18話 目覚めの朝
次話は20時10分投稿予定です。
「……ココマデ……キテクレタカ……」
無限に広がる暗黒の空間の中で、誰かが僕に問いかける。
「……コンドコソハ……カナラズ……」
あなたは、誰だ……?
「……ソンザイ……シツヅケル……コトヲ……ノゾミシ……モノ……」
ダメだ……それだけでは、分からないよ……。
「……ドウカ……タノム……」
頼む……? 何を……? 待ってくれ……! 言うだけ言って行かないでくれ!
──夢と現実が混ざり合う感覚、微睡む意識の中で僕は目を覚ました。……変な夢だったな、何だったんだろう一体?
僕は体を起こし部屋を見回す。枕元の目覚まし時計は7時を示しており、居間のカーテンからは朝日が射し込んでいた。
「オハヨッ、シオン……」
水色の胸まであるツーサイドアップを揺らし、パッチリとした水色の瞳をキラキラさせ白い半袖シャツをワンピース代わりに着ている愛らしい少女イルミが居間に入ってきた。
「お、おはよう、イルミ」
改めて見ると、その異常ともいえる可愛さに目を奪われてしまう。幼い顔立ちにしては妙に女性的なラインはハッキリしており、それがさらにイルミを魅力的に見せていた。
「夢じゃ……なかったんだな……」
僕はつぶやき、これが夢ではないのだと改めて実感する。正直、目が覚めたら全ては夢で全部消えてしまうのだと心のどこかで思っていた。
でも、そうではなかった……強大な力と不死身の肉体をたずさえ、今、僕もイルミも、ここにいる……。
「……よし、朝ご飯を作ろう!」
「ウン、ワタシも一緒に手伝うよ」
今日はハムエッグとトーストを作ることにした。スープは昨日の味噌汁が残ってるので、それを代わりに飲むことにする。和洋混合だが、合わないことはないかな?
朝食を済ませ、コーヒーと紅茶を飲みながら一息つく。
「コーヒー、紅茶……ドッチモ捨て難いけど、今は紅茶の気分ということで……」
「なら、僕はコーヒーでいこう。飲みたくなったら少しあげるよ」
「アリガト……シオン……」
イルミはポケーっとした表情で紅茶を美味しそうに飲んでいる。僕はコーヒーを飲みながらしばらくのんびりすることにした。
──10分ほどして玄関のチャイムが部屋に鳴り響く。
「シオン、今のはナニ……?」
イルミは少しビックリしてキョロキョロしている。
「あれはチャイムと言って、誰かが来たことを教えてくれる装置なんだ」
後で音量を少し小さくしておこう。僕は玄関の方へと歩みを進めドアを開ける。
「おはようごぜいます、松武さん」
「おはようございます、大家さん」
少しなまりのある50歳ほどの恰幅の良い男性がやって来て僕に挨拶をし、僕も頭を下げ挨拶を返す。このアパートの大家をしている黒金さんだ。
「家賃の集金に来たんですが……どんな感じですかねぇ、いやね、今日払ってもらえなかったら、規約的にマズくてね、せめて1ヶ月分の5万だけでも払ってもらえれば期限を延ばせるんでやすがねぇ……」
黒金さんは僕に気を使ってるようだ。今日までに払えなかったら、僕を追い出さなくてはならない規約になってる。
今までも同様のことが何度かあったらしく、やはりそれは気持ちの良いものであるはずがない。でも、間に合った……。
「黒金さん、これを……」
僕は黒金さんに滞納分と今月の分の家賃、20万円を差し出した。
「おおっ、金の工面が出来たんでやすね、いやー、良かった良かった」
黒金さんは安心した様子で顔を綻ばせる。
「シオン、この人は……?」
イルミは僕の背後から顔を覗かせる。
「このアパートの大家をしている黒金さんだよ」
「初めまして……オジチャン……」
教えてないのに挨拶出来たぞ……おじちゃん呼びは少し気になるが、まあ、黒金さんも悪くは思わない、と思いたい。
「ありゃ、またこれは随分可愛い子だね、凄い髪の色してるけど、コスプレイヤーってやつかの? 松武さんの彼女?」
「ち、違いますよ! えと……親戚……そう、親戚の子なんですよ!」
僕は顔を真っ赤にしてうろたえて否定する。
「おお、こりゃ失礼、では、また来月もおねげえしますよ」
黒金さんはそそくさと僕の部屋を後にし、次の集金に向かった。
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