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サムライ
「嫌だろうが、おれとてすきでここに来たわけではない。道に迷ってしまってな。山でうかつに歩くと、ひどいことになると思っていたら、この小屋がみえた。てっきり人はいないものかと思ったのに・・・・。おまえ、いくつだ?」
「・・・じき、九つになる」
「名はなんという?」
「・・・・」
「なんだ。言えないのか?」
「あんたが山の妖じゃねえってわかったら言う」
「アヤカシ?なんだ、おまえ、一人で残されて心細いのか?」
「あんた、お侍だろ。 ―― そんな刀まだぶらさげてるのは、ザントウってやつか、アダウチっていうのしかいねえから、『かかわるな』って、じいちゃんが言った」
男が腰にさした二本の刀をにらむ。
「ふん、おれの、・・・まあ、いい。おまえには、アヤカシもサムライもおなじということか。それなら、―― 」
侍の目が、こどもをとおりすぎたむこうにそそがれた。
『 おまえ、おれのことそのアヤカシだと、おもったな? 』
その声にぞっとしてこどもがあわてて振り返ると、むこうにもうひとり、 侍 が立っていた。