12話 イルミと料理
次話は21時10分投稿予定です。
しばらく歩き続け僕の住んでいるアパートへと到着する。
「ここが僕の住んでいるアパートだよ、少し古いけど」
「ナンカ、モウスグ崩れそう……」
「うっ! 確かにあちこちグラグラして不安になる時があるけど、まだ大丈夫と大家さんは言っていたから、まだ崩れないさ」
「ホント、ジャア、安心ダネ……」
本当に大丈夫かは怪しいものがある。お金が貯まったら、やはり一戸建てが欲しいな。まだ当分先だろうけど。
階段を上り、奥に向かい、部屋の鍵を開ける。
「久しぶりに帰ってきた気がするな。電気をつけるから少し待っててくれ」
「良いよ〜」
僕は壁のスイッチを押し、部屋の電気をつける。
「しまった。部屋を全く片づけてなかった……」
部屋には空き缶やカップ麺の残骸、雑誌などが散乱していた。とてもじゃないが人に見せられる部屋じゃあないな。
「ホホ〜ウ……コレガ、シオンの生活している場所なんだね、ドレドレ……」
イルミは空き缶や雑誌を手に取り興味深そうに眺め始めた。
「うわーっ! ちょっと待ってくれ! 微妙に恥ずかしいんだけど!」
「ア……オカマイナク……」
イルミは頭だけを振り向き、得意げにサムズアップを僕にしてみせる。その目は秘密を探ろうと好奇に満ちた眼差しだった。
いかん! このままじゃ、マズいものまで発見されてしまう! 僕だって女の子に見られたくないものが3つや4つはあるんだ!
「よ、よし、今からさっそくトンカツを作ってあげよう!」
僕はイルミの関心を料理の方に向けようとしてみる。
「ト、トンカツ……ソウダッタ、ご飯が食べれるんだった。ソレジャア、頼もうかな……」
よし、成功だ。実際、お腹は空いたし料理の様子を見せてみたいのもあるからな、少し張り切って作ってみよう。
僕は米を洗い、水を入れて炊飯器のスイッチを押す。そのあと、味噌汁を作るため鍋に水を貯めて火にかける。
「オオ〜、ナンカ楽しそう……ワタシも一緒に料理して良いかな……?」
イルミは目を輝かせワクワクしている。
「もちろんだ、助かるよ。それじゃ、隣の棚を開けて味噌汁の素っていう袋があるから、それを持ってきて欲しい」
「任された〜」
イルミは軽快な足取りで棚を開き、味噌汁の素を手に取り持ってきてくれた。それを1パック鍋に入れるように頼み、僕はその間に小麦粉、卵、パン粉の用意をしトンカツを揚げる準備をする。
「ネ、シオン……次はどうしようか……?」
「よし、次は、豚肉に衣をつけていこう。まずはやり方を見せるから」
僕は豚肉に小麦粉をまぶし、溶き卵を潜らせ、パン粉をつけていく。
「オ、オオ〜……お肉が白く、黄色く、また白くなった……。面白そう、今度はワタシにヤラセテ〜」
イルミは両手をグーにし、目をキラキラさせて僕にせがんできた。
「ああ、頼んだよ、イルミ」
僕はイルミの作業を見守りながら鍋の様子をうかがう。大分煮立ってきたようだ。僕は鍋にタマネギ、ワカメ、豆腐を放り込み、味噌を溶かし入れる。
「ネネ、シオン、コンナモノカナ……」
イルミは衣をつけた豚肉を見せてきた。
……僕より上手い……今初めてしたばかりだというのに。
「へ、へえー、初めてにしては、凄く上手じゃあないか……」
僕は動揺を悟られないように僅かに尊大に振る舞う。
嬉しいことではあるが、何もかもあっという間に追い越されるかもと思うと内心、少し対抗意識が生まれてきたようだ。張り合ってどうするんだと突っ込まれそうだけど。
「フフフ……シオンから焦りを感じるよ……ワタシがアンマリに上手なもんだから動揺してるのかな……?」
イルミは僕の動揺を見破り、またもやドヤ顔をしている。
「バ、バレた!? おかしいな……気取られないように話したつもりなんだけど、実は僕の心、読めてるんじゃあないか?」
「顔と動きに出るから、トテモ分かりやすいよ……」
「な、なんてこった……」
僕はうろたえ、その様子を見てイルミは優しく微笑んでくれていた。
……こんな時間は初めてだ……女の子と一緒に料理をし、談笑しながら過ごすなんて。凄く楽しいし、安らぐし、満たされる、この感覚……。
少しオーバーだろうか? でも、改めて意識すると、沸き上がる高揚感と安堵感、満足感と全能感で一杯になりそうになる。
僕は舞い上がる自分を落ち着かせながら、イルミと料理を再開する。
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