狙われてる?
我に返り誰かに見られていないか周りを見渡した。みんな酔っているし、あまり周りを見ていなさそうではあるが大丈夫だろうか…。とりあえずその場を後にしてすぐに帰路についた。
翌日、会社は休みなので昼過ぎまで寝ていた。起きてからは、忘れないうちに昨日のことをパソコンにまとめる。中西さんの飲んでいたお酒や食べ物、趣味、そして秘書の小向さんについても。最後のあのキスは何だったんだろう…。嫌われるよりは好かれる方がいいけど、中西さんともすごく親しそうだったし…。誰とまでは聞いていないが、役員と秘書が不倫しているという話はよく耳にするから巻き込まれないように注意しないと。
月曜日、出社後メールのチェックなどを済ませてから中西さんへのメッセージを考える。うちの会社は全社員チャットツールを入れているので割と気軽に連絡が取れる。総会でのお礼とゴルフに行くって言っていたのでどうだったか聞きつつ返信を強要しない感じにまとめる。中西さんに送った後、小向さんにもお礼を送ろうと思いメッセージを考えていると、中西さんの方からメッセージが届いた。「金曜日はありがとう。中西さんも楽しかったって言ってたよ。また一緒にご飯でも行きましょう」可もなく不可もないような内容…。まぁいいか。向こうが何もアクションを起こさない限りこちらは動かずで。可もなく不可もない内容でこちらも返事をした。中西さんからは「話せて楽しかったよ。今度ゴルフも一緒に行こう」と返信があった。夕方、人事部長と廊下ですれ違うと「中西さんから聞いたよ。総会の準備で大活躍だったそうだな」と声をかけられた。中西さんから話が行くなんて思ってもみなかったし、こんなに早く話が広がるのにも驚いた。「いえ、とんでもないです。みんなの協力があってのことです」こういう時、苦労話をして自分を売り込むことが出来ない。ライバルを減らすためには自分のことを売り込んだ方がいいんだろうけど、そういうやり方は好きじゃない。「あはは、そういうと思ったよ」前に人事部長にも「もっと自分を売り込め」と言われたことがあった。
数日後、総会の準備をしたメンバーで打ち上げを行った。発注ミスを助けたり、当日の搬入トラブルを解決したりと株が上がりつつも妬まれているようでもあった。しばらく談笑していると人事部長が現れた。打ち上げには顔を出すのが決まりらしい。準備や片付けに関する労いの言葉をいただき乾杯。あとの予定が入っているようで、部長は1杯だけ飲んですぐに帰って行った。特別何かを言われるわけでもなく安心した。みんな秘書課との繋がりを作ろうと小向さんを中心に会話をしている感じだった。俺はこの前のこともあり、少し距離を取って様子見をしていた。1次会が終わり、2次会に行く話になっていたが、「俺はここで!」と帰ることにした。家の方角へ歩いていると後ろから走ってくる足音と共に肩を叩かれた。振り向くと小向さんがいた。
「え?2次会行かないんですか?」と聞くと
「みんなに話しかけられすぎて疲れちゃったから辞めた~」
きっと2次会でも小向さんを中心に話すのが続くんだろうなとは予想がついた。
「ねぇ、1杯だけ飲みなおさない?」
1杯だけならいいかと、承諾し近くのお店に入った。カウンターしか空いていなかったので横並びに座ったが、なんだか距離が近い。そういえば中西さんからすぐに酔うって言っていたな…。1次会でお酒飲んでいたし、酔っているのか…。肩が触れそうな距離に来て話しかけられる。色恋に持っていく気がないから勘違いされないようにしないと。飲み物とつまみを頼んだ。相変わらず距離が近いまま乾杯。
「お休みの日は何してるの?」と聞かれた。誘われないようにしないと。
「ジム行ったり出かけていることが多いですね~」予定がある感じにしたが
「へ~彼女とかいるの?」核心を突く質問をされた…。
「あ、はい、います」本当は数か月前に別れているけど…。ここでいないって言ったら確実に話が進んでいってしまう。
「な~んだ、いるんだ、残念」本心かわからないが、諦めてくれたかな。そもそも本気で狙われていたのかすらわからないが。その後は彼女のことを根掘り葉掘り聞かれた。誰にも彼女と別れたということは言っていなかったので、このままいるという体でしばらくはやり過ごすしかないな。本当に1杯で帰りたかったので、適当な理由をつけてお会計を済ませた。家が近いから歩いて帰ると言っているが、夜も遅いしまだ酔っぱらっているみたいだし、小向さんの自宅の近くまで送ることにした。マンションの前で止まると
「うち、ここなの…」
「あ、じゃぁおやすみなさい」と立ち去ろうとすると腕を掴まれた。
「少し上がっていかない?」
彼女がいるといった男に何を言ってるんだこの人は!?
「小向さん酔っぱらいすぎですよ~、家帰ったらお水飲んで早く休んでくださいね」と言って手を離させマンションに向かわせるように背中を押した。
「はい、は~い」と少しヘラヘラして見せてマンションへと入って行った。
何か企んでいるんだろうか…。俺は足早に自宅へと帰った。