダ……オカゲで美味しいステーキが食べれるよ……アリガト……」
「おお、そう言っていただけますと、ここで宿を構えて良かったと心から思えます」
イルミのお礼が嬉しかったのか、佐々木さんは感慨深そうにお辞儀をした。
「私は、元々Aランクのオブリオンでしたが、5年ほど前にスキルを入手したのを機に戦いから身を引き、今に至るというわけです」
「牛を育てるのに興味があったんですか?」
僕は興味本位で聞いてみる。
「はは……お恥ずかしい話ですが、実は8年前にリストラにあいましてね、再就職も難しく路頭に迷っていたところ、オブリオンの話を耳に入れ、ゲートを潜ってみたのです」
佐々木さんは懐かしさを感じさせる表情で話を続ける。
「幸運にも、私は初めから強力な拳銃を出現させるスキルと姿を消すスキルを所有していたため、モンスターを退治する能力が高く、他の人からも重宝されていました」
「うんうん」
ローザはうなずいて佐々木さんの話を聞いている。
「ですが、途中でダンジョンの不思議な性質に魅了され、牛を育て、宿を経営しようと思いました。ちなみに牛を選んだのは、私はステーキが好きだからです」
「お、思ったより単純な理由だった……」
何か深い理由があるかと思ったけど、案外、そういうので良いのかもしれない。
「ほっほっほ、では、私はこれで」
佐々木さんは軽く会釈すると、受付の奥へと歩いていった。
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